南座にレディスパイダー・坂東玉三郎丈の「蜘蛛の拍子舞」
5月20日(日)四条南座で,坂東玉三郎特別舞踊公演を鑑賞した。当初予定がこの20日で,13日は,堪え性がなく駆け付けたものだった。
ご当地で阿国という凱旋ストーリーと,お衣装の斬新さでメインのポスターは阿国の画像が採用されているが,2本の演目のバランスは対等だ。2作品の読み解きは続きを…。
蜘蛛の拍子舞(くものひょうしまい)
花山院空御所の場
振付/藤間勘吉郎,補曲/杵屋勝国,作調/田中傳左衛門,美術/前田剛,照明/池田智哉,捕綴/竹柴正二
白拍子妻菊実は葛城山女郎蜘蛛の精/玉三郎,源頼光/笑三郎,碓井貞光 /薪車,坂田金時/猿弥,渡辺綱/猿四郎,卜部季武/喜猿,坂田金時/猿也,花四天,後見,蜘蛛
世界は,平安時代の武将・源頼光とその四天王による妖怪退治。土蜘蛛を人気女形・瀬川菊之丞向けに,天明元年(1781)の中村座の顔見世狂言として書き替えたものに端を発する。玉三郎丈は,平成10年12月に,市川猿之助丈及び市川段四郎丈他と歌舞伎座で,初役で務められて以来の待望の再演となる。
葛城山に棲息する女郎蜘蛛の精が,刀鍛冶の娘と名乗り,源頼光と四天王の一人・貞光の前に出現し,色仕掛けでたぶらかそうと試みるものの,最後には名刀膝丸の威徳によりその正体を表し,大立ち回りとなる。
中の,三人が交互に拍子に乗って唄いながら踊る部分が拍子舞であり,また,妻菊が頼光をくどく部分とが大きな見所とされている。歌舞伎らしさ一杯の舞踊劇である。
![]() 歌舞伎 |
玉三郎丈の舞台は,装置,衣装,照明,音曲など全てに美意識が生きていて,一言では言えないひとつ上をゆく上質感がただよう。読み解きはつづきを…。
紅葉,照り映えるかのような照明,書き割りの壁の質感も素敵で一瞬で場内を秋の凛と澄み切った空気に変える。三味線の音まで冴えた空気を感じさせる。
紫の病鉢巻がお似合いの笑三郎丈を初め,四天王の皆さんの拵えがゴージャス。頼光&貞光は1度,綱&季武は2度衣装替えがあり,金時は暫のような歌舞伎荒事らしい拵え。蜘蛛さんは,実物大から着ぐるみ大(気色ワルー)にパワーアップが一度。
レディスパイダーの玉三郎丈は,赤地の蓬莱山柄(雲絶間姫がお召しの振り袖)の銀の水紋が蜘蛛の糸を彷彿とさせ,巧みな袂扱いで口説く動きが妖しすぎる。迷惑そうな頼光さん,えらいこっちゃの貞光さんの表情がかわいらしい。後シテの隈取りの怖いお顔より,美しい白拍子の方が数段に怖い。
3人の拍子舞は息もぴったりで,流麗な動きの玉三郎丈の動きに,きっちりついて行かれた薪車丈も立派,何気に舞っておられる笑三郎丈も華麗。歌詞は刀や刀工の名を織り込んだリズミカルなもので,たたらを踏む労働歌を根源に持つものかもしれない。
特筆は,蜘蛛の糸を気持ちよさ気に大量に撒かれる蜘蛛の精(玉様)と,花四天を含む皆さんの立ち回りの凄さだ。綺麗,格好良いで,“やんややんや”だが,信じられない素早さで糸を撤収しながら,新しい糸を蜘蛛さんに渡しておられる後見さんも凄い。後見さんに目が釘付けになってはいけない子かしらん。
玉三郎丈のリストの強さと身体能力は,スパイダーマンを思い出してしまった。天井裏から糸を伝って下りてきていただけたら…と夢想しては,もっといけないでしょうねえ。
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コメント
>スキップさま
自分が観劇できなくなる日の方が先と思って,考えたことありませんでした。スキップさまは,孝玉ばばあとして,子々孫々まで語り継いでいただきたいものでございます。
しかし,関寺小町などは見たいです。
視線の先まで全て玉三郎丈でした、
投稿: とみ | 2007年5月21日 (月) 23時23分
>まこさま
つい後見さんに目が行ってしまいまして,大忙しの功一さんに感動。
また,棚から糸を伝ってシャーと下りてきていただけないかなんて考えたりして…。
投稿: とみ | 2007年5月21日 (月) 23時11分
玉三郎さんの美意識行き渡る素晴らしい舞台でした。
先日、朝日新聞のインタビューで「引き際は自分で決めているし、その時を遅らせるため日々、努力しています。醜い姿、踊れない自分で舞台に立つことはお客様に失礼だから」と話してらした玉三郎さん。
『その時』が永遠に訪れないことを、祈るばかりでございます。
投稿: スキップ | 2007年5月21日 (月) 22時39分
レディスパイダーでしたね。
蜘蛛の糸の放物線がほんときれいでびっくりしました。
客席にもなげてほしかった。
投稿: まこ | 2007年5月21日 (月) 21時59分