「聖餐城」皆川博子著
久々に重厚長大な小説を読んだ。
聖餐城 皆川博子 光文社
16世紀,神聖ローマ帝国時代の中欧,プロテスタントとカトリックの宗教戦争・ドイツ三十年戦争が舞台。諸侯,皇帝,王,商人の利害と権謀欲が複雑に絡み,戦は金で雇われた傭兵が行う。戦争は長期化し,それに伴う殺戮,略奪と蹂躙で国土は焼土となる。
血みどろの汚泥のなかで,輜重の女商人にこき使われる純朴な少年アディと,ユダヤ人の富豪の息子で複雑な生い立ちと屈折した心を持つイシュアが出会う。
アディは,傭兵隊ローゼンミュラー隊へ入隊し,高潔な武人フロリアンの馬丁となり,自らも武人として成長していく。刑吏の娘と一途な恋もする。
イシュアは,カバラの秘儀を修め,ハプスブルク家に戦費を貸し付け、武器・食糧を提供し、莫大な資産を築き上げて行く。しかし,自分はホムンクルスではないかという疑念に苦しみつつ,「聖餐城」と「青銅の首」の謎を,探求し続ける。
二人の若者は,果てしない戦の巷にあって自らの生きる意味を模索し,運命を切り開く。ドイツ三十年戦争を、傭兵とユダヤ人の目線から描ききった、圧巻の大作!
複雑な歴史的背景や当時の社会経済,表と裏の文化,宗教,分厚く描ききった歴史エンタテイメント。人物も多彩で魅力的だ。息もつかせない流転変転の前半から,落ち着きの中盤,一気に展開する後半と700ページという長さを全く感じさせない筆致に敬服。
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