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2007年2月18日 (日)

コリオレイナス~唐沢さんで世界に挑戦~

Coriolanus 17日(土)マチネを観劇した。
脚本:W.シェイクスピア,翻訳:松岡和子,演出:蜷川幸雄
キャスト
コリオレイナス(ローマの将軍ケイアス・マーシアス)/唐沢寿明,ヴォラムニア(母)/白石加代子,オーフィディアス(敵将)/勝村政信,ヴァージリア(妻)/香寿たつき,メニーニアス(友人)/吉田鋼太郎,シシニアス(護民官)/瑳川哲朗 他
あらすじ
B.C.5世紀のローマは内患外憂の時代。王政から共和制に移行し,貴族と平民は緊張関係にあり,ヴォルサイ人の侵攻も絶え間なかった。名門貴族の将軍ケイアス・マーシアスは,16歳の初陣以来,17たび戦い17回の勝利を収め,都市コリオライを陥落させた戦功により,コリオレイナスの称号を得た。これにより元老員から執政官の一人に推挙されたが,就任するには,民衆の前で襤褸をまとい,戦の傷を見せ,承認を得る必要があった。日頃から誇り高く持てと母より厳しくしつけられ,ローマのために戦っているという自負に凝り固まった彼は,平民を嫌うばかりか,平民にも決定権があるという制度そのものを憎む。短気で堪え性のない彼は,平民に暴言を吐き,あっけなく追放された。
ローマを逆恨みした彼は敵将オーフィディアスを頼るが…。

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演劇

いちいちこれはあのときの…と申し上げないが,全面鏡,階段状の舞台,襖の開閉による場面転換,英国での上演を意識したアジアンテイストとジャポニズム,群衆の上手な使い方,華麗な殺陣と効果音,勢いある血飛沫,時制の抽象化,客席下りとこれまでの数々の成功はきっちり踏襲した手堅い演出だ。十二神将,蓮上の観世音,般若心経,曼荼羅に刺繍する女たちと仏教のモチーフもふんだんに盛り込まれているが,アジアを表す以上の効果はなく仏教的救済の世界観は皆無だ。
逆に登場しない蜷川メソッドを数えると,エピローグとプロローグの一致,メタシアターの構成,降りもの,秩序の回復者が実は邪悪な権力者というどんでん返しであろうか。
衣装,装置,小道具全て詩的なまでに美しく,蜷川さんの思い入れが光る。

何より,コリオレイナスはキャスティングの勝利である。コリオレイナスに唐沢さん,猛母に白石さんを起用したところで勝負はあったも同然である。
コリオレイナスは,母の期待を一身に担い,強く賢くあれ,怯懦を憎め,高貴であれ,ローマに忠誠をつくせ,母を敬えとたたき込まれて育った。ゆえに妥協と方便,無知と付和雷同でたやすく先導されてしまう民衆を憎む。
母を敬愛し,母の価値観が自分の価値観であるコリオレイナスだが,融通がきかなく,すぐ切れ,きつい逆恨みは彼自身の資質である。これを母に指摘されたことが彼の悲惨な末路につながる。母に,「おまえは私の息子ではない。」と言われることは全世界を敵に回すより恐ろしいことなのだ。
勇猛でありながら娘役をさせたい美貌。唐沢さんほどこのお役を表現できる方はおられまい。「リチャード二世」も君のものだ。お声が少し苦しそうなので,ご養生を祈る。
コリオレイナスの母ヴォラムニアは,軍国の母であり,母性より父性を行動原理とするが,権力の掌握のためには欺瞞も敢えてできる度量をもつ傑物だ。全ての役者と観客を睥睨する迫力は,白石さんそのものである。
オーフィディアスは,激しく敵対するかと思えば,無二の親友としてケイアス・マーシアスを御し,最終的には危険人物として葬り去る。激しい殺陣,美しい衣装と儲け役だが人物像に一貫性が無く難しいお役である。勝村さんはお姿・お声に求心力あり。
母の前に影の薄い寡黙な妻を演じた香寿さんもお綺麗である。
膨大な台詞のメニーニアス・吉田鋼太郎さんは,今回は訳知りの捌き役。何でもお出来になる。策謀家の護民官・瑳川さんは,やはりそれらしい。
民衆や兵士を何役も演じられた皆さんの芸の力にも敬服する。

戯曲の主題は,傲慢男の心の隙ゆえの破滅と扇動されやすい民衆の力への畏怖と侮蔑…。蜷川さん,観客に,君もこのような愚民だと喧嘩売っていないか。客席を照らし,鏡に映すことで何を訴えようとしたのか。私は許すが,英国批評家が何と言うのか少し怖い気がすると申し上げれば,甘やかしすぎるだろうか。

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コメント

>ぴかちゅうさま
おかしなところにコメントして申し訳ございません。もしよろしかったら,移動していただければ助かります。
ハズカシー。
レイフ