玉三郎丈が南座にしつらえられた6曲1双の春秋図屏風・阿国と妻菊・鍛冶の娘は舞い上手
22日(火),熊つかい座の火夜さまから,本公演を読み解くキーワードとなる「どちらも刀鍛冶の娘」という震えるようなコメントを頂戴致しましたので,♪⌒ヽ(*゚O゚)ノ スゴイッ!!! 加筆します。
坂東玉三郎丈の南座特別舞踊公演は,「阿国歌舞伎夢華」(おくにかぶきゆめのはなやぎ)と「蜘蛛の拍子舞」(くものひょうしまい)の二本立て。「阿国歌舞伎夢華」は右隻の桜,「蜘蛛の拍子舞」は左隻の紅葉と,都の春秋を6曲1双(右隻と左隻の2枚組)の絢爛たる大作屏風に仕立てた公演である。一作品中に,桜と紅葉が同時に存在するのは,時の停止した世界・永遠性を示す。
二作品のヒロインの共通点は,鍛冶屋の娘という点にある。玉三郎丈が,このことを仕組んでおられないとは考え難い。
鍛冶職人は山の民である。彼らへの畏敬と,技術や富への憧憬,また,都人との対立は,源頼光と四天王の鬼や土蜘蛛退治伝説に仮託されている。これらから派生した様々な芸能やエンタテイメントは生き続け,近くは,「もののけ姫」や「朧の森」までたどることができよう。
阿国は出雲大社の鍛冶職,中村三右衛門の娘で比類なき舞の上手。阿国は都に勧進に上る。
阿国歌舞伎夢華(おくにかぶきゆめのはなやぎ)
振付/藤間勘吉郎,補曲/杵屋勝国,作調/田中傳左衛門,美術/前田剛,照明/池田智哉,捕綴/竹柴正二
出雲の阿国/玉三郎,女歌舞伎/笑三郎,春猿,守若,延夫,男伊達/猿弥,弘太郎,名古屋山三/段治郎
舞踊劇は,阿国が亡き名古屋山三に扮し,客席から登場し,舞台上の阿国に扮した踊り子と連れ舞を舞ったという伝説や,絵巻物を題材に,夢幻能のように振り付けられている。
戦国の世が終わり,信長・秀吉による天下統一がなされた頃,都には,派手で奇抜な装いをして踊り戯れる「傾き者」とよばれる若者が溢れ,平和と春を謳歌していた。
阿国は歌舞伎踊りの創始者として,一座を率い,今や押しも押されぬ天下一の名声を得ていた。阿国が鎮魂の思いをこめた「念仏踊り」を演じていると,今は亡き恋人名古屋山三の亡霊が現われ,「かぶき踊り」をともに踊る。
平成16年12月,東京・歌舞伎座で初演,山鹿八千代座を経て,御当地南座に阿国が凱旋する。
歌舞伎 |
一座を率いる女座頭阿国は,花霞の白昼夢に現れた亡き恋人・名古屋山三の亡霊とともに,一人の女としての恋情を艶やかに舞う。短い夢はまたたくまに醒め,山三が去った後,悲しみを振り切って力強く舞い始めるが,癒しがたい孤独と断ち切れない恋慕に肩を震わせる。
阿国に寄り添う守若丈,阿国を崇拝する笑三郎丈,阿国を分かろうとする春猿丈,阿国を守る延夫丈と4人のバランスも最高で,傾き者の弘太郎丈の活きの良さ,猿弥丈の楽しさと,観客に全く息をつかせない展開だ。名古屋山三の段治郎丈は,短い出のなかで,無謀な行動からのあっけない死をしっかり表現なさる力演。亡くなったときの若い姿のままの山三と,晩年の阿国のバランスもよろしい(`´)ノ☆(((*;・)ゴメンナサイ。
完璧の遊楽図のなか,ワタクシの理解が至らなかった点が,山三の拵え。水車図がすっきりとお似合いだったが,二幕の頼光さんや貞光さんばりの分厚さが欲しく,舞扇は,絵柄を続きにして欲しかった。どなたか,ご存知であられたなら,お衣装と扇の読み解きをお願いしたい~。
今も,祇園界わいには,舞姫たちが棲む。全てを断ち切り,命の限り舞い続ける苦悩と使命感を引き受け,視覚化してくださった玉三郎丈。次年は,お芝居に期待できるというご発言も…。京都にいてよかったという瞬間だった。
末筆ですが,あのときのあの舞台はそういう意味だったと,何年後かに気付くこともございます。次の舞台の伏線がはってあるやもしれません。考えることを休んではいけないのです(きっぱり)。
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コメント
>びんちょさま
早とちり失礼しました。
前日まで本公演なさっておられた皆様が次の日にもう舞台に…。
京都におりますと,歌舞伎は年に一度気張ってみるというよそいき感がありますが,お江戸は近しい感じがしてよいですね。伝統的な芝居小屋も行ってみたいです。いつか行くぞ八千代座!
