テイキングサイド・政治と芸術、倫理とビジネス・サクセス、司法取引。重いテーマを突き付ける劇的なリーガル・サスペンスです。
作:ロナルド・ハーウッド、ドレッサー、戦場のピアニスト
演出:行定 勲(ゆきさだ いさお) 、パレード、世界の中心で愛を叫ぶ
音響:長野朋美
美術:二村周作
キャスト
筧 利夫(かけい としお) /アーノルド少佐(非ナチ化審理を行う連合軍将校)
福田 沙紀(ふくだ さき) /エンミ・シュトラウベ(ナチスに抵抗した父を持つドイツ人)
小島 聖(こじま ひじり) /タマーラ・ザックス(収容所で没したユダヤ人ピアニストの未亡人)
小林 隆(こばやし たかし) /ヘルムート・ローデ(元ベルリンフィルの第2ヴァイオリン)
鈴木 亮平(すずき りょうへい) /ディヴィッド・ウィルズ中尉(アーノルド少佐の部下)
平 幹二朗(ひら みきじろう) /ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(戦中にも活躍したカリスマ指揮者)
あらすじ
1946年、連合国の将校・スティーブ・アーノルドは、敗戦国ドイツにおいて、ナチスへの協力者を探索し訴追するため、捕虜の尋問を行っていた。芸術を理解しない実利主義者のアーノルドに、秘書のエンミや部下のデイビッドは批判的な思いを抱きながらも、仕事として非ナチ化審理に当たっていた。現在、アーノルドが追いつめている相手は、ナチスにも重用されていたカリスマ指揮者のフルトヴェングラーだ。証人として呼んだザックス夫人と元ヴァイオリニストのローデは、フルトヴェングラーの芸術家としての力と芸術意外に恬淡とした生き様に、無罪を主張するが…。
筧さんと平さんの対決ですから、絶対に見逃せません。検察官が筧さん、検札事務官が福田さん、鈴木さん、証人が小島さん、小林さん、被告が平さんの構図です。BGMはベートーベンにブルックナー、装置は爆撃により破壊されたビルのうちの使える一室。
筧さんはずっと舞台上で膨大な台詞を機関銃の乱射のように発します。証人のローゲの心への破壊力は凄まじく、とうとう、大物の被告フルトヴェングラーまでも追いつめて落としてしまいます。しかし、この戯曲の一筋縄ではいかないところは、偉大な芸術家を尊敬し、その才を惜しむあまり、法の適用の結果が変わることが胡散臭く、観客の両親や芸術至上主義のような感情に揺さぶりをかけることでしょうか。
何より戦後ですから、登場人物は誰ひとり戦争とは無縁でなく、戦争中の体験が現在の行動を規定し、あるいは影を落とし、潜在意識を縛っています。どの人物に対しても批判的な感情を持つことをためらわずにはいられません。
結果的にフルトヴェングラーは審理中の2年間、活動停止せざるをえなくなり、カラヤンとの決定的な差になってしまいます。年齢的に60歳の2年は大きかったと言わざるをえません。
平幹さんは分かりやすいキャラクターであられました。↓よろしかったらポチッとお願いしますm(_ _)m。
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解説
公式からお借りしました。
1940年代ドイツ音楽界では、2人の指揮者が台頭していました。一人は「奇跡のカラヤン」と呼ばれ、時代の旋風を巻き起こした30歳そこそこの若き青年指揮者カラヤン。もう一人は、ナチスドイツ総統ヒトラーから寵愛を受ける60歳を目前に控えたマエストロ、フルトヴェングラー。彼はこの新進スターのカラヤンに激しく嫉妬しつつも、常に指揮台に立ち、天下のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を手中に収めていた。そして当時ドイツ中から喝采を浴び、ヨーロッパ最高のドイツ人指揮者と称される偉大な芸術家だったのです。
しかし戦後、フルトヴェングラーの立場は一変。音楽界の英雄から戦犯扱いとなり、ナチス党員として裁判にかけられてしまいました。執拗な追及を受けながら、音楽を愛するが故、国を愛するが故、ただそのために貢献したはずの彼は、激しく糾弾される中で、自らの真実さえ分からなくなっていきました。政治に翻弄された偉大な芸術家、フルトヴェングラーの悲運を描く傑作戯曲の舞台化です。
どちらも演劇キャリアに絶対なる信頼と実績を持つ実力者、
彼らにハーウッドの世界を持ち込む行定勲の新たな挑戦
劇団☆新感線や第三舞台を経て人気を誇る舞台界の寵児、筧利夫が演じるのは、ナチスを憎悪し、フルトヴェングラーを追い詰める米軍少佐・アーノルド。すさまじい台詞の応酬で知られるつかこうへい作品のキャリアも積み、今回演じるアーノルド少佐が圧倒的台詞でフルトヴェングラーを追いつめる激しさは、望みうる最高のキャスティングと言えるでしょう。
「戦場のピアニスト」ではアカデミー賞も獲得、世界的作家として映画界、演劇界の輝かしいキャリアを持つR・ハーウッドの代表作は、自身の体験に因る「ドレッサー」でしょう。ロンドンでオリヴィエ賞、ニューヨークではトニー賞を受賞、映画化もされました。戦争の恐怖に怯えるシェイクスピア劇団の舞台裏を、人間のもつ儚さや滑稽さ、老いといった宿命などをもって描いた作品。本作『テイキング
サイド』も戦争がもたらした悲劇を根底に置いています。ナチ政権下のドイツで国際的な芸術活動を行っていたアーティストが、制約と抑圧の中、プロパガンダ活動への関わりを強いられ、戦争が終わった途端に戦犯扱いされるという内容を迫力あるテンポで描いています。
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