« 浪花花形歌舞伎の演目が決定 | トップページ | 今週から福井さんがタガー »

2008年1月 6日 (日)

ビューティ・クイーン・オブ・リナーン

Main5日,シアタードラマシティで『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』を観劇した。
脚本:マーティン・マクドナー,演出:長塚圭史
キャスト
モーリーン(独身中年女性・リナーン在住)/大竹しのぶ,マッグ(モーリーンの母・同居)/白石加代子,パートー(モーリーンの意中の男・イングランドで労働)/田中哲司,レイ(パートーの弟・リナーン在住)/長塚圭史
あらすじ
60年代のアイルランドの片田舎,ゴールウェイ コネマラにあるリナーンに暮らす40女のモーリーンは,母と二人暮らし。我が儘で支配的な老母と激しく憎しみ合いながら,朽ち果てようとしていた。
ある日,近くに住むレイが,イングランドで働く兄パートーが帰郷し,パーティーを開くとの知らせを持ち込む。モーリーンは新しいドレスを買ってパーティに出席し,その晩、パートーを家に連れて帰ってくる。娘の幸福をことごとく壊そうとするマッグは,翌朝,激しくののしり,モーリーンに精神病歴があることを暴露する。

にほんブログ村 トラコミュ 演劇へ
演劇

公式によると,英国の劇作家マーティン・マクドナー氏の戯曲を,長塚圭史氏が演出するPARCOプロデュースの企画は,『ウィー・トーマス』,『ピローマン』に続き,これが第三弾で,マクドナー氏の処女作にして最高傑作とか。『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』は,マクドナー(1971年生まれ)が,23歳の時に8日間で書き上げたといわれる作品で,彼の両親の出身地であるアイルランドのリナーン地方が舞台だ。この作品の成功により,マクドナーは,演劇界の寵児となった。
主演の憎しみ会う母娘を大竹しのぶさんと白石加代子さんが演じられた。

主人公のモーリーンは,アイルランドの入り江の丘の上の一軒家という家屋と,強圧的な母親の言葉による暴力,かつては美しかったが朽ちてゆく肉体という三重の檻の中に閉じこめられている。大竹さんは,欲求不満と焦燥と妄想に支配される瀬戸際の女をこのうえないリアリティで息づかせる。
白石さんは,老母マッグを,普遍性のある一卵性母娘のなれの果てとして,おぞましくも諧謔的に舞台上に鎮座する。
二人の生々しく切実なダイアローグによる,心を抉る母娘の憎しみのぶつけ合いには,愛のかけらも無い。さりながら,舞台で進行するシチュエーションには笑うしかない。この閉塞感の均衡が破れたとき,衝撃に次ぐ衝撃により,一挙に救いのない結末へ突き進む。
この家に投石としてパーティの知らせと兄からの手紙を運ぶのは,演出家が演じる近所の若者レイ。社会を反映し,頭の中まで閉鎖的で視野が狭く,好感も嫌悪も感じさせない青年だ。
モーリーンが意中とするレイの兄パートーは,イングランドで労働し,登場人物の中で唯一,少しの視野の広さと現実を打開する行動力を持った男だ。さしたる魅力があるとも思えないが,リナーンにおいては白馬に乗った王子様だ。田中さんは,観客には凡庸に程良く,モーリーンにはこの上なく魅力的に見えるよう,的確に演じられる。

生きながら,生きているか死んでいるかの実感のない島の暮らし。それでもイングランドでの被差別に苦しむ労働よりはましなのか。女の修羅の巷に身を投じることが果たして幸福なのか。狂気と妄想は救いとなる逃げ場となるのか。苦しい命題を突きつけ,戯曲は唐突にエンディングとなる。
なぜか,鬼母の存在をきっぱり否定しているのが気になった。

|

« 浪花花形歌舞伎の演目が決定 | トップページ | 今週から福井さんがタガー »

演劇」カテゴリの記事

コメント

>ムンパリさま
稚拙で浅い理解のエントリにコメントありがとうございます。
>ブラックユーモアの表現が素晴しいエンターテインメントになっていたと思います。
怖いんだけれど笑うしかないというのが絶妙でございました。
>アイルランドの田舎のマイナス面だけがクローズアップされてしまってますが、「ウィー・トーマス」では特有の風土が作品の魅力にもなっていました。
風土や文化に培われた気質に敬意をもって拝見しました。魅力ある芸術家であられますね。

投稿: とみ | 2008年1月17日 (木) 20時48分

とみさま。白石さんと大竹さんは長塚演出でも見事に実力を発揮し、特にブラックユーモアの表現が素晴しいエンターテインメントになっていたと思います。
檻の中の母娘の均衡は王子様さえ現れなければ、永遠に続いていたんでしょうかねー。それもコワイです(笑)。
今回は北アイルランドの田舎のマイナス面だけがクローズアップされてしまってますが、「ウィー・トーマス」では特有の風土が作品の魅力にもなっていました。音楽もいいですし、マクドナー×長塚作品、次回もあればまた見たいです。

