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2009年12月31日 (木)

當る寅歳 吉例顔見世興行 in 京都四條南座 イッキ書き

南座
これを書いてしまわなければ年は越せない。

京都四條南座 京の年中行事
當る寅歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎


昼の部
第一 佐々木高綱(ささきたかつな)

 佐々木高綱  梅玉
 馬飼子之介  翫雀
 佐々木小太郎定重  愛之助
 鹿島与一  薪車
 高綱娘薄衣  梅枝
 高野の僧智山  東蔵
 子之介姉おみの  秀太郎

朝一番は梅玉丈の新歌舞伎が定番。よくかかる佐々木高綱だが、自分を評価しない社会を恨む勘違い野郎が徹底的にきらいなおとみとしては、主人公に共感を持ちにくい演目だ。社会が変わったから君を必要としていないんだよ高綱くん。
梅玉丈、癇性のお殿様がお似合いだが、このお役も、他に考えられないくらいはまり役だ。しかも、周りの人物、翫雀丈の篤実な馬子、愛之助丈の円満な人格の甥御、行儀のよい梅枝丈の娘…皆さん好演で、高綱の頑迷固陋でしかも高潔なキャラクターが際立って良い舞台だった。

第二 一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
    檜垣/奥殿

 一條大蔵長成  菊五郎
 吉岡鬼次郎  松緑
 女房お京  菊之助
 勘解由女房鳴瀬  吉弥
 八剣勘解由  團蔵
 常盤御前  時蔵

菊五郎丈の大藏卿は、かわいらしく阿呆すぎなく鋭すぎなく、企み過ぎなく、上品で豪胆で程がよくワタクシ的には好みだ。松緑丈の吉岡鬼次郎と菊之助丈のお京の夫婦は映り、動き、覇気、若々しく忠義一途で、物語をダイナミックに引っ張る。
太刀持ちを務める少女小姓の梅丸ちゃん。そこだけ梅の蕾がほころんだような匂やかなたたずまいに寿命が延びる。
一方、大蔵卿、吉岡夫婦、勘解由、常盤それぞれの思惑を、取り成したり、持ち上げたり、説明したり、阿呆に付き合ってあげたり、いさめたり、良かれと思われることはなんでも率先してなさる鳴瀬。幾度か拝見しているが、吉弥丈の鳴瀬抜きには一条大蔵卿はしまらない。夫のあまりの不忠を詫びると自害する律儀さも吉弥丈の守備範囲。
時蔵丈の常盤御前は、気位が高くお綺麗ではかなげで素敵。
幕切れは、きら~んとした表情と高笑いから、だんだんと阿呆の表情とアホ笑いになられる菊五郎丈に、やんややんや。

第三 お祭り(おまつり)
 鳶頭松吉  仁左衛門

「待ってましたっ!」以外の言葉は無用。「待ってましたっ!」の連呼が響く。実はこれまで大向こうさん、南座らしく大人シメだったから、雲を吹き飛ばすよう。また、大向こうの会に女性が入会されているようだ。これも南座らしく黄色い声も似つかわしい。
芸者も豆頭もなしで、頭と若いものだけの所作なのでさわやかこの上ない。仁三郎さんええとこ見せたはります(^^♪名題になられてからしばらくとんぼを切っているのが拝見できなかったからうれしい。ガタイのいい松次郎さんに目が行くが、皆さんすてきっ!

仁左衛門さんの色っぽいこと、かっこええこと、粋、いなせ、洒脱、五枚銀杏の首抜きが小顔に映えて、卒倒もの。ほろ酔い加減の割には御挨拶が丁寧なような気がするが、シャイな表情がかわいらしくお人柄がしのばれる。

第四 恋飛脚大和往来 玩辞楼十二曲の内
    封印切(ふういんきり)新町井筒屋の場

 亀屋忠兵衛  藤十郎
 傾城梅川  秀太郎
 槌屋治右衛門  左團次
 井筒屋おえん  玉三郎
 丹波屋八右衛門  仁左衛門

井筒屋の身代を仕切るのおえんさんは玉様、その御亭主の槌屋治右衛門は左團次丈。井筒屋が吉原一の豪勢な揚屋に見えまする。梅川も端女郎ではなく全盛の傾城かもと思ってしまう。忠様が山城屋、梅川が秀太郎丈、八っつぁんが仁左様と、お芝居はこってり上方風に進む。仁左様の八っつぁんは、染忠が相手のときに拝見したことあるが、一方的ないじめだった。今回は上方二枚目の最高峰が相手なので、好敵手とマジの対決。台詞とは思えないリアリティ、対決の割には緊迫感が皆無、おかしみ、えらいこっちゃ…。大坂言葉ですな。
こらえ性のないらぶりーな藤十郎丈といじらしくきゅーとな秀太郎丈。みょーにまともな八っつぁん。よろしいなぁ。(愛之助丈、この路線でお頼みします。)

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南座
夜の部
第一 天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう)
    時平の七笑

