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2008年3月21日 (金)

坂東玉三郎・中国昆劇合同公演・嫋々と切々とたおやかに…心震わせる歌唱

7日(金)と15日(土)に拝見。

牡丹亭(ぼたんてい)
作 湯顕祖,指導 張継青
遊園 杜麗嬢/董飛,春香/朱瓔
驚夢 杜麗嬢/坂東玉三郎柳夢梅/兪玖林
    春香/朱瓔,睡夢神/呂福梅
堆花 杜麗嬢/坂東玉三郎・董飛柳夢梅/兪玖林
    杜母/陳玲玲,春香/朱瓔
写真 杜麗嬢/劉錚,春香/朱瓔
離魂 杜麗嬢/坂東玉三郎,杜母/陳玲玲,春香/朱瓔

昆劇は約600ほど前の明朝の時代に生まれ,清朝にかけて200年余り劇壇の王座を占めてきた。なかでも,後世の京劇や本朝の牡丹灯籠にまで影響を及ぼしたとされている湯顕祖作・全55幕の大作『牡丹亭』は,最高傑作だ。坂東玉三郎丈は,芸術監督として総指揮を執られ,深窓の佳人・杜麗嬢を演じる。言語は勿論中国の蘇州語だ。なお,5月には,中国「北京湖廣会館」で上演される。

杜家の深窓の令嬢・杜麗娘は,春の花園で遊び,疲れてうたた寝をする。夢の中で,理想の若者・柳夢梅と出会い恋におちる。楽しいひとときは過ぎ去り,目覚めたときはもとの自室だった。そして,夏。夢で出会った若者を思い続け,やせ細った杜麗娘は死を予感し,美しい姿を絵に描き残す。中秋の名月の夜,命旦夕に迫った杜麗娘は,若者への思慕を切々と歌う。

5つの場面を3人の女形が演じる。春の場面の現身は董飛さん,夢の中で柳夢梅と遊ぶのは玉三郎丈(ええとこ取り),自画像を描くのは劉錚さん,はかなくなる場面は玉三郎丈だ。
董飛さんは,TBSニュース23に登場した若い女形さんで,玉三郎丈に心酔しておられる。お化粧や仕草を一生懸命なぞっておられいい感じだ。細身小顔で一目で女形さんと分かり,あちらの早乙女太一さんというところか。劉錚さんは,端正な容姿に綺麗なお声で,複雑に揺れる娘心をしっかり伝える実力派さん。
出ずっぱりの心優しい侍女・春香を演じるのは女優の朱瓔さん。とても可愛らしく,端麗な主演を引き立てておられた。
玉三郎丈は,「驚夢」の章でデュエットと連舞を楽しむ。柳夢梅役の兪玖林さんは,ぼーとなるイケメンで清々しく上品で真摯なイメージ。玉様は,活き活きと正に眸を回らせて一笑すれば百媚をスパーク。柳夢梅に注ぐ視線はどんどん蠱惑的に…。深窓の令嬢とは思えない積極的な激しい恋のアプローチだ。生真面目そうな兪玖林さんは大丈夫なのかとよけいな気を起こさせる程だ。
一転,「離魂」の章では,去りゆく命を前に恋心を迸らせる。雨に煙る中秋の名月の夜,「集賢賓」という哀怨の情を表すアリアを玉三郎丈が歌い上げる。この一曲を聴くだけでもこの公演の価値はある。嫋々と哀切に繊細に…,見る者聴く者全ての心の琴線を震わせる歌唱だ。丈は,20年以上前,張継青さん主演の「牡丹亭」に感銘し,夢を暖めて来られたとか。その張継青さんの歌唱指導による名演は,日中の語り草となることだろう。

装置は,屋根や柱を設けず,牡丹の美しい絨毯とドレープが美しい紗幕で抽象化。刺繍のお衣装や簪が精緻で,夢のよう…。

楊貴妃(ようきひ)
楊貴妃/坂東玉三郎,方士/周雪峰

玉三郎丈の「楊貴妃」は,謡曲「楊貴妃」をベースに,夢枕獏氏の脚本による現代の創作舞踊で,扮装は京劇の形を応用し,振付・演出には京劇,能,歌舞伎舞踊などの技法を融合させたもので,丈の財産のひとつ。初演以後も再演のたびに練り上げられているが,今回は昆劇版。蘇州語で詠われ,和琴の代わりに二胡や揚琴の調べにのって,益々雰囲気は高揚する。