投稿: ムンパリ | 2008年1月17日 (木) 12時40分

>hitomiさま
愛憎の機微のようなものは,かけらもありませんでしたよ。
世界史や情勢に明るく,社会性の高い視座のhitomiさまらしくない(笑)。
舞台は,アイルランド西海岸のフィヨルドの奥のこの世のものとは思えない絶景の町。アイルランドは,侵略と圧制,南北分断と決して平坦ではない歴史を刻み,現代は経済も安定し,住みよい国としてEUでも地位を確保している国です。
ワタクシは,舞台見たあと,翻案するのが好きです。普遍化できるか否かの指標です。そこで,グルジアに行き着きました。
ケネディ兄弟とレーニン&スターリンを並べるのは論外かと思いましたが,旧ソビエト連邦では,第二次世界大戦直後,ナチスドイツから,ロシアを守った英雄であるかのようなプロパガンダがなされてました。
ピローマンもウイートーマスも見たかった~。

話が飛びますが,映画「予告された殺人の記録(1987年 フランス=イタリア合作)」の舞台・南米コロンビアも使えそうです。

投稿: とみ | 2008年1月10日 (木) 12時52分

とみ様、演劇紹介番組で見て婦人公論でも見かける、身につまされるテーマだと思いました。2大女優ですね。

ここまで傲慢に縛らなくとも母娘問題は難しく,逃れられないものがあります。罰当たりかもしれないけれど,母が良かれと思ってやることも,娘にとって愛が重過ぎることがあります。可愛がってもらった付けは回ってきます。

投稿: hitomi | 2008年1月10日 (木) 07時30分

>麗さま
再びコメントありがとうございます。
厳しく心に残るお芝居でした。しかし,普遍化,一般化し,落ち込むのも早計かと思います。
えーと,1960年代のアイルランドを昭和10年代の日本の寒村,イングランドを東京,合衆国を満州国に置き換えても物語は成立しません。
うまく符合したのが,1950年頃のグルジア,一家は農奴,壁にかかるのはレーニンとスターリン(グルジア出身)。子供は鞭打って育てるという家訓,報復は国是という土地柄が似合うと思いました。
現代の全ての母娘の鏡と評するのは,刺激的ですが,どこか乾いた風が吹いていて,どよよーんになりっぱなしではなかったかな。

投稿: とみ | 2008年1月 9日 (水) 22時32分

再びお邪魔します。
何度かTBを打たせて頂いているのですが・・・。
なぜか反映されません。(涙)

また忘れた頃にでもTB打たせて頂きますね。

投稿: | 2008年1月 8日 (火) 23時47分

>スキップさま
ワタクシメも5日マチネでした。ニアミス残念でした。
母親が類型的なので,白石さんには役不足のような気がしました。しかし,一般化,類型化及びデフォルメは作家の特権。大いに褒め称えたいと思います。
舞台美術も作りこまれていて素敵でした。お二人の女優さんはまた,小道具の使い方がお上手で自然。さすがです。

投稿: とみ | 2008年1月 7日 (月) 12時54分

>麗さま
時代や国を超えた戯曲ですね。ただ,落とし前のつけ方がアイリッシュでしょうか。イングランドなら,合衆国ならとみょーに神妙に考えてしまいました。
バートーは素敵です。工事現場の事故からボストン行きを思い立つところはいい感じでした。こーゆーフツーの男が英雄的な行動力を発露するのと,大言壮語で革命を目指した男がフツーの女との恋に殉じるという両極端のストーリーに弱いです。
バートーはモーリーンにとっつかまらなくて良かったなんて的外れな感想を持ってしまうほどでした。

投稿: とみ | 2008年1月 7日 (月) 12時35分

とみさま

私も5日のドラマシティでした。
マチネでしたが、ニアミスでしたでしょうか。

二人の女優の競演は、期待通り見応えがありましたね。
確かに鬼母の存在は否定されているように思えました。
さりとて鬼娘の存在が肯定されているかといえばそうでもなく。
私はパンフレットの大野光子さんの解説の文末に書かかれいた
「これは、現代社会の全ての娘たちのための物語であることを
語っている」という言葉がやたら気にかかりました。

投稿: スキップ | 2008年1月 7日 (月) 02時27分

今回パンフレットを見て初めて気付いたのですが、
「ピローマン」もマクドナー作品だったんですよね。
「ピローマン」の舞台も観に行きましたが、
今回の作品同様、ちょっとグロくて、切ないお話だったと思い出しました。

で、「ビューティー~」ですが、2大女優の攻防に圧倒されましたね!
最初は娘視線で観てたのですが、
次第に母親視線で観ている自分に気付き・・・。
介護するほうも、されるほうも、
色々な感情が渦巻いているんだろうなぁっと。
結局は「孤独」への恐怖なんでしょうか。

アイルランドとイングランドの歴史的関係性や、
パンフレットの後ろに記載されていた「語句解説」を、
舞台を観る前に読んでたら、もっと楽しめたのかなっとも思いました。

投稿: | 2008年1月 7日 (月) 00時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/106008/17596534

この記事へのトラックバック一覧です: ビューティ・クイーン・オブ・リナーン:

» 行く宛なき解放 [地獄ごくらくdiary]
開幕前。 緞帳には、何やら風景画のようなものと、May you be half an hour in Heaven afore the Devil knows you're dead. (悪魔に死を気づかれるより30分でも早く天国の一員となれますように)という文字。 幕が開くとこれがそのまま額に入れられ、部屋の壁にかけられて..... [続きを読む]

受信: 2008年1月 7日 (月) 02時28分

« 浪花花形歌舞伎の演目が決定 | トップページ | 今週から福井さんがタガー »