 藤原時平  我當
 判官代輝国  進之介
 頭の定岡  亀三郎
 藤原宿祢  亀寿
 三好清貫  薪車
 春藤玄蕃  亀鶴
 左中弁希世  竹三郎
 菅原道真  彦三郎

謀反が発覚した道真(彦三郎丈)を糾弾する面々(亀三郎丈・亀寿丈・薪車丈)。南座のスケールにはでかすぎる声の亀三郎丈、その声量とボリュームを揃える弟御、薪車丈、頑張れ!道真方の判官代輝国(進之介丈)も、時平方の春藤玄蕃(亀鶴丈)さんもバランスがよろしい。
そこへ登場する時平公!
菅原伝授手習鑑の時平さんは藍隈で、妖術でも遣いそうな不気味さ(赤い舌が怖すぎ)だが、この演目では白塗りの上品なお公卿さん。しかも、かわいいかわいいお稚児さんに手を引かれてご登場の温厚そうなおもざし。
また、菅公のお弟子さんのお子ちゃまも登場。市井の子どもに手習をなさっていたとは思えないがそこがお芝居。みんな地元のお子さんたちかな。吉太朗ちゃんに続いて欲しいな。

そして、舞台中央の階段に座り込んでいよいよ本題。はじめ、静かに、続いてふつふつとわきあがり、そして全開のパワーで爆発する悪人の哄笑。文楽の大夫さん並みのパワーが必要なくだりだ。拍手と笑いのうちに幕。幕がしまっても笑いがやまないところがポイント。

第ニ 新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)
 僧智籌実は土蜘の精  菊五郎
 源頼光  時蔵
 侍女胡蝶  菊之助
 渡辺源次綱  愛之助
 坂田公時  権十郎
 碓井貞光  男女蔵
 ト部季武  亀三郎
 巫子榊  梅枝
 番卒次郎  團蔵
 番卒藤内  松緑
 番卒太郎  翫雀
 平井保昌  梅玉

吉右衛門丈で2度拝見したはず。玉様の『蜘蛛絲梓弦』も2度。亀治郎丈でも拝見。
伏せっている頼光を姿を変えて襲いに来た土蜘蛛が、武勇優れた家来たちに退治される。
みなさん姿がよろしく、お声も涼やか。とりわけ、健気さ、可愛らしさ、凛々しさで観客の視線が釘付けになさっておられるのが、お小姓(少年)の梅丸ちゃん。

胡蝶も下がらせて頼光が寝てしまうと……
照明もつかず、音もしない中、スススススっと花道をすべるように進み出てくる僧・智籌。
「ノウノウ我が君、ご油断あるな!」大人の武士たちより先に、僧の怪しい影に気付いた太刀持ちの声で雰囲気が一変する。
実はこのお声まで、ワタクシも落ちてました(;´д`)トホホ…
次は、山神で観たいぞ。目ざましのお役はぜひぜひ梅丸ちゃんで。

間狂言は豪華。ドタバタ劇を翫雀丈、松緑丈、團蔵丈、梅枝丈でみせるのは、顔見世ならでは。石造は豆小姓が真似をしていて皆をからかっていた。ここでもお子ちゃまが場をさらう。

終幕は、保昌(梅玉丈)と四天王(愛之助、権十郎、男女蔵、亀三郎丈)が、本性を現した土蜘と立ち回る。。。亀三郎さん、また、全体の音量のつまみまわしておられます。ええこっちゃ。
実は、おとみには、松羽目昏睡症候群という持病があり、勧進帳、紅葉狩、土蜘蛛、船弁慶、身替座禅等々…。記憶がモザイク状になる。もっともあぶないのが紅葉狩と土蜘蛛で舞台上で主人公たちが睡魔に襲われているパターンだ。梅丸ちゃん、亀三郎丈に感謝。

第三 助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)
    三浦屋格子先の場

 花川戸助六  仁左衛門
 三浦屋揚巻  玉三郎
 くわんぺら門兵衛  左團次
 通人里暁  翫雀
 福山のかつぎ  松緑
 三浦屋白玉  菊之助
 朝顔仙平  愛之助
 三浦屋傾城八重衣  吉弥
      同 浮橋  宗之助
      同 愛染  亀鶴
 遣手おたつ  竹三郎
 若衆艶之丞  團蔵
 母満江  東蔵
 髭の意休  我當
 白酒売新兵衛  藤十郎

仁左様襲名以来、ずっとずっともいっぺん見たいと思い続けていた演目だ。花魁道中は省略され、板付きで幕が切って落とされる。
舞台上ギュウギュウに居並ぶ美男美女。南座は狭い。それでも、揚巻付き、白玉付きの禿、振袖新造、詰袖新造、番頭新造は区別がつく。玉様付きの禿たよりちゃん!かわいい!
心の準備ができていないところに揚巻さんの悪態の初音が始まる。さすがとしか言いようのない張り、意気地、心意気、風格、命懸けの恋、全盛の傾城とはこんなもの、これ以外は傾城と看板上げたらいけねえぜ。妹分の白玉さんは、気のいい素直な気性。熟年助六のときの性悪白玉さんの方が菊様には似合うように思う。見せ場少ない(ρ_;)

