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2009年7月 3日 (金)

桜姫〜清玄阿闍梨改始於南米版 in シアターコクーン・最も輝いた者が主演だ

コクーン
6月28日(日)、マチネを拝見。
「桜姫〜清玄阿闍梨改始於南米版
(せいげんあじゃりあらためなおしなんべいばん)」
作:四世鶴屋南北、脚本:長塚圭史、演出:串田和美
キャスト
マリア(桜姫)/大竹しのぶ、セルゲイ(清玄)/白井晃、ゴンザレス(権助)/中村勘三郎、イヴァ(長浦)/秋山菜津子、ココージオ(残月)/古田新太、イルモ(入間)/佐藤誓、墓守・孤児院長他/笹野高史他
あらすじ
上流社会に生まれながら左手が開かない16歳の娘マリアは、ある事情で修道院に入ることを決意し、聖職者セルゲイのもとへやってきた。セルゲイが祈ると、開かなかったマリアの手が開き、中から宝玉の片割れが現れた。驚愕するセルゲイ。
セルゲイは、16年前、衆道の相手ジョゼと心中を図り、ジョゼだけを死なせ生き残ったのだった。以来、大きな十字架を背負い、高徳の師として信徒の尊敬を集めている。自分の持っている宝玉の片割れと一致する玉を持っているマリアは、ジョゼの生まれ変わりと知り、因果の輪廻におののく。
しかし、マリアはセルゲイの事情などどうでもよい。1年前の15歳の暴動の夜、レイプされ子まで孕ませられた男ゴンザレスが忘れられない。偶然、ゴンザレスと出会い、密通する現場を見咎められ、上流社会から放逐されてしまう。セルゲイは、密通の相手は自分と偽りの名乗りを上げ、その後を追う。
下層社会へゴンザレスを追うマリア、マリアを追うセルゲイ。セルゲイと共に下層社会に転落したココとイヴァの夫婦。
流転のマリアをめぐって、色欲と流血の巷を彷徨う人間たちの行き着く果ては…。
こんなおしばいでした
歌舞伎の「桜姫東文章」は、四世鶴屋南北の傑作で、1970年代の坂東玉三郎丈の当たり役で、近年も、玉三郎丈、福助丈で上演されている。タイトルロールの桜姫が内包する神性と魔性、姫詞とばらがき詞、立役の清玄と権助の二役による脆弱な聖人と強かな悪党と、役者の二面性の妙味と荒唐無稽なジェットコースタードラマを楽しむものだ。
今回の現代版は、脚本に長塚圭史、演出に串田和美、キャストに各カンパニーの座頭級というか主演級をずらりと並べた綺羅星の才能のコンプレックスだ。

見始めて直ぐ、これはこれは「桜姫東文章」のプロットだけを借りた長塚圭史さんの一筋縄ではゆかないえらいこっちゃのお芝居と気付いた。
江戸時代の日本を近代の南米に翻案するのが大成功。仏教からキリスト教に宗旨替えすることにより、「まいっか、何でもあり」で済ませていたことがとてつもない罪悪となる。衆道は日本の仏教界では常識?だがあちらでは神に背く大罪だ。あちらの人生はただ一度で生まれ変わりはない。ここが大切。自殺を禁じ、ましてや心中という文化もない。つまり、セルゲイ(清玄)の罪悪感と恐れが飛躍的に重くなり、視覚的にも重い十字架をいつも背負っているという滑稽な姿で登場することとなる。生まれ変わりはないキリスト教の前提で考えると、マリアがジョゼの生まれ変わりと考えるのは哀れな妄想だ。
この贖罪の苦悩が一気にセルゲイを主演に押し上げた。この豪華メンバーのなかにあっても、台詞まわしのクリアーさが群を抜き、物語の芯となっておられた。
桜姫の名はチェリーではなくマリア。聖母の名が、聖職者セルゲイが追い求める女というのも象徴的だ。生まれたときから手が開かないということが嘘か真か分からないという台詞が周到に仕組んである。16歳に見えるのがセルゲイの妄想ということを示すためにも、大竹しのぶさんでなければならない。なぜ墓守2も演じられたのか不明。前世とされるジョゼは人形を使用。読めてきたぞ!

