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2008年2月24日 (日)

平幹二朗丈一世一代の「リア王」

Lear_photo彩の国シェイクスピアシリーズ第19弾。昭和50年代から数々の名舞台を築きあげてこられた蜷川幸雄さんと平幹二朗さんが組む最後の仕事とされている「リア王」だ。蜷川さんも平さんもそれぞれリアには挑戦なさったが,組むのは最初で最後となるようだ。
戯曲/W.シェイクスピア,翻訳/松岡和子
リア王/平幹二朗
コーディリア/内山理名,リーガン/とよた真帆,ゴネリル/銀粉蝶
エドマンド/池内博之,エドガー/高橋洋,道化/山崎一
グロスター伯/吉田鋼太郎,ケント伯/瑳川哲朗
オールバニー公/渕野俊太,コーンウォール公/廣田高志

この芝居に関しては,このメンバーを集めただけで成功したも同じ。演出家というよりプロデューサーとして価値あるご決断をされた蜷川さんに感謝する。
舞台は,松羽目が描かれた粗末な板,無地の板,空を表すホリゾントの3種類の背景で構成される。その他,紅梅白梅の大木,椅子やテーブルやベッド,吊り物と旗指物。床は荒野を表す凹凸があり,砂が撒かれているため散水されていたようだ。降りものの落石も健在だ。
お衣装はジャポニズムを一切排除したシンプルな胴衣に豪華なファーコート,ヘアーはスキンヘッドかショートヘアーでロン毛の鬘もなし。
音は,能管や鼓やつけ打ちを多用し,道化の台詞回しは狂言風,老グロスターとエドガーの道行きは能楽の所作風。

蜷川さんは,リアの悲劇を老耄と短慮が招いた家庭内悲劇の拡大版。コーディリアは想像力と配慮に欠ける娘として矮小化して演出したいとことさら強調なさっておられたようだ。
リアは,冷酷な2人の娘に誇りまではぎ取られ,道化とケントだけを供に,嵐の荒野に放り出される。肉体の苦痛の極致にあって,激しい憎悪と憤怒,狂気と正気の挾間を,フォルテシモの振れ幅で往復しながら,真理を見抜き,邪悪を憎み,貧しきものへの想像力を獲得する。平幹丈のリアは,受難者としての全ての人間を代表する者として,厳然として舞台に存在する。
コーディリアは,父を救うため,フランス軍を率いドーバーに進駐する。勇ましくも美しいこと。序幕でも,追従と偽善を憎み,稚拙ながら一石を投じ宮廷を去る。意外性を強調するための三味線だとしても,コーディリア愚娘説を撤回して欲しい。
これでもかという苦難の最終幕には,縊り殺されたコーディリアを抱いてリアが咆哮するという救いのない結末が待っている。蜷川さんは,ことさら悲劇性を強調し不条理劇として権力者の転落を描きたかったようだが,そこには,運命に能動的に立ち向かい,真理にたどり着いた後に力尽きたヒーローの姿があった。
平幹丈の完全勝利で幕は下りた。果てることのないスタンディングオベイションは平幹丈へのものだった。

平幹丈は,お若いころから,激情を漲らせ,邪悪と苛酷な運命に果敢に立ち向かう主人公を演じてこられた。シェイクスピア劇の主人公は,逡巡し苦しみながらも,二択の場では清く正しい方を選択し,悪人達に挑戦した後に,運命の裁きを粛々と受け容れ,秩序の回復者に後の世を委ね舞台を去る。このような人物像はオイディプスの昔から西洋演劇において描こうとしてきたヒーロー像で,これを演じきる役者さんは,日本には平幹丈のみで,世界的にも高い評価を受けておられる。
初めて平幹丈を拝見した日から40余年。欲目贔屓目コーディリア目線。冷静さを欠いているので一旦置いて,吉田さん高橋さん編は後ほど。
2005年9月17日 ドレッサー
2006年1月15日 獅子を飼う
2007年12月25日マイファーストハムレット

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コメント

>向日葵さま
平幹二朗丈は,大河ドラマやアイドル映画のちょい役もなさいます。偉大であられます。
10年ばかり前,蜷川テンペストを拝見し,本当に引退なされるのかと大泣きしたことございました。あれから,グリークスをはじめ素晴らしい舞台を見せて頂きました。シミジミです。

