« 公式にウェストサイド物語クルーの北海道の様子がアップ | トップページ | 図書館で借りた本0530 »

2009年5月28日 (木)

ムサシ MUSASHI in シアタードラマシティ・新作夢幻能という極上のもてなし

P0304_15月9日(土)ソワレを本当に運良く観劇させていただいた。この公演は今年一番の話題作だ。生半可な努力で玉砕と撃沈を繰り返し、もう駄目かと諦めていたところ、スキップさまに声を掛けていただき、一も二もなく、駆けつけさせていただいた。今頃アップでは、遅いと御叱りを受けなければなりますまい。
でも、このテーマで何故プロットがムサシか、分かりましたよ。

戯曲:井上ひさし (吉川英治「宮本武蔵」より)
演出:蜷川幸雄
音楽:宮川彬良
出演
宮本武蔵/藤原竜也、佐々木小次郎/小栗旬
筆屋乙女/鈴木杏、沢庵宗彭/辻萬長、柳生宗矩/吉田鋼太郎、木屋まい/白石加代子、平心/大石継太、浅川甚兵衛/塚本幸男、浅川官兵衛/高橋努、忠助/堀文明、只野有膳
あらすじ
プロローグ
慶長17年(1612)4月13日正午、舟島で宮本武蔵は佐々木小次郎と果し合いを行い、一瞬のうちに武蔵は小次郎の脳天を割った。武蔵は、とどめを刺さず「お手当てを!」と立ち去る。
本編
それから6年、元和4年(1618)夏、鎌倉・佐助ヶ谷の宝蓮寺開山の参籠禅が始まろうとしていた。主催は寺の住持・平心。賓客に、京の大徳寺長老であり武蔵の師でもある沢庵、将軍家指南役・柳生宗矩、大檀那の木屋の後家・まいと筆屋の当主・乙女。そして武蔵も禅を組んでいた。
そこへ、一命をとりとめた小次郎が果し状を持って現れ、参籠禅が明ける3日後の朝に決闘することとなる。小次郎は武蔵の逃亡を阻止するため、宝蓮寺で3日間同宿することになったので、ややこしい話が始まる。

こんなおしばいでした
2005年「天保12年のシェイクスピア」、2007年「薮原検校」、2008年「道元の冒険」と「表裏源内蛙合戦」でタッグを組んだ魂の劇作家・井上ひさし氏が書き下ろした戯曲を、蜷川幸雄氏が、当代一の役者さんを揃えて演出する。何とも豪華なお芝居だ。
井上ひさし氏が描くのは、吉川英治氏の小説に登場する二人の剣豪・宮本武蔵と佐々木小次郎。歴史に「もしも」はないが、小次郎が一命をとりとめていたとしたら、そして二人が再び相まみえたとしたらという魅力的なシチュエーションを設定し、一癖も二癖もあるキャラクターが絡んで、抱腹絶倒、悲喜交々、上を下への大騒動となる。二人の対決に、今日的かつ普遍的なテーマを重ね合わせ、あっと驚く趣向で、有無を言わさず観客をねじ伏せる。

プロローグの舟島からメイン場面の宝蓮寺への時空の移動が幻想的だ。舞台奥から竹が迫り、寺の堂宇が流れるように動き、竹藪を分け入り禅寺にたどりついたかのようなシークエンスを見せる。装置は、拝殿と渡殿だが、能舞台と橋掛りの構図になっていて、何かやってくれそう。

一見、善男善女の客人たち。柳生宗矩は能狂いで、「かちかち山のタヌキの仇打ち物語」を完成させようと座禅もそわそわ。木屋の後家は元女猿楽師で、やんごとないお方の思い人だったとか。得意な演目は「蛸」で、劇中劇ならぬ劇中狂言が見せ場だ。
参籠禅に果し合いはいかんと、修行に五人六脚を始めたり、乙女の仇討のため剣術の稽古に皆でタンゴを踊ったり、想像を絶する肉体的しんどさらしい(プログラムより)。
とうとう、実は、小次郎は「まい」の私生児で、皇位継承権18位と、とんでもない与太話まで持ち出し、なんとか果し合いを回避させようとする。
なんだか変sign02と次第に意気投合する武蔵と小次郎が楽しい。

さて、話はころっと変わって、能に夢幻能という美しい様式がある。神、鬼、亡霊など現実を超えた存在がシテとなり、通常は前後2場構成で、ゆかりの土地を訪れた旅人(ワキ)の前に主人公(シテ)が化身の姿で現れる前場と,本来の姿(本体)で登場して思い出を語り,舞を舞う後場で構成されている。本体がワキのゆめまぼろしに現れるという設定が基本。芸術的妙趣と鎮魂の祈りを込めた普遍性の高い構成だ。

