宝塚月組公演・二人の貴公子・わーい!シェイクスピアの新作だ。
バウ・ミュージカルプレイ『二人の貴公子』
原作/ウィリアム・シェイクスピア、ジョン・フレッチャー
脚本・演出/小柳奈穂子
河合祥一郎訳「二人の貴公子」(白水社刊)より
シェイクスピアの作品はつい最近まで37作とされてきたが、研究成果により、新たに3作品を加え、40作品とされている。「二人の貴公子」は、追加3作のうちのひとつで、ジョン・フレッチャーと共著とされている。
舞台は古代ギリシャ。真夏の夜の夢と設定は同じ。アテネのテーセウスがアマゾンの女王ヒポリタとの婚礼前夜、職人達は「5月祭」の出し物「ピラマスとシスビー」の素人芝居の稽古に余念がない。テーバイ王クレオンの甥で親友同士の勇将パラモンとアーサイトは、テーバイの敗戦により捕虜としてアテネで拘禁されている。牢獄の窓からヒポリタの妹エミーリアを見初めた二人は、共に恋してしまい、瞬時に仇敵同士となり、遂にはエミーリアの愛を懸けて御前試合に挑む。
![]() 演劇・観劇・ミュージカル |
「真夏の夜の夢」と一幅対を成す作品だ。同じ恋の騒動だか、オーベロン、タイテーニア、パックはいなく、恋のもつれは武力で決着という、悲劇でもなく喜劇でもなく、ロマンス劇的悲喜劇というか、伏線も周到な凝ったドラマだ。
月組は芝居上手で表情豊か。バラエティーに富んだ面白いフェイスの生徒さんぞろいだ。主演二人も、直情漢・夢想家それぞれのキャラが明確で、熱く深い友愛が真に迫る。女性には厳しい剣戟、素手のファイティングが見せ場なのでお怪我の無いことを祈る。
二人の元貴公子アテネ王・萬さんと宰相・磯野さんの存在が、若い二人と対照的に、両雄の並び立つ幸福な様を示し、奥行きを見せている。実は、この二人も若い頃、一人の王女をめぐって争っていた。円満解決のキーアイテムは魔法というのが皮肉だが、それは別のお話。
演出も手堅く破綻がない。原作のラストは、デウス・エクス・マキナ的に神が二人の貴公子の願いを叶える。アーサイトは戦の神マルスに勝利を、パラモンは愛の女神アフロディテに愛の成就を願い、アーサイトが勝利するが直後に死に、パラモンが姫を得る。
小柳さんは神を排除し、苦悩の姫が純潔の女神ダイアナに死んでしまいたいと救いを求めた際、神は応えず、代わりに狂気と正気の狭間をさまよう牢番の娘が「二人の貴公子の願いは共に叶う。」と出まかせ告げる。神託は実はなかったが、舞台上の人々は皮肉にも信じていた。名誉のうちに死を迎えたアーサイト、友を失い号泣するパラモン。神を排除しながらロマンチックにまとめられた小柳さんはただものではない。
パラモン(夏夢ならライサンダー)/龍 真咲
アーサイト(夏夢ならディミィートリアス)/明日海りお
テーセウス(シーシゥス)/萬あきら、ペイリトオス/磯野千尋
牢番/研ルイス、医者/綾月せり
牢番の娘(夏夢ならヘレン)/蘭乃はな、求愛者/光月るう
エミーリア 羽桜 しずく(夏夢ならハーミア)、ヒポリタ/天野ほたる
旅の騎士/紫門ゆりや、劇作家/彩央寿音
クインス/響れおな、ボトム/貴千碧
スナッグ/千海華蘭、フルート/星輝つばさ
スナウト/天翔りいら、スターヴリング/珠城 りょう
巫女/麗百愛
王妃/夏月都、玲実くれあ、琴音和葉
村の娘/咲希 あかね、花陽 みら
侍女/真愛涼歌、愛風ゆめ
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コメント
>SwingingFujisanさま
小柳さんは、脚本がしっかりしておられ、弱者や社会に対する心ない失言台詞のない、危なげない作家さんです。翻案なさらないところに、自信を感じました。
歌舞伎では、アイーダに懲りず、ニーベルンゲンの指輪(ジークフリート海老蔵丈、ブリュンヒルデ菊之助丈九人宙乗り)、トゥーランドット(カラフは海老蔵丈)、ライオンキング(シンバ海老蔵丈)、美女と野獣(菊之助丈&海老蔵丈)などが華やかそう。
投稿: とみ | 2009年3月15日 (日) 14時52分
宝塚は数回かしか見たことがありませんが、「二人の貴公子」は愛之助さんと獅童さんの公演もあることですし、ちょっと見てみたかったなと思いました(ポスターから受ける印象がぜ~んぜん違いますね)。
バウホールでは5月に「オグリ」がかかるというのも、歌舞伎ファンとしては興味深いところです。
投稿: SwingingFujisan | 2009年3月15日 (日) 12時28分