投稿: とみ | 2008年2月28日 (木) 00時34分

レポ拝読し、感動を改めて思い起こしました。
>運命に能動的に立ち向かい,真理にたどり着いた
>平幹丈の完全勝利で幕は下りた。
全く同感でございます。平幹丈のために設定された王者の劇空間でした。
重い重いお芝居でしたのに、エネルギーを沢山いただいた舞台でした。丈の力のたまものだと思います。生で味わうことができこのうえなく幸せです。

投稿: 向日葵 | 2008年2月27日 (水) 22時08分

>どら猫さま
長い長いお二人の出会いからラストジョブまで見届けることができました。その日は何をするかまで脳内でシミュレーションしていましたので冷静です。
また、いつでも、最後のお芝居と思って見るようにしています。あ、これ、拙宅の看板に揚げようっと。

投稿: とみ | 2008年2月27日 (水) 08時30分

>とみ様
陋屋へのコメントを有難うございました。
夢覚めやらずといった感じの舞台でした。一見、淡々と見えるのに、すごい力のあるリア王でした。
お年とともに、演じ方も変わるのでしょうけれど、今回のリア王が一番、感動しました。
これ以上のリア王は難しいでしょうから、どら猫もしばらくはリア王は、パスしようと思いました。

投稿: どら猫 | 2008年2月27日 (水) 01時34分

>ぴかちゅうさま
>私が抱いていたコーディリア像とずいぶん違った
勇ましさ,美しさ,健気さで群をぬいておられました。姉達はベテラン役者さんがしたい放題ですので,一般的な演出ではコーディリアは旗色悪いですが,蜷川さんは違いました。試練を課すばかりではなく,役者さんへの愛を感じるところに熟成を感じます。ソンケイ。
大阪は舞台の幅が狭く,舞台はぎゅーぎゅーでした。さい芸に行くべきでした。しかし,細かいことは全て消し飛びました。

投稿: とみ | 2008年2月26日 (火) 12時34分

大阪公演のレポのTB&コメントを有難うございますm(_ _)m
私も泣いてばかりおりました。しばらく「リア王」は封印します!
私が抱いていたコーディリア像とずいぶん違ったのはとまどいましたが、蜷川さんの演出意図が今のお年になって変わったということに納得できてしまいました。自分の親の老後の不安感と対峙したショックと重なってしまいました。重たいです。
ここまでにして見せてくださった平幹二朗×蜷川幸雄コンビに感謝、感謝、ただ感謝です!!!

投稿: ぴかちゅう | 2008年2月26日 (火) 01時15分

>ムンパリさま
お仕事とあれば是非もございません。DVD化や放映も期待されますので…。
重く見所多いお芝居ですので,書き始めると長くなりそうなので,速報アップしました。
スリリングな演出家と演技者の巨星対決でした。
平幹丈は,今日的というより悠久的,等身大というより英雄的な芸風ですから,演出家がどのような枠にはめようとしても偉大になってしまわれます。
蜷川さんは元より,役者主義であられますので,目論見どおりのお仕事となって,「終わり良ければ全て良し」となりました。

投稿: とみ | 2008年2月25日 (月) 12時50分

とみさま。早いアップうれしいです。平幹さまは凄いとお聞きしてたのですが、どんなふうだったかがよくわかりました。「欲目贔屓目コーディリア目線」に拍手です〜(笑)。
今回は偶然同じ時間にチケットを取ってたことがわかりました。仕事の都合で行けなくなり、皆さまにもお会いできず残念でした。平幹さまを拝見できなかったことも、ますます泣けてきました・・・ウウウ。

投稿: ムンパリ | 2008年2月25日 (月) 01時27分

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» 08/02/03 平幹二朗×蜷川幸雄ラストの「リア王」 [ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記]
{/kaeru_snow/} 昨日から少し微熱が出てきて大人しくしている土曜日。午後から雪がちらついたが、夕方は小休止?本格的な寒さにさきほどから今冬初めて床暖房を入れてしまった。明日は歌舞伎だし、2/3に観た「リア王」の感想を書いてしまおう。 ウィキペディアの「リア王」の項はこちら 彩の国シェイクスピアシリーズ第19弾。蜷川幸雄にとっても平幹二朗にとってもラストの「リア王」になるということで、S席を奮発してメンバーズ先行でとったら前から2列目!3列目くらいまでは舞台に敷かれた土の埃がすごいと聞いて... [続きを読む]

受信: 2008年2月26日 (火) 00時59分

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