そこへ助六の登場。花道の七三で数々の見得を切ります。筆舌に尽くしがたいかっこよさ。優雅で洗練されていて愛嬌があって、劇場いっぱいに見得と見得の間には、劇場内をぐるりと見回す。仁左様の視線の先では卒倒女子多数のはず。

三浦屋の前にやって来た助六。
揚巻と白玉と、それぞれのお付の大勢は店に入っているけれど、まだまだ大勢店の前に美女が残っています。筆頭の傾城に吉弥丈。ちょっとお姉さんらしく、頭の回転も速く機知も人一倍、美しさでも群を抜いて…。いつもは右之助丈の定位置、いつか襲うぞと思うていたが、仁左様、玉様のときに実現してハッピー。

白酒売りは山城屋。のほほん、のんびり、かなりへたれ。上方のつっころばしには仇討ちは無縁のもんという雰囲気がはまりすぎ。股くぐりの足の長さの違いが笑いのソースになっているところも、この座組ならではの楽しさ。
『NINAGAWA十二夜』のサー・アンドルーの台詞回し、山城屋の顔を見た後手鏡を出して自分と見比べたり、「そっくり。だけど、私より若く見えるのが悔しい~」。。。翫雀丈、気を吐いておられた。

揚巻さんの再登場から先は、またまた、玉様自由自在。恋人をかばい、着物の影に助六を隠す。助六は揚巻の着物の中でぐっと耐える。(仁左様と玉様の美しさは、カメラも写しきれない。舞台写真はなんだか違った。)

第四 石橋(しゃっきょう)
 獅子の精  翫雀
 獅子の精  愛之助

上手の台の上では翫雀さんの白獅子、舞台中央には愛之助さんの赤獅子。
二人が並んで毛振りを始めるとまもなく雪がちらつき始めた。
最初はゆっくり。途中から回し方が加速してゆく。
豪快、パワフル、今年最後の舞台に相応しく、渾身の振りに感動。あーええもん見せてもらいました。

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コメント

>蘭鋳郎さま
コメントありがとうございます。一本で1エントリ立てられる濃い内容でした。自分のための走り書きになっています。御高覧いただけるようなしろものではございませぬ。
今年は玉様お忙しかったのでしょうね。歌舞伎座さよなら公演が終わられたら何かなさっていただることでしょう。
来年もよろしくお願い致します。

投稿: とみ | 2009年12月31日 (木) 23時46分

>スキップさま
>私は顔見世の感想年内アップはあきらめました。
お気持ちわかります。なかなか平日書けませんし、休日はもう次の観劇が…。
私もほとんど自分用のメモです。
本当に今年はお世話になりました。もう少し早め早めに動かないとあかんのですがついつい…。
2010年は上方で歌舞伎が例年より多くありますしたのしくなりそうですね。2010年もよろしくお願い致します。

投稿: とみ | 2009年12月31日 (木) 23時35分

おとみ様
いつもながら簡潔にして要を得た評、頭が下がります。
今回の「封印切」の忠様と八っつあんの応酬は実に見応えがありました。打てば響くとは、あのような舞台を言うのでしょうか。富十郎丈や我当丈の八っあんも素晴らしいですが、仁左衛門丈が八っつあんを勤めると藤十郎丈の乗りが違うように思います。
菊五郎丈の大蔵卿も結構でしたね。おっしゃる通り、必要以上にバカになっていないところが。
仁左衛門丈の鳶頭も、爽やかで結構でしたね。
昼の部は江戸から上方、新歌舞伎から古典まで、バラエティに富み、実に楽しませていただきました。

今年はお世話になり、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

投稿: 蘭鋳郎 | 2009年12月31日 (木) 22時01分

とみさま
私は顔見世の感想年内アップはあきらめました。
他にもあきらめたもの、たくさんありますが(笑)。

東西合同とはいうものの、上方の演目は上方の役者さんで、
お江戸はお江戸で、という座組が多いのが不満だったのですが
今回は、特に「封印切」などまさに東西合同で見応えありました。
吉太朗くんや梅丸くん、部屋子さんたちの活躍も目が離せませんでしたね。

今年はアフタートークばかりでなく、とみさんと並んで観劇させて
いただく機会にも恵まれ、本当にお世話になりました。ありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いいたします。
どうぞよいお年をお迎えください。

投稿: スキップ | 2009年12月31日 (木) 20時31分

>獅子丸さま
確かに省略しすぎだよね。頼光さん、上品な美貌だったぁ。時蔵丈の立役は久しぶりだった。

投稿: とみ | 2009年12月31日 (木) 17時35分

きょう、高綱みたいな退治するはずだったの。
だけど、きのう獅子丸が、シュラは省略した。

投稿: BlogPetの獅子丸 | 2009年12月31日 (木) 15時10分

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