蜷川幸雄演出「さらば、わが愛 覇王別姫」アイドルであり続けるための苦悩をにじませる熱演
さらば、わが愛 覇王別姫
原作:李碧華(リー・ピクワー),脚本:岸田理生
演出:蜷川幸雄,音楽:宮川彬良
キャスト
程蝶衣(チョン・ティエイー)/東山紀之,段小樓(トァン・シャオロウ)/遠藤憲一,菊仙(チューシェン)/木村佳乃,關師傳(クアン師匠)/沢竜二,袁四爺(ユアン)/西岡德馬,小四(シャオスー)/中村友也
あらすじ
1930年代の中国の北方都市。娼婦の私生児である小豆子は、母に6本目の指を切り落とされ,京劇俳優養成所に捨て置かれる。娼婦の子といじめられる小豆子をことあるごとに助けてくれたのは兄弟子の石頭だった。
成長した2人は,それぞれ程蝶衣と段小樓という芸名を名乗り,「覇王別姫」のコンビで一躍脚光を浴びる。蝶衣は少年時代と変わらず小樓を想っていたが,小樓は娼婦の菊仙と結婚し,蝶衣は京劇界の重鎮・袁四爺の庇護を求める。やがて,京劇界は,日中戦争,国民党政府,中国共産党とめまぐるしく変わる時代に翻弄され,三人も悲劇に襲われる。
原作は,チェン・カイコー監督の同名映画。映画は,5年前に亡くなった香港出身のレスリー・チャンの渾身の演技で ,1993年カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。上演脚本は,「身毒丸」も手がけられた劇作家の岸田理生氏。蜷川幸雄氏が演出,宮川彬良氏が作曲に携わる。
蜷川さんが東山紀之さんに選んだ企画であるため,主演は2時間ノンストップ,出ずっぱり,歌い続け,踊り続けの大熱演。歌唱,舞踊,容姿,愛嬌。東山さんは,幼少の頃からスターであり続けられた。アイドルとは,大衆の欲望を我が欲望とし,精進を続けた者への尊称である。俳優養成所で厳しい修行を積む少年たちや若者たちにジャニーズ事務所の少年たちの修行を重ね合わせるのは考えすぎではない。
東山さんが演じる蝶衣は天性の女形で,劇中で演じる虞姫さながら,兄弟同然に育った項羽役・小樓を恋い慕い,激しい嫉妬に身もだえする。もう少しファルセットの歌曲を増やしてほしかったところだ。
映画版は,3人の拮抗した力量の演者を起用し,中国現代史を背景に,抑圧された芸術への哀悼や芸術家の魂の飛翔を織り込んだドロドロの愛憎劇だったが,舞台版は,ダイナミックで耳に残る佳曲を用い,演じることしかできない名花・蝶衣の半生を,駆け抜けた青春譚に仕立てた素敵なエンタテイメントだ。
幻惑的な色と光使い,プロローグとエピローグを繰り返し,ゆれるカーテン,客席使いのメタシアター見立て,水槽と蓮花,…。蜷川さんお得意の演出ツールはてんこ盛り。
蝶衣と小樓が辛酸をなめた少年期のエピソードは大幅にカットされ,冒頭と幕切れの圧巻のスローモーションに集約。つかみと終わりがよければ満足度は高い。
ただ,名台詞まで疾走してしまったので,クライマックスの小樓の裏切りと絶望感が弱かったのが惜しまれる。
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コメント
>ぴかちゅうさま
お忙しいところ,コメントありがとうございました。開幕前の俳優さん達のストレッチやウオーミングアップが,メタシアターらしくて素敵でした。ニナガワさんもこのパターン出し過ぎのきらいはありますが,この演目には本当に感情移入を促す導入部でした。
ワタクシ,東山さんのように美貌ゆえ実力を過小評価されがちな俳優さん大好きです!
投稿: とみ | 2008年4月26日 (土) 00時32分
とみ様、励ましのコメント有難うございましたm(_ _)m
ようやくこちらにTBさせていただく余裕ができました。ル・シネマで観る予定だった映画版は残念ながら見送っていますが、友人からDVDを借りたので家の小さい画面で観ようと思っています。
ヒガシくんは舞台では初見ですが、自ら女形を希望して蜷川さんをびっくりさせたというエピソードも読み、舞台も観たら、納得の大スターでした。是非とも蜷川さんの舞台でもう一度別の役をやるところを観たいと切望します。
投稿: ぴかちゅう | 2008年4月25日 (金) 00時52分
>スキップさま
美しい場面なので、二度見られて良かったです。苛酷な歴史は不可逆な現実。日中の世界観の違いを、受け入れやすい形にしていただいて助かりました。歌手や舞踊家が肉体を失うのは悲しすぎます。
投稿: とみ | 2008年4月18日 (金) 14時40分
とみさま
この舞台は悲惨な現実を描いているにもかかわらず、
さらっと美しい印象を受けたのですが、とみさんの
レビューを読ませていただいて、ナルホド、映画との
違いも納得いたしました。と同時に、やはり映画を
見たくなりました。今度DVD借りようっと。
それにしてもヒガシはがんばっていましたよね。
投稿: スキップ | 2008年4月18日 (金) 03時21分