井上ひさし氏のあっという趣向とは、「武蔵と小次郎以外は、不慮で理不尽な死に見舞われた名もない男女で、霊魂が、この世の無意味な殺し合いを嘆き、争いをやめさせるまで成仏できない。」という素晴らしい設定だ。ここで、剣聖がワキで戦国の世の庶民がシテと、立場が逆転する。世阿弥に挑戦するかのような新作夢幻能が目の前に忽然と現れる。世阿弥の時代は戦乱の世。死者は滅びず生者と近しく共存していた。氏は、あれからも、平和は局地的かつ一時的なもので、戦いは続いていると考えておられる。
このため、ワキとワキツレは宿命のライバルで、どちらかが倒れるしかない組み合わせでなければ、夢幻能の民主化というか逆転の妙味が際立たない。装置も、そういえばはじめから能楽堂で、シテ1は怪しげな新作能(爆)の完成に未練を残しておられ、この男が井上ひさしさんと考えると楽しい。シテ2が文芸の創作に妄執して成仏できない娘というのも素敵だ。

亡霊たちは超人的な力ではなく、ミョーに卑近な楽しいお芝居で、「命を粗末にしてはならない」、「生きること自体がすばらしい」というメッセージを語ってくれていたのだった。分かり易すぎるメッセージを、考えられる最高水準の演劇で見せてくださったという贅沢さもこのムサシの鑑賞ポイントだ。
こんだけ楽しませてやったのだから、君たち、先輩の言葉はきけsign03と井上ひさしさんに訴えられているようで、シンミョーにならざるを得ない。

二人は無言のまま武装解除する。エピローグでは、亡霊たちが成りすましていた本物の柳生宗矩たちが現れるという、極めて蜷川芝居らしい幕切れとなる。
カテコは、必要以上に観客に愛嬌を振り撒かない出演陣の美しい姿に陶然となり、演劇の力の凄さに快く圧倒され、一日の幸福に感謝した。
どなたさまよりスキップさまに感謝いたしましたぁ!

にほんブログ村 トラコミュ 演劇・観劇・ミュージカルへ
演劇・観劇・ミュージカル
↑よかったら、ポチッお願いします♪

役者さんは皆さん全開でした。
冷静で知恵者。勝利のためには無駄を省き、口数も少なく身なりもかまわない武蔵は、主演でありながら分が悪いが、そこは藤原さん。リアリティと存在感はさすが。
片や、ファイティングスピリットむき出しに青白い光を放ちながら、皇位継承権18位のまやかしにやすやすとはまり、腑抜けになってしまう可愛らしい小栗小次郎。武蔵の「万年二番手…」の毒舌にぐさっとなるところも絶妙。
白石さんのやりすぎがおかしくも楽しく、吉田さんの食えねえ宗矩にも好感がもてる。仇討ちに燃えていながら、一太刀をあびせたところで、きっぱりと復讐の連鎖を断ち切り悟りを開く鈴木乙女は健気で気丈で愛らしい娘当主を熱演。
本当に剃髪なさった辻萬長さんと大石さん。大石さんは特に気弱で正直な僧侶として物語の進行役以上の説得力を示され、観客の心つかんでおられました。

|

« 公式にウェストサイド物語クルーの北海道の様子がアップ | トップページ | 図書館で借りた本0530 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

>麗さま
シークエンスがツボのみなさんかが多いのは嬉しいです。
仲良くなったふたりにも感動です。そのためには、長い上演時間ときついフィジカルプレイが説得力あります。マジ、戦っておられましたよね。好敵手な二人にブラボーです。
きらめく星座と頭痛肩こり樋口一葉をもぐりこませる空き時間がございませぬ。

投稿: とみ | 2009年5月31日 (日) 13時27分

>ぴかちゅうさま
きらめく星座と頭痛肩こり樋口一葉がまもなく関西では上演されます。どちらも定評ある戯曲ですから間違いなく楽しめそうです。
>作者の遺言とまで思いつめたメッセージ
ずっとずっと新作が頭の中で鳴っている状態、脚本コンクールで選外となり呆然と浜を歩いているうちに溺死。凄まじく笑えます。霊魂になるのは貴人や名将だけでなく、無念の死は庶民も同じとワタクシは受け止めました。
>小林多喜二の評伝劇でまた新作です。
目が離せません。見たいですね。ありがとうございました。

