塩野七生氏のチェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷
ワタクシは,塩野七生氏の作品を全部拝読しているシオ二ストである。熱で動けないときに相応しい作品はこれ。
ルネッサンス期,群雄割拠のイタリア統一の野望を抱いた慢れる若者の,束の間の栄光と急転の凋落の物語だ。
権謀と毒殺により法王の座に就いたと悪名高いアレッサンドロ6世の庶子・チェーザレは,枢機卿の緋衣を脱ぎ捨て,教会軍総司令官として,僣主に支配される小国家を侵略し続ける。
弟も妹も権勢欲の犠牲にした。ボルジア家の家訓の手段を選ばない冷酷無比な策謀術と,怜悧な布石は,反対勢力に対し,完璧かに思われた。リスクマネジメントとして,父の死は元より想定内だ。しかし,想定外の事態が…。
父の死に際し,自らもマラリアに痢患し,生死の境を彷徨う。
チェーザレは,朋友マキャベッリに告げる。“自分は、父の死ぬときにおこりうるすべてを,以前から考えていた。方策も見つけていた。しかし,父の死の時,自分もまた死の境にいるとは考えもしなかった。”
病床にあった彼は,反対派の枢機卿たちを懐柔しようとした。
塩野氏は,限りない愛を込め,青春の恋の決別の餞として,冷徹に彼を断じる。
“ルビコン河を超えた時のユリウス・カエサルの決断力を,千五百年後のこのチェーザレは持たなかった。”と。
塩野氏は,誇らしげにのたまう。「男を変えたの。」
なるほど,同じカエサル(チェーザレ)でも,青春の恋は,容姿端麗,苛烈に生き,鮮烈に散ったボルジアが相応しいが,大人の恋は,軍事の天才,不世出の政治家にして先鋭的ルポライター,老若男女選り好み無しの好色漢が相応しい。
歴史上の人物と同化し,或いは対話し,さらには恋をすることも,別れることさえ可能であると教えられたのが,この作品と,カップリングになっている「わが友マキャベッリ」だ。
後者は,失職し,就活中に読むのが相応しい(と,勝手に思っている。)。
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コメント
>ぴかちゅうさま
>熱を出していてもこんな本を読み返されるおとみ様を尊敬してしまいます。
過分なお言葉恐縮です。情報は耳から,記憶は脳細胞に,段田・塙保其一さんも言っておられましたから,それが理想です。
ミュージカルでは,五重唱でも六重唱でも歌詞が聞き分けられるので効率いいです。
十二夜,千穐楽は,テンションで,リリカル&ロマンティックな香気がそこなわれなければいいですね。
投稿: とみ | 2007年7月20日 (金) 02時05分
>悠さま
もの知らずでご迷惑おかけしました。このメディアでしか表現できない文化ってございますよね。よいものを見つけ出す目が無くて踏み出せずにおります。先達として,ご教授くださいませ。
投稿: とみ | 2007年7月20日 (金) 01時12分
インフルエンザ、回復基調に向かわれましたでしょうか?無理しないでくださいませね。
私は恥ずかしながら、塩野さんの著作はこの本しか読んでおりません。小説読むのが苦手なもんですから(^^ゞ
それと最近は古本屋でGETした五木寛之さんとの対談本『おとな二人の午後』を読んで、俄然お二人に興味が湧いた次第です。五木さんの本なんて1冊も読んでません(^^ゞ(^^ゞ
文字読むの遅くって、どうも情報を耳から入れるタイプのようなんです。だからお熱を出していてもこんな本を読み返されるおとみ様を尊敬してしまいます。
「十二夜」の再演は自分が観る前に宣伝しまくって、3人に観ていただくことにつながりました。松竹宣伝部のボランティアやってるみたいです(^^ゞ
投稿: ぴかちゅう | 2007年7月20日 (金) 01時03分
>六条亭さま
お見舞いの言葉を頂戴するとは恐縮です。
>そういう時にこの本とは、凄いですね。
実は,床の中,携帯で入力,前半・後半字数制限ガチガチで,まとまったエントリ書けるか,トライしてみた修作です。結構推敲してるんです。コメント頂けて素直に嬉しゅうございます。
塩野氏の著作には,いつも,気持ちをアグレッシブにしていただいております。
本日から快気です。
投稿: とみ | 2007年7月20日 (金) 01時01分
>どら猫さま
確かに氏の著作は習慣性ございます。それと,持続性,影響力も…。
また,惣領冬実氏のご紹介ありがとうございました。典型的お嘆美系とお見受けしました。書店では立ち読みが叶いませんので,迷ってしまいます。
投稿: とみ | 2007年7月20日 (金) 00時38分
チェーザレは、惣領冬実さん原作です。「ー」抜かしてすいませぬ。
これが連載されているコミックは、「かぶく者」って、路上歌舞伎役者、ストリート歌舞伎をする歌舞伎役者の若者の物語も連載されてます(原作は、某劇団演出、作者)。
投稿: 悠 | 2007年7月19日 (木) 22時18分
夏のインフルエンザで熱を出されたとのこと。お大事にして下さい。
しかし、そういう時にこの本とは、凄いですね。もっともとみさまに負けないくらいシオニストの私も、『わが友マキャベッリ』もこの本も何回読んだか分かりませんが。
投稿: 六条亭 | 2007年7月19日 (木) 12時38分
うぅぅ。熱を出しているときに選択するのがこの本とは・・・。「マキャベリ語録」を読んだあとに、「わが友マキャベッリ」を読み、この本はタイトルに引かれて購入して一気読みしました。
多分、それがきっかけで、塩野さんの本を片端から読み出した記憶があります。
切り口が面白くて、楽しませていただいてます。歴史の嫌いな友人にも読ませたのですが、「面白い」と言ってくれました。
遅ればせながら「ローマ人の物語」を読んでいるところです。
多分、コミックは「惣領冬実」作、モーニング連載、講談社から出版の「チェーザレ」だと思います。
投稿: どら猫 | 2007年7月18日 (水) 23時26分
>悠さま
>週間漫画誌に連載されてて、単行本は3巻まででている漫画「チェザレ」の連載を心まちにしてます。
それは,存じませんでした。漫画はどこから見るのか分かりにくくメディアとして優れていると思いながら,手を出せずにいます。一度書店をのぞいてみます。チェザレ コミックで検索したのですが,ヒットしませんでした。なんでやろ~。
投稿: とみ | 2007年7月18日 (水) 23時04分
この作品は、ファンしてる女優さんの宝塚時代の名作なんです。dvdでしかみてないんですけど。あ、私、退団後のファンです。
後は、いま、週間漫画誌に連載されてて、単行本は3巻まででている漫画「チェザレ」の連載を心まちにしてます。本は、昔読んでいるんですけど。
投稿: 悠 | 2007年7月18日 (水) 22時51分