エレジー~父の夢は舞う~風に向かって立つ樫の木・平幹さまの圧倒的な役者力・男の熾火に迷います!
23日、草津芸術創造館で拝見。
エレジー~父の夢は舞う~
作=清水邦夫
演出=西川信廣
美術=朝倉 摂
出演
平幹二朗 吉村平吉
坂部文昭 吉村右太・その弟
山本郁子 中平塩子・女優・平吉の息子亡草平の妻
角替和枝 中平敏子・塩子の叔母
大沢健 河原清二・塩子の求婚者・医師
日経の劇評
あらすじ
偏屈でがんこな老父・平吉(平幹二朗)は凧の研究家であり、昔は高校の生物教師だった。平吉の家。八年前に平吉が頭金を出し、息子の草平がローンを支払うということで買った古家だが、その後、草平は平吉の意にそぐわない女優の塩子(山本郁子)を伴い、家を出た。平吉が死ねば、家は草平の手に入るため、家を離れた後も草平はローンを払い続けた。草平の急死で浮上した残りのローンの支払い問題により、大きく変化することになる。
ある日、ローンの督促状を持って塩子が平吉の家にやってくる。平吉と塩子の深刻な対立に、平吉の弟(坂部文昭)、塩子の伯母(角替和枝)、塩子に求婚する医師(大沢健)が加わり、金銭欲と愛憎が交錯しとんでもない展開に…。
老人のお役を演じられながら艶めく平幹さまの男の熅(うずみび)に震えます。↓よろしかったらポチッとお願いしますm(_ _)m。
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「家族」とは、「老い」とは、「きずな」とは、今の時代を先取りするような冴えわたる筆力で1983年に第35回読売文学賞を受賞した清水邦夫の傑作戯曲。笑いと悲しみの中で、親子や兄弟関係をはじめ様々な人間関係のゆがみが浮かび上がる。1986年の『夢去りて、オルフェ』以来の「清水作品」主演となる平幹二朗、新たなる『エレジー』が再び幕を開ける。
装置は朝倉摂さんのもの。舞台下手が平吉の居間、上手は平吉の心象風景の電車の架線と踏切(血の婚礼でもありましたね。あれです。)、鮮やかな色彩の凧が舞台にアクセントを添えている。
老父は失った息子との関係に悔いを持ち続けている。弟は、何かにつけて兄を頼る小心者。息子の元内縁の妻は女優で、思うように役作りができず、アルコール中毒になったこともある。塩子と暮らす叔母は、平吉の家で塩子たちと暮らすことを目論んでいる俗物。遠縁の河原は塩子に求婚している。それぞれが他人に不信感、自分にも自信喪失し、心は不健康でちょっとしたことでぶち切れ、他者を徹底的に傷つける。
物語はシニカルでブラックな笑いに満ち満ちている。日常感ありあり、下世話な会話で進む愉快なシチュエーションコメディの様子を呈しながら、老いらくのほのかな恋心が大混乱の俎上に浮かび上がったときから、物語は急展開を見せる。嵐が吹き荒れるなか、平吉は心の筋を一本シャキーンと通す。塩子と心を通わせるという選択肢はなかったのか。
くたびれた洋服、普段着の和服の着流しを着た老人の姿で舞台上に立つ平さんの俳優オーラの凄いこと。ただものの老人にはとうてい見えない姿勢、目力、渋い光沢が備わった厳父にして心に艶をもつ男である。朗々とした台詞廻し、ダイアローグにあっては辺りを払う威厳、モノローグにあっては、静かに生きてきた老人ながら、運命的な大悲劇と何ら変わらない重みで圧倒する。
終幕には、カタルシスも大団円もなかったが、敗北感だけがのこるのではなく、救いが確かにあった。孤独に耐え、悔いと向き合い、自己を律して生きてきたものは、来る悲劇にも耐える力を培っているに違いないという展望だろうか。老いと孤独に立ち向かう勇気が得られる平さんの芸風がそう感じさせてくれるのか。
劇評では平幹さん以外の役者さんが堅実だが地味というのがありました。山本さんは、1983年頃の小劇団の女優さんというイメージでよいように思いました。先日のキネマの天地の女優さんたちとは別の生物と考えられます。
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