劇団四季・トロイ戦争は起こらないだろう・20日(土)千秋楽
9月20日(土)、千秋楽一度の観劇。
写真はチラシとして配布されていた横長のはがき。
原作:ジャン・ジロドゥ、演出:浅利慶太
美術:金森馨、音楽:武満徹
キャスト
アンドロマック/坂本理咲、エレーヌ/野村玲子、エキュブ/斉藤昭子、カッサンドル/都築香弥子、平和の女神/西田ゆりあ、虹の女神/岡本結花、ポリクセーヌ/岸本美香
エクトール/阿久津陽一郎、ユリス/味方隆司、プリアム/山口嘉三、デコモス/栗原英雄、パリス/田邊真也、オイアクス/青羽剛、ビュジリス/神保幸由、幾何学者/池田英治、トロイリュス/大空卓鵬、他
創立55周年記念演目のひとつが、ジャーナリストにして20世紀を代表する劇作家フランスのジャン・ジロドゥの戯曲「トロイ戦争は起こらないだろう」だ。「トロイ戦争」は、1935年、ヒトラーがドイツで首相の座につき、大戦の懸念がヨーロッパを覆ったなかで初演された。ギリシャ悲劇のプロットと運びを踏襲した問題作だ。日本では、1957年に劇団四季が初演し、以降、四季以外では上演されていない。
ものがたり
舞台はトロイの王城。
王子パリスは、ギリシャに絶世の美女を求めて船出し、スパルタの王妃エレーヌを略奪してきた。ギリシャ連合軍は、トロイの海上に艦隊を集結し、エレーヌの返還を要求しているが、文官や老人たちはエレーヌの美しさに心を奪われ、戦も辞さないと返還を拒む意見が大勢だ。
そこへ、トロイ一の勇将として国民や軍から信頼されている王子エクトールが、勝利を収め王城に凱旋してきた。勝利を得たとはいえ、兵士は死傷し、軍隊は疲れ切っており、エクトールが最も平和を望んでいた。問答無用で、パリスにエレーヌの返還を命令するエクトール。何一つ決断しないパリスとエレーヌ。
最終交渉人として、ギリシャの知将ユリスが王城に乗り込み、エクトールと、国家の存亡を賭けた会談が始まった。
劇団四季は創設当時、ジロドゥやアヌイの上演を目指して結成された。今回は、精鋭投入による存在を標榜する復刻上演だ。装置も、前衛的で象徴的な金森馨氏の作品を復元。
今日的上演の意義を論じる凡百の言葉より、阿久津陽一郎さんが演じるエクトールの凛々しさが全てだ。トロイの正義、トロイの叡智、トロイの良心、トロイの勲。トロイの希望と栄光を一身に体現する立ち姿に、周りが吹っ飛んだ。劇団四季のビジュアルをはるかに凌駕したてか、劇団四季離れのカッコ良さ。(上川隆也さんしかエクトールは考えられないが…。映画では、エリック・バナ
)。
エクトールの長い長い台詞のなかで、「今、勝利を収めてきた戦いがいかに苛刻で熾烈で阿鼻叫喚を極めたものであったか、戦において、生者と死者の間に隔たりがあるか」、悪びれずに述懐する名場面がある。豪胆な英雄に見えないと心配したが、難なくクリアー。
対する味方さんは、痩身長躯をカバーするロングマントと嵩上げ甲冑で、いかにもの知将ぶり。台詞の切れ味は最高。詩人で元老院議員・空論を弄する好戦派の栗原さんもいかがわしさはオズ並み。
パリスの田邊さんは、愛と美の象徴のカップルであることを頭で楽しむという役づくりのため、ギリシャ彫刻や絵画のような甘さのない辛口のビジュアル。
設け役がトロイリュス少年のベイビージョン・大空君。盛りのついた15歳は、ラストシーン、センターでエレーヌと濃厚なキスを交わす。このようなキャスティングを見ていると浅利センセは観客の夢と肩入れを叶えてくれるお方と、通ってしまうではないか。
女優さんは、アンドロマックが坂本さん、エレーヌが野村さんと、アンドロマックのときと逆の配役。それぞれの相手役と親子に見えてしまうのは脳内補正し、エレーヌの変幻自在、正体不明ぶりはさすが看板女優さんであられる。
時の流れの速さは一定ではない。運命とは、時が人知を超えた速さで進む瞬間を指す。
全編を通じて、男の戦争、女の平和、抽象論が飛び交うが、圧巻は、両将の直接対決だ。大抵の戦争では、開戦前夜、両軍の最高司令官どうしが、互いを認め合い尊敬しあい、歓談の後、握手を交わし別れるが、その翌日には戦争は起こる。←ユリスが語る主題だ。
戦争を回避するため知力を尽くしたエクトールだったが、好戦派の衝突の措置を不幸にも誤り、不可逆な戦争の扉を開けてしまう。
短い上演期間がもったいない。京都に来て欲しいナ。
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