六月大歌舞伎 in 歌舞伎座昼の部千穐楽・一世一代の与兵衛は揚幕の彼方へ
歌舞伎座の観客たちの熱気が違った。この狂言だけご覧になる方も多かったようだ。
近松門左衛門作「女殺油地獄」は、昭和37年夏、20歳の片岡孝夫丈をブレイクさせた演目であるだけでなく、物語の陰惨さから、頻繁には上演されなかった同作品を、原作者の想定を凌駕する表現者を得て約300年ぶりにメジャー化されたのだった。
そして、平成21年、現在の歌舞伎座の最後の年の夏、片岡仁左衛門丈が一世一代と銘うって25日間の舞台を務められ、今日が千穐楽だった。
エロスとバイオレンスのエネルギーを、色白で端正でつっころばしに類型化される若者が暴発させる新鮮さだったのだろうか。元禄の上方の拝金主義と成熟社会の歪が、来たる時代を予感させたのだろうか。その時代に驚かされる側の大人でなかったことが残念でならない。
ものごころついたときには、甘えたでちゃらんぽらんで依存心が強く、根拠のないプライドが異常に高く、責任転嫁の権化みたいな大坂のこぼんちゃんがおられた。また、小奇麗な若者なぶりを楽しんでいながら、親切心からと自己欺瞞と独善に満ちた大坂の若ごりょんさんもセットだ。次世代の方に、同じキャラクターを継承していただきたいという要請もあるだろうが、演劇は生き物。違うててもええんとちゃうとうちは思う。
本日の仁左様は、殺しの場で鬼気迫る嗜虐の狂気を精魂込めて演じておられ、観客と一体となって最高の演劇的カタルシスに持っていかれた。観客も45年分の拍手をしていたのだった。
定式幕が引かれ、与兵衛が花道を引っ込んだ後も観客の拍手は鳴り止まず、もう一度幕が開き、お吉さんが惨殺されたままの舞台を見せて幕。10分間くらい拍手は鳴り止まなかったが、再登場はなかった。殺人現場に犯人は戻ることはない。
(物語は、実は殺人現場に舞い戻り、ぬけぬけとお吉の葬儀に参列してお縄になり獄門にかけられるとか。)
平坦だけではなかった前半生をかけて、与兵衛で同時代人を楽しませていただいて本当にありがとうございました。けど、仁左様は与兵衛だけちゃうねんでー。
昼の部のラストにしはったんも、ちゃーんと訳有りと考えられる。夜の部のラストやったら一晩中泣かんならん。
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コメント
>みゆみゆさま
歌舞伎座さよなら公演で仁左さまの与兵衛。芝居好きにはこたえられないひと月でしたことでしょう。
このお芝居は若さが必要とおっしゃりながら、演じていただいたことに本当に感謝です。夜の部ラストでカテコ付きをしようと思えばできるのにそうなさらないとことに、ますます惹かれます(夜の部ラストでカテコする方が嫌いだと申し上げているのではありません(爆)。)。
これからは若い役者さんのそれぞれの与兵衛、それぞれの物語になってゆくことでしょう。しんみり。
投稿: とみ | 2009年6月30日 (火) 23時49分
>どら猫さま
おめにかかれてよかったです。
餃子、御一緒出来なかったのが心残りでした。
貧乏性なのと普段の仕事と同じペースで観劇&タウンウオッチング、移動中にエントリアップと励んでました。
携帯からのアップも早書きの習熟度上がりました。
ええと、文楽、バロック音楽、大阪松竹座、すぐお目にかかれそうですね。
投稿: とみ | 2009年6月30日 (火) 23時42分
楽日の舞台をご覧になったんですね。
私は楽日には参れませんでしたが、私にとって最初で、そして最後の仁左衛門丈の与兵衛を見ることができてよかったです。
投稿: みゆみゆ | 2009年6月30日 (火) 23時12分
>とみ様
歌舞伎座で少しでもお会いできてよかったです。夜の部も楽しまれたようで何よりでした。どら猫も帰宅はいたしましたが、まだ「油地獄」の感想を書ける心境には至っておりませぬ。
携帯からアップされたのでしょうか。
投稿: どら猫 | 2009年6月30日 (火) 00時35分