文楽4月公演第2部・四段目・歓喜の合唱から愛の勝利へ
運命に果敢に立ち向かい破れて潔く殉じる者、運命の悪意に弄ばれた非業の死、残された者の永遠に癒えることのない悲しみ。すべてを引き受けて語る大夫さんは、共に戦い共に嘆く客席の庶民目線だ。もう、これ以上不条理な死は見たくないといった三段目までから、四段目になると俄然様相が変わりにわかに視界が開け目の前が明るくなる。
華やかな幸福感に満ちた寛治師匠が芯をとる三味線。こ〜いとちゅうぎはどちらがおもい〜で、いきなり、ほっとして涙がこぼれる。第四楽章は歓喜の歌で始まる。洋の東西を問わず合唱は確かに効果ある。
ここは、25年前と変わらずますます若々しい簑助師匠の静ちゃん。静は十代という実年齢を納得させていただけるのは、全ての芸能ジャンルの中でも簑助師匠だけかもしれない。千本桜の肩衣がおしゃれ。片や年齢不詳のお役が似合う当代勘十郎さんは四百歳の若い狐。主従ではなく擬似恋人ごっこが似合うお年頃だ。
文楽 |
四の切は勘十郎さんの源九郎狐のやりたい放題。特に文楽オリジナルの鼓が狐に変身する登場や人形の持ちかえなど、やんややんやといううちに飛んでいかはります。
討っては討たれ討たれて討つは源平の習い、骨肉相食む源氏の習い、英雄たらんと志しながら天にも地にも行き場所を無くした義経、教経、知盛、維盛。源九郎狐は、ピュアな孝心で親子の愛にも兄弟愛にも恵まれなかった義経の心を癒す。
この完治しないまでも少しづつ悲しみが薄れるところが涙のツボだ。
実際の義経は安宅の関を越え奥州平泉まで落ちのび、第二の故郷と頼った藤原氏にも見捨てられ無念の死を遂げるが、物語はこれまでの苦しみが浄化され、滅んでいった者たちの魂が狐により浄化されるという大団円で幕を閉じる。これから先の義経はもはや此岸の者ではなく彼岸の旅人となったのだ。
長い長い旅路の果てにたどりついた二人だけの愛の世界〜(どっかで聞いた歌詞かもしれない。)愛が全てを救うこれが結論。これから見る人がうらやましい〜。
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コメント
>やたけたの熊さま
千秋楽まじ行きたいです。そんなん聞いたら考えてしまいます。ほろ酔いはいいですが、泥酔と暴走はあきません。
三番叟もいっぺん聞きたいなー。
投稿: とみ | 2009年4月24日 (金) 15時41分
26日の千秋楽夜の部に行こうかと、酔っ払った勢いでいま思っています。このところ千秋楽の、技芸員さんたちのハチャメチャな、いえいえ失礼しました突き抜けた舞台を楽しく観させていただいています。
この日はほろ酔い加減で、楽日の舞台を楽しませていただこうかと思っているのです。
投稿: やたけたの熊 | 2009年4月23日 (木) 23時55分
>スキップさま
主題が繰り返し様々な楽器で登場する交響曲だと思いました。ベートーベンが交響曲に合唱を導入したのは宙乗り同然だったのでしょう。
数少ない大人のおぢさんの娯楽ですから、おぢさん目線で楽しめました。
投稿: とみ | 2009年4月23日 (木) 09時30分
とみさま
文楽超初心者ながらとても楽しむことができました。
歌舞伎で段ごとに観ていた「義経千本桜」も
こうして通して観てみると、独立した物語のようで
いて共通の死生観や普遍性が流れていることに
大変感じ入りました。
そして最後があの満開の桜の中へのスコーンとした
宙乗りですものね。あまりの気持ちよさに、
「また観たい!」とまんまと手の内です(笑)。
投稿: スキップ | 2009年4月23日 (木) 01時01分
>藤十郎さま
カタルシスに至るには、鳥居前で置き去りにされ、大物浦で沈没し、下市村で討死して初めて体験できる高揚感という気がしました。通し上演バンザイです。
それにつけても、勘十郎さんの芸は全盛。向こう25年は楽しめます。見るぞ国立文楽劇場開場50周年記念義経千本桜通し上演!勘十郎さんはきっと源九郎狐で出たはります!
投稿: とみ | 2009年4月21日 (火) 23時24分
音曲ですね、やはり。見せてしまわない、というか。
はじめて千本を通しで見たとき、「誰やねん、こんなん作った人は・・」とぼやきたくなるほど感銘を受けました。
三番叟から狐の飛翔まで、そして幕間はお客さんの対応やら何やらで飛び回っていらっしゃる勘十郎さん、元気としか言いようがありませんね。
投稿: 藤十郎 | 2009年4月21日 (火) 22時30分