十二夜 12th night ご都合主義は大人の特権
あらすじ
いつどことも知れない海辺の村に打ち上げられた難破船。浜に旅の一座が賑やかにやってきて、粗末な仮設舞台で喜劇を演じる。はい、ポスターのとおりです。
ヴァイオラは、嵐に遭って船が難破し、イリリアの浜で、船長に助けられた。双子の兄セバスチャンは行方知れず。一人ぼっちになったヴァイオラは、当地を治めるオーシーノ公爵に、シザーリオという名の少年として仕える。
その公爵は、伯爵家の令嬢オリヴィアに夢中だが、オリヴィアは亡き兄の喪に服し、公爵の求婚を断り続けていた。そこで公爵は、美しい小姓・シザーリオをオリヴィアの許へ恋の使者として送る。密かに公爵を慕うヴァイオラの心は痛む。
何とオリビアはシザーリオに一目ぼれしてしまったので話はややこしくなる。
他にオリビアの求婚者は、うぬぼれ屋の執事、腰抜けの金満家の二人がいる。そこに飲んだくれの叔父、知恵者の侍女、全ての男女を冷めた目で見ているお抱えの道化と役者は多彩だ。
そして、死んだと思われていたセバスチャンが、海賊に助けられて村に現れた。セバスチャンの登場で、片想いの連鎖はめでたくおさまり、劇は大団円を迎える。
一座は何処かに旅立つ。
こんなお芝居でした
串田和美氏(潤色・演出・美術・衣装・出演(マルヴォーリオ))が、松岡和子氏訳の戯曲をベースに、ひとつひとつの台詞をデフォルメし、順序を少しシャッフルし、挿入歌を加える潤色がされている。全体を海辺の仮設舞台で演じられるというメタシアター形式で、始まりが終わりと循環する。役者は、お役で出ていないときには楽器を奏でることもある。
演出意図としては、おとぎ話のようなストーリーでありながら、人生の真実をビターに提示するものとなっている。祝祭の後の寂寥感、命懸けかと思われた恋も、現実に順応してあっけなくまとまり、予定調和から疎外された者はいじめられっぱなしで終わる。大人の恋とはこんなもの。(^^)v
見どころ聞きどころは、松たか子さん演じるヴァイオラが、自分の中にいる行方不明の兄に語りかけ、兄として応えるモノローグ場面だ。全く同じ台詞が、二人の再会場面で、今度はダイアローグとしてリプライズされる。同じ衣裳で同じ台詞を二度繰り返すだけであるが、ダミーも人形も使わず、全く観客の想像力に委ねるプリンシプルな演出に拍手喝采だ。
妹が亡くなった兄と同一化しようと姿を変えるという思いの深さが胸を打つ。
つのだたかし氏の猥雑で賑やかなのにもの悲しい音楽が効果的だ。石丸さんが歌上手なのは当然として、笹野さんのフェステの歌唱も凄味があった。
石丸さんのファンサービスシーンあります(見た者だけの特典)!↓よろしかったらポチッとお願いしますm(_ _)m。
串田和美氏以外は全て好演。オーシーノ公爵は品よくノーテンキ、オリビア姫はクールビューティながら思いっきり変、おじさま方もカッコよく、ジャグリングのお兄さん、バンドの皆さんは上々。
しかし、マルヴォーリオは、通常、一座の座頭が演じるお役なので、演出家さんには荷が重かったことは否めない。お風邪ならば完治なさって、ヴォイストレーニングをしなおして出直してください。
好みの問題として、十二夜は、女主人公が兄を演じていることが切ないので、メタシアター形式にしてしまうと、その痛みが半減する。また、貴種恋愛譚を演じる主要登場人物群と、身分はあっても品性に欠けるおじさん方との対比が際立っている方が良いように思うが、串田演出においてはフラットだった。絶〜対、張り出し舞台で二階建てと予測していたが、演出家さんは自己模倣はなさらない。さすが。
串田演出はこのような特徴であるという基礎知識は持ち合わせており、想定内、想定内。
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コメント
>麗さま
夏夢と十二夜は傑作ですから、演出家さんのイマジネーションを掻き立てるのか、さまざまな翻案がありますね。夏夢は成功しやすく十二夜は難しいとされています。
楽しければええやんと逃げを打っているところが、座元と演出家さんに優しいです。
あー、土日、マチソワ生活したい!
投稿: とみ | 2011年1月27日 (木) 08時30分
とみさんの詳細感想。
お待ちしておりました!!
松さんの二役は、ほんと見事でしたね。
>行方不明の兄に語りかけ、兄として応えるモノローグ場面
この場面は、ほんと素晴らしかったです。
双子の兄妹なんだけど、恋人に話しかけているような雰囲気もあり、
まさに「一心同体」という感じでした。
>串田和美氏以外は全て好演。
あははは!
同感ですねぇ。
あの”しゃがれ声”はセリフ聞き取れないですよねぇ。
マルヴォーリオはオイシイ役柄なのに、、、残念です。(笑)
とはいえ、ニワトリの格好で登場した時は、
やっぱり笑ってしまいました。
投稿: 麗 | 2011年1月26日 (水) 23時27分