投稿: とみ | 2007年5月27日 (日) 23時41分
いえ、俳優祭には行かなかったんです;;
自力ではチケットが取れず、数日前に夜の部に誘ってくださった方がいらっしゃったのですが、その時にはすでに友人との呑み会の予定を入れちゃってたのです。でも、友達との呑み会も楽しかったですし。。。
坂東亀三郎さんのブログ「LOVER SOUL 2nd」にアップされている楽しそうな段さまのお写真を観て満足しました(*´▽`*)
http://blog.duogate.jp/otowayabando/
「阿国歌舞伎夢華」は、八千代座にも一緒に観に行った母も「段治郎さんがますます良くなってたわ~」と喜んでました(*^▽^*)
投稿: びんちょ♪ | 2007年5月27日 (日) 17時01分
>びんちょさま
俳優祭行かれましたか~♪羨ましくないといえば嘘になりますが,何事も身の丈身の丈…。
好きな役者がご出演でも,物語に目を瞑れないびんちょさま!
そーなんです。段治郎丈に着目しますと,抑制が効き,より幽玄です。戦や災いで落命した美しい若者全ての象徴のような気が致しました( ^^)人(^^ )。
死別の痛みに共感し涙するもよし,悲しみに耐えて生き抜く姿に思い入れし涙するもよし…。どっちにしてもなくんやろと突っ込まれれそうですが,手ぶらで天を仰いで泣く,懐紙で泣く,袂で泣く,バスタオルで泣くなど用意するものが違いますのや~。
投稿: とみ | 2007年5月27日 (日) 14時13分
とみ姉さま、こんにちは。
コメントとTB、どうもありがとうございました(*^▽^*)
今回の公演では確かに山三さまの感情表現が抑えられていましたね。私は、より神秘な存在に近づいたのだと感じました。
うまく説明できないのですが、八千代座や歌舞伎座で見た山三さまは阿国の山三さまへの想いが現れたもので、今回の山三さまは山三さまの意志が現れたもの…のような気がしました。
投稿: びんちょ♪ | 2007年5月27日 (日) 12時20分
〉亜朗さま
歌舞伎座や八千代座での密度や,らぶらぶ感を,敢えて,京都で押さえられた意図を考えてみましたが,何と申し上げても,素人の独善ですので…。
何が特別か。玉三郎丈ともあろうお方ですから,歌舞伎発祥の地やご当地の意義は小さいと思います。むしろ,春秋同時の暗喩の方に拘ってしまいました。土蜘蛛塚もちろんありますが,あまり拝みに行く気はせーしまへん。
まー,凡人おとみと致しましては,桜と紅葉の複合柄の帯や着物は,年中使えて重宝程度の認識からのスタートでしたから,ここまで書けたのもみなさまのおかげですm(__)m アリガトォ
投稿: とみ | 2007年5月26日 (土) 22時56分
コメントとトラックバックどうもです。
南座は「歌舞伎発祥の地」の石碑があり、すぐ近くに阿国の銅像があるので阿国を演じる場所としては特別な場所ですよね。
歌舞伎座や八千代座でも上演されているのに満を持して感があったのは、やっぱり南座と阿国という取り合わせでしょうか。
蜘蛛の拍子舞は紅葉の季節の話なのに場違い感がなかったのは、そういった裏の関連性があったからですかね。
そういえば、どちらも都の話だなあ~。
投稿: 亜朗 | 2007年5月26日 (土) 16時27分
>六条亭さま
独善に満ち満ちた拙文に,さらに発展させるコメントを頂戴しありがとうございました。
最近は,春に紅葉狩,夏に三人吉三,秋に髪結新三もためらい無く出ますので,どないなっているんかいなと思っておりました。玉三郎丈が春秋同時にご提示なさる意義は,考えれば考えるほど楽しいものがございます。
投稿: とみ | 2007年5月23日 (水) 22時40分
>火夜さま
今回の公演は,スタティックで絵画的な印象を受けましたね。
頼光と妻菊はお衣装の格が釣り合っているように思われましたので…。
これで暫く,刀鍛冶と芸能の民との関連性について考えて楽しめそうです。扇はわたくしなりの仮説を組み立て楽しみます。
投稿: とみ | 2007年5月23日 (水) 22時19分
火夜さまのご指摘で今回の舞踊公演の主役が刀鍛治職の娘ということを手がかりにした、とみさまの論考は大変参考になりました。この二つの舞踊が対になっているのはなるほどと納得です。謎ときはできませんが。
ただ、刀鍛治は歴史家網野善彦氏の論法にしたがえば、職人であり、その職人は専門とする技能を持った非農業民である職能民と規定されていますから、いわゆる芸人とも言えます。そこから阿国のような遊行・遍歴する歌舞伎の始祖が出てきたことは歴史の必然のような気がします。何か本題から逸れたようなコメントで失礼しましたm(__)m。
投稿: 六条亭 | 2007年5月23日 (水) 22時18分
よろこんでいただけてうれしいです♪
分かる方だけ分かってほしいということだと・・・。玉三郎様は楽しんでいらっしゃいますよね、
さすがに図柄の謎はわかりませんが、冷たい水のイメージ・・・鉄を打つのにはよい水が必要・・・と勝手に判断しています。扇の色の対比は陰陽和合のイメージ??