投稿: とみ | 2009年5月31日 (日) 13時00分

>スキップさま
恩人にコメントいただき感謝つかつりまする。
小次郎も死者で、武蔵の懊悩が見た幻という説もありますが、舞台上で種明かしをしていないのでそれはないように思います。
氏は、作劇途中で命を失うと成仏できずに化けて出て、生きている者に面白い芝居を見せるぞという霊魂になられるのでしょう。
絶対、霊魂になっても藤原宗矩を見ると念じました。初演の藤原武蔵と小栗小次郎見たんやでと自慢されておられる現世のスキップさまがご覧になるとき、そやそやと背後からついてゆきます(爆)。

投稿: とみ | 2009年5月31日 (日) 12時48分

>きばりんさま
こういう記憶は一生ものですから、遅筆はええんです(と、自己弁護?)。コメントありがとうございます。
>「舞台プルミエ」だったかな?
>それに舞台装置を特集していて、…
動くところがツボです。静止でしたら、蜷川テンペストで、プロスぺローを佐渡に流された世阿弥に翻案した平幹版がそっくりの装置でした。
ほんまにこんな演出を拝見しますと、暗転や幕前芝居を多用する演出家にはトマト投げたくなります。
たくさんの方向きに愉しみの花が配されていて、誰が見ても楽しめるところに尊敬です。

投稿: とみ | 2009年5月31日 (日) 12時35分

この作品は面白かったという印象が強く残りがちですが、、、
>時空の移動が幻想的だ。
まさしくこれです!(笑)
このシーンが私的には一番インパクトありました。
ゆっくり時間をかけて、竹やぶが前に後ろに移動し、
淡い緑の照明と相まって本当に美しかったです♪

藤原くん&小栗くんのキャスティングも絶妙でしたね。
もし逆の役柄だったらどうだったのかと想像して楽しんでます。(笑)
それもアリだなっと思うのですが、、、
それだけこの二人が、どんな役柄も演じられるほど、
人気先行だけでなく、実力も経験も備わった証しですかね。

投稿: | 2009年5月31日 (日) 02時07分

おとみ様、TB&コメントを有難うございましたm(_ _)m
舞台装置から宗矩の能の仕舞やら元女猿楽士の狂言「蛸」やらで納得しながら観ていましたら、最後のどんでん返しで圧倒され、さらに参籠禅を始める時の平心の挨拶が繰り返されて「夢幻能」の様式まで踏まえていたのかと井上ひさしの作劇の素晴らしさにますます心酔しておりました。
今回は蜷川幸雄演出が前提の企画であり、キャストもスタッフもいまの日本で最高のカンパニーでの上演であり、抱腹絶倒させられながらも作者の遺言とまで思いつめたメッセージの受け止められ方は、人によって即効性のあった方、ボディブローのようにじわじわ効いてきた方と様々だったような感じがします。
戯曲を速攻で買い求めたのは今年は野田秀樹の「パイパー」とこの作品でした。
井上さん、10月には小林多喜二の評伝劇でまた新作です。70歳を過ぎてのこの頑張り!!蜷川さんともども両巨匠の動きから目が離せません。

投稿: ぴかちゅう | 2009年5月31日 (日) 01時22分

とみさま
その節は、お付き合いいただいてありがとうございました。
終演後には楽しいアフタートークにお茶までご馳走して
いただいて、こちらが感謝いたしましたぁ!

夢幻能に喩えたご感想、大変興味深く拝読いたしました。
「剣聖がワキで戦国の世の庶民がシテ」という立場の逆転
のプロットにも、寺の装置がはじめから能舞台ということにも
至って納得。いろんな観方、感じ方のできる「ムサシ」ですが
このご見解は出色ではないかしら。
ぜひ井上さんや蜷川さんにも読んでいただきたいです(笑)。

観ている時ももちろんとても楽しめましたが、後でいろんな
論評やたくさんの方のご感想を読ませていただいて、ますます
「ムサシ」の世界の広がりを感じました。
あの時、とみさんがおっしゃっていたように、「いいお芝居って、
ほんとにいい」ですね。

投稿: スキップ | 2009年5月31日 (日) 00時54分

遅コメ失礼つかまつる。。
>舟島から宝蓮寺への時空の移動…
この場面はホントに2200日の時が経っているんだということをも物語るし、武蔵と小次郎以外の人物が亡霊であったため幻想の世界へといざなうかのようなそんな舞台の異動でした。

