秀山祭九月大歌舞伎23日夜の部リライト
←本買うたしぃ…。画像の借用お許し。
23日,夜の部のみ,唯一度の観劇をさせて頂いた。皆様から,「はよ書かんかい!」という檄を頂戴して,イッキにまとめたので,お目汚しになるかどうか…。
評の締めを迷った。“無心のアーティストとしての筋を通し切った”か,“二人だけの愛の世界を創りあげた”かである。玉様についてのエントリは,後々,謎が解け,加筆することが多い。皆様の暖かい突っ込みをお待ちする次第である。
一、壇浦兜軍記 阿古屋
遊君阿古屋 玉三郎
榛沢六郎 染五郎
岩永左衛門 段四郎
秩父庄司重忠 吉右衛門
平家は壇ノ浦で滅び,鎌倉方は,平家残党・悪七兵衛景清の行方を探索していた。景清の馴染みの阿古屋を捕らえて尋問したが,知らぬ存ぜぬばかり。姑息な代官岩永左衛門は拷問を主張するが,主格の秩父庄司重忠は,琴,三味線,胡弓を順に弾かせ,音の曇りで,彼女の心のうちを推し量ろうとする。
阿古屋は,舞台上で3曲を演奏しながら,行方知れずの夫を慕う心を細やかに表現しなければならない女方の大役だ。当代では,玉三郎丈のみが継承しておられる。また,情理併せ持つ捌き役を演じれば,こちらも当代一の吉右衛門丈が初役で重忠に取り組まれた。
岩永は,人形振りで,眉毛も動きコミカル。重忠は,白塗り生締め。榛沢は,腿だちをとり,美脚モロ見せ>*0*<キャアアッ。浄瑠璃は大夫4人に三味線4丁の豪華な備え。
阿古屋は,花道から前後に3人づつ捕り手を並べ登場する。捕り方も玉三郎丈の一部,長身イケメン揃いで麗姿を引き立てる。上方の花魁の拵えで,平家ゆかりの揚羽蝶と牡丹の金糸の打掛,孔雀一羽の俎板帯。伊達兵庫に絢爛豪華な櫛こうがい,びらびら簪が光りを添える。
花道七三で捕り手たちと揃って見得を切れば,客席は早くも最高潮。
情に厚い重忠との台詞のやりとりが,真情溢れ,「いっそ殺してくださんせ」と,階に身を投げ出して決まる形の美しさ。ここでも息を持ってゆかれた。
3曲の演奏は,超絶技巧,景清を思う旋律もさることながら,合間の台詞の応酬が鳥肌ものの艶やかさだ。琴の後の恋の馴れ初めは一言も聞き落とせない。
「三味線弾け」,「ええっ」も,意外性があって可愛らしい。都落ちの切ない別れ,もう会えないと,儚い縁を嘆く表情の痛々しさと,すすり泣く胡弓のカデンツァに,魂を全部持ってゆかれる。
琴,三味線,胡弓は,恋の始めから終わりまでを奏でる組曲になっている。阿古屋の思いも,意地と張りから,激しい思慕と身を切られる別れ,そして彼方の景清への変わらぬ心だけとなり,思い人に届けと虚空に舞う。お裁きの最中でありながら,二人だけの世界だ。終わらないでと願わずにはいられない。曲の終わりの静寂が白洲の現実に引き戻す。
演奏が終わると,重忠は彼女に無罪を言い渡す。判決を聞くまでもなく,客席はもう無罪を確信して緊迫感が薄れているが,ここで,きっちり物語を締められた重忠は立派。
裁判劇という視点で冷静に考えれば,被告人は,絢爛豪華なお衣装に,百媚のかんばせ,玲瓏たる美声,琴,三味線,胡弓の三種の武器と,したい放題。阿古屋独り勝ちに作劇されているにもかかわらず,緊迫した法廷劇となっているところが,役者さんたちの並々ならぬ位取りの力の確かさと改めて感じ入る。
昨日から急に涼しくなった。弦楽器は明らかに音が変わる。僭越ながら,わが凡器でもそれと知られる。これまで,酷暑の阿古屋は上演記録にはなかったようだ。玉様にも,楽器にも万全のコンディションで,また,聞きたいものである。
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