投稿: 火夜(熊つかい座) | 2007年5月23日 (水) 01時59分
>火夜さま
たたらを踏むステップ,刀鍛冶の系譜,春秋図屏風までは解読できたのですが,最後のピースが埋まりませんでした。火夜さまのおかげで完成しそうです。2本のエントリに加筆し,決定版といたします。
ありがとうございます。涙が出るほど嬉しいです。そーか。そうでしたか。謎が解ければなんでもない。わーい。わーい。
(皆様には何のことやらお分かりになられないでしょうから,加筆します。)
さすが,イラストレーターのお目であられます。
おついでに,山三のお衣装と扇の図柄の謎は解けないでしょうか。
玉三郎丈の笹竜胆の小袖は笑三郎丈がお召しでした。薪車丈も拝領なさったことある義経公のものです。毎公演,玉三郎丈のお衣装の拝領先も楽しみのひとつです。
投稿: とみ | 2007年5月22日 (火) 12時44分
>joyceさま
拙宅にようこそ。玉三郎丈関連のエントリは気合入っておりますが,このようにコメントいただきますと励みになります。
生木を裂かれる悲しみ,どくどくと傷口から出血するような痛みが客席に伝わり,震えました。舞姫でなくとも,それでも舞い続けなければならない使命感は,全ての人間に共通でございます。
ワタクシ的に最も泣けたのが,笑三郎丈に振りをつける場面でした。
>前のブログを読みまして、蓮絲恋慕曼荼羅も見たいです…
光栄でございます。天守物語や,昨年の泉鏡花4部作もなかなか受けました。一度人気順にエントリ整理してみます。
投稿: とみ | 2007年5月22日 (火) 12時32分
初めまして。私は今回の玉三郎さまの舞台で歌舞伎というものにライブで初めて触れた者です。阿国と山三が連れ舞うすがたにうっとりし、呆然自失の阿国にハラハラし、艶やかな郡舞や立ち回りを楽しみと、本当に感動致しました。こちらのブログを読むうちに、無理な事とは知りながら、もう一度見たいと切に思いますので、私も、是非ぜひ映画やDVDにして頂きたいです。(前のブログを読みまして、蓮絲恋慕曼荼羅も見たいです…)では、ついつい長くなり申し訳ございません。
またこっそりお邪魔致します。
投稿: joyce | 2007年5月22日 (火) 10時50分
右隻と左隻とも鍛冶屋の娘が・・・。
南座でみることができる喜びを味わえてしあわせでした。
投稿: 火夜(熊つかい座) | 2007年5月22日 (火) 06時32分
>ぴかちゅうさま
あの月の公演は,江戸情緒あふれるものばかりで,おのぼりさん気分を満喫したなか,唯一おうちに帰った気分を味わいました。
歌舞伎はリピートしないと習熟度があがらないもの。玉三郎丈はリピートしてよし一度きりでも許して頂ける数少ない歌舞伎役者であられます。今月のお江戸が羨ましくないと言えばうそになりますが,大和屋さんと美吉屋さんで,上々吉でございました。ありがたや。
投稿: とみ | 2007年5月22日 (火) 00時22分
>hitomiさま
地方在住は,身の丈にあった楽しみ方ということで…。
写真集購入の受付しておられました。豪華版はさすが,凄いもののようです。
投稿: とみ | 2007年5月22日 (火) 00時12分
歌舞伎座での初演の感想記事を探していただいてのTB、本当に有難うございます。早速TB返しをさせていただきましたm(_ _)m
京都の南座での今回の舞踊公演のチラシはしっかりファイルしております。自分が観た公演はチケット一緒に観なくてもチラシが素晴らしいものもファイルしています。もちろん玉三郎丈のチラシは入手したものは全部ファイルに入っております(^^ゞ
今回の公演はシネマ歌舞伎にならないのでしょうか。歌舞伎座ではない劇場のものもそろそろ製作していただきたいので玉三郎丈の舞踊物第3弾ということで実現していただけないかという願いがむくむくと頭をもたげてきました。
今月の東京は歌舞伎座・演舞場と歌舞伎、文楽もあるしで古典芸能強化月間状態の私。国立の前進座まで手が回らず。「薮原検校」もよかった。感想アップ頑張りま~す(^O^)/
投稿: ぴかちゅう | 2007年5月21日 (月) 22時52分
玉三郎丈も写真集、アイーダ初日も羨ましい限りです。
投稿: hitomi | 2007年5月21日 (月) 22時17分