今、本屋で出ている「舞台プルミエ」だったかな?
それに舞台装置を特集していて、やはりこの「ムサシ」のがトップ記事になっています。
とても興味深いんですがこの雑誌…1600円するんですよね~^^;

夢幻能・・って素敵ですね。
歌舞伎に限らず、能の世界も知らない世界…ホンマに奥深い。。
もっともっと生きてるうちに知りたい体験したいって思います。

投稿: きばりん | 2009年5月30日 (土) 20時39分

>花かばさま
戯曲は詞遊びについてゆけなかったときに助かります。また、後の世に新進気鋭の演出家がどのような演出をなさるのか想像する楽しみもあります。
そのときは、亡霊になって観客席に座り、初演の若い頃の藤原武蔵と小栗小次郎はかっこ良かった…といいながら、藤原柳生を見せてもらいましょう。あの世でもチケット難だったりして。

投稿: とみ | 2009年5月28日 (木) 12時35分

>やたけたの熊さま
はい、ほとんど絶望的でした。ご都合がつかなくなった方のご縁で拝見できましたので、10年に一度くらいの奇跡です。
劇作家が命を削って創作した芸術でした。しかし、その様態は優しく愉快過ぎるもので、違う解釈の余地のないものでした。
きらめく星座、頭痛肩こり樋口一葉と続きますね。

投稿: とみ | 2009年5月28日 (木) 12時26分

単行本も同時に発売しましたが、これは、売り切れがありませんね。

立ち読みしましたが、買う事にします。

投稿: 花かば | 2009年5月28日 (木) 08時37分

ええっ!前売券発売1時間で完売したプレミアチケットでしょう?
よく買えましたね。いいなあ!!!
たしかムサシは一昔前に、井上ひさしさんの脚本が遅れて、公演そのものが流れてしまった幻の作品ではなかったですか?

投稿: やたけたの熊 | 2009年5月28日 (木) 06時35分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/106008/44965237

この記事へのトラックバック一覧です: ムサシ MUSASHI in シアタードラマシティ・新作夢幻能という極上のもてなし:

» 『ムサシ』2009.5.8 [まどろみの日々]
2009年5月8日(金)13:30~シアタードラマシティ 本日のお席は6列右サイド。 ほぼ女性で満席~~~小栗くん藤原くんファンがいっぱいまわりに熱気を感じますぅ♪ しかしっ!!私は吉田鋼太郎さん(#^.^#)デヘッ♪ これ・・脚本がいいのか。演出がいいのか。 宮本武蔵と佐々木小次郎の対決のお話でこんなんになっちゃってますよ~^^; ホンマに、とっても面白かったです(*^^)v 作:井上ひさし  演出:蜷川幸雄 物語の始まり... [続きを読む]

受信: 2009年5月30日 (土) 20時42分

» 09/04/19 井上ひさし×蜷川幸雄「ムサシ」・・・死者の思いの上に生きる [ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記]
{/v/} 井上ひさしの書き下ろし作品に蜷川幸雄が初めて取り組んだ画期的公演「ムサシ」についてなかなか記事が書けないできた。遅ればせながらアップしておきたい。 宮本武蔵と佐々木小次郎のいわゆる巌流島の決闘のその後の物語だという。 主なキャストは以下の通り。 藤原竜也=宮本武蔵 小栗旬=佐々木小次郎 辻萬長=沢庵宗彭 吉田鋼太郎=柳生宗矩 白石加代子=木屋まい 鈴木杏=筆屋乙女 大石継太=平心  早くもWikipediaに「ムサシ」の項ができているので、あらすじ等はそちらを参照していただきたい... [続きを読む]

受信: 2009年5月31日 (日) 00時41分

» どんなにつらい1日でも [地獄ごくらくdiary]
“復讐の連鎖”というテーマは、これまで蜷川さんはもちろん、野田秀樹さんやその他にも数々のお芝居で採り上げられてきました。「ムサシ」という、剣豪・宮本武蔵を主役とするのこの舞台が、そんなストレートなメッセージを伝えようとしていたなんて。 「ムサシ」 脚本: ..... [続きを読む]

受信: 2009年5月31日 (日) 00時58分

» 『ムサシ』@彩の国さいたま芸術劇場 [ARAIA -クローゼットより愛をこめて-]
今をときめくイケメン俳優、藤原くん&小栗くんの舞台。 行ってきましたよー! 「ムサシ」 一言感想は、、、 小栗くんが良いっっ!!(... [続きを読む]

受信: 2009年5月31日 (日) 01時51分

« 公式にウェストサイド物語クルーの北海道の様子がアップ | トップページ | 図書館で借りた本0530 »