さて、歌舞伎では権助となるゴンザレスが勘三郎丈。現代劇で色悪を演じるには、キャラクターが違われるのか、珍しく壊滅的苦戦。舞台全体まで壊しかねないところだったが、台詞が何を言っているのか分からないことが幸いし、主題から遠いところで回っておられた。
ココ&イヴァの古田&秋山のカップルは、欲望に忠実に悪の道を走ろうとするが、酷い社会を泳ぎ切れなかった滑稽で愛すべきキャラクター。いい感じだ。超デブの着ぐるみと人間マングースの演技が素敵。
もともと登場人物も多く、話が飛躍し、様々な要因が綯い交ぜのお芝居に、長塚さんの生きることは原罪的なマインドまで混ぜられたのだから、えらいことになって収集がつかなくなるところ、白井さん、頑張っておられました。

エンディングは原作と異なり、次月につながる伏線で終了。桜姫の物語はエンドレスで続く。

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コメント

>みんみんさま
おそらく歌舞伎版が解決編になっているのでしょう。伏線が明らかになりますから、それからものをいうべきなんでしょう。ただ、役者さんが、「先月は、白井はどうだった」とかで笑いを取ったとき、許したらあきません。
見届けてくださいませ。

投稿: とみ | 2009年7月 6日 (月) 08時18分

とみさん♪
>生まれ変わりはないキリスト教の前提で考えると
そうですね、自殺・心中はありえないとは思いつきましたが、
輪廻転生もありませんでしたね、今気が付きました。
十分楽しめましたが、まだまだ掘り起こせば、何かが出てきそうで・・・。
来週、歌舞伎版も観て来ますが、それでまた感想が増えたり
違う印象を持つかもしれません。それもまた楽しみです。

投稿: みんみん | 2009年7月 6日 (月) 01時05分

>麗さま
受けましたか。7月とのつながりと輪廻を考えて橋之助丈を投入するべきと思います。
主演だけがダメだった芝居はあります。不思議ではないです。企画がダメだっただけで俳優さんの評価が地に落ちるものではありません。
でもでも、どんな状況でも、舞台は生き物ですから救世主は現れます。素晴らしいものを見せていただきました。

投稿: とみ | 2009年7月 5日 (日) 11時58分

>ぴかちゅうさま
雑食系は以外に少ないです。歌舞伎の隅田川都鳥ものが好きな方は間違いなくどん引きになります。どうして喧嘩売るのでしょう。驕りです。
不条理すれすれで魂の救済を描く長塚戯曲は、多少危うくても、つじつまが怪しくとも、志の高さに惹かれます。
今月の桜姫見届けてくださいませ。どう輪廻するのか見ものです。

投稿: とみ | 2009年7月 5日 (日) 11時47分

長塚さんの作品は「ドラクル」しか観たことがなく、今回も贖罪のテーマは共通性を感じました。南北の「桜姫」との著しいズレは何故なのだろうと、後半くらいからずっと観ながら違和感を引きずりました。帰宅の電車の中で筋書を読んでわかりました。串田さんのせいだったんですね。
>エンディングは原作と異なり、次月につながる伏線で終了......清玄と権助にあたる二人が残り、姿を消した桜姫がまた登場しという感じでしょうか(^^ゞ私はちょうど初日に観ることになります。2005年版の幕切れの解釈が今ひとつでしたので、今回はどうだろうというのが気になっているところです。

投稿: ぴかちゅう | 2009年7月 4日 (土) 23時08分

とみさんの感想、お待ちしておりましたー!

>衆道は日本の仏教界では常識?だがあちらでは神に背く大罪だ。
>自殺を禁じ、ましてや心中という文化もない。
そうか!私の中でなんかモヤモヤとしたモノが残ってたのは、まさしくコレです!(笑)
ゲイも心中も、さほど重要な出来事じゃないと感じていたので、
大きな十字架を背負ったセルゲイがとても大袈裟で、
自己陶酔した偽善者に見えたんです。
私のような無知人間には、分かり易い表現でしたが。(笑)
しかし宗教の違いというのは、感覚を鈍らせますね。

勘三郎さんの感想が、あまりにも的を得ていて、、、
苦笑しながら読ませてもらいました。(笑)

私的にも墓守の役割がよくわからなくて(?)状態でした。

投稿: 麗 | 2009年7月 4日 (土) 23時00分

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» 09/06/30 好きになれなかった現代版「桜姫」千穐楽 [ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記]
{/m_0216/} 午後から中野に出かけて数年来の溜飲の下がる大仕事ができ、四ツ谷の職場に戻り、夜の部ぎりぎりに渋谷のシアターコクーンへ滑り込み。 コクーン歌舞伎初体験が2005年の福助主演の「桜姫」。面白かったのだが、幕切れに違和感を感じたのがひっかかる。今回は現代劇版と歌舞伎版で6・7月に連続上演する企画だが、どうだろうと思っていたが・・・・・・。 【桜姫 清玄阿闍梨改始於南米版】 作・鶴屋南北 脚本・長塚圭史 演出・串田和美 今回の主な配役は以下の通り。( )内は歌舞伎で相当する役名。 大竹... [続きを読む]

受信: 2009年7月 4日 (土) 22時32分

» 桜姫 [COCO2の喝采ステージ]
清玄阿闍梨改始於南米版「桜姫」 09年6月 シアターコクーン。鶴屋南北の「桜姫東 [続きを読む]

受信: 2009年7月 5日 (日) 21時44分

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