時は8世紀前半。唐の玄宗は名君だったが,楊貴妃を後宮に迎えてから,彼女を熱愛するあまり,楊家が横溢し,政務も疎かとなった。やがて地方豪族・安禄山が反乱を起こし,玄宗は反乱軍の要求をのみ,馬嵬坡で楊貴妃の命を絶つ。後に,白楽天が漢の時代に置きかえ,「長恨歌」を綴る。これが,謡曲となり,夢枕氏のノベルスとなり,玉三郎丈の舞踊となるわけだが,正に時空を超えた愛の物語だ。
楊貴妃を忘れかねた玄宗は,方士に命じて,その魂魄のありかを尋ねさせる。方士は,常世の国の蓬莱宮へとやって来て,楊貴妃にまみえる。

優雅で美しく夢のような…さすが…と思っているうちに,牡丹亭で感動しすぎた不覚をとった。
玉容寂寞涙闌干 梨花一枝春帶雨
「ブラボー!」という客席からの声鳴り止まず,幾度ものカテコの後に,昆劇院のシンガーさんたちとアクターさんたちがご一緒に,アカペラで牡丹亭を朗誦され,もともと緩んでいた涙腺がまたまた決壊。
花鳥風月や季節の営みを愛し,命の尊さや父母への感謝を,てらうことなく美しい詩歌とし,音曲で楽しむ喜びは永遠であることを教えていただいた。

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コメント

>hitomiさま
千穐楽をごらんとはうらやましいです。華やかだったことでしょう。
夢魔が赤い服を着たおぢさんというのが可愛らしかったです。
丈の薔薇の精見たいな。マラーホフ氏と共演いただけないかしらん。

投稿: とみ | 2008年4月 2日 (水) 00時49分

とみさま ほんと、ええとこ取りでしたね。生まれて初めてで最後、初日と楽を観ました。おかげで上京も出来ないでしょう。他の芝居、買わなければよかったかも。

投稿: hitomi | 2008年4月 1日 (火) 19時50分

>よんたんさま
やはり,よんたんさまもですか…。揺さぶられる朗誦でした。
舞台に柱と屋根があると能楽のような雰囲気が出て,さぞやと思われます。南座も破風や天井の装飾があり,演目に相応しかったです。何より,古都であるところがお値打ちでしょうか。

投稿: とみ | 2008年3月23日 (日) 21時40分

こんにちは。

この公演、美しくてまるで夢のようでしたね・・・。
「牡丹亭」も「楊貴妃」もどちらも素敵でしたが
一番ココロを揺さぶられたのは、実はカーテンコールのアカペラ合唱でした。
本当に良いものを観させてもらったと思います。

出来ることなら中国でも観たいものです。
きっと劇場の雰囲気が違うので、感じ方も変わるかもしれませんね。

投稿: よんたん | 2008年3月23日 (日) 11時24分

>hitomiさま
アンコールのコーラスが最も人数が多く分厚かったから,じわーんとなりました。
レポは走り書きすので,少しずつ加筆修正致します。
丈の功績を讃える記述が筋書きや報道にたくさんございますので,どう感じたかだけに留めました。

投稿: とみ | 2008年3月22日 (土) 22時43分

>つどいさま
お芝居も,ご招待やお付き合いからはまることもございます。良かったですね。貴重な公演と思います。
ストーリーがシンプルですから,字幕も不要なくらいでしたね。

投稿: とみ | 2008年3月22日 (土) 22時40分

アカペラで牡丹亭を朗誦されたのですか!
素敵なレポをありがとうございます。

この公演は見逃せないと思い、初めて初日と楽を予約しました。学生時代の友人と観劇できる日が近ずいてドキドキです。何事もありませんように。

投稿: hitomi | 2008年3月22日 (土) 19時38分

都市系ではなく,はじめて演劇系のコメントに参加できるとにこにこしています.

びっくりしたのは,中国語でも蘇州方面のコトバって日本語に近いのでしょうか?
字幕を追いかけつつも,なんとなくわかるのが不思議でした.
牡丹は「ぼたん」でしたものね.

えらく貴重な体験ができました.

投稿: つどい | 2008年3月22日 (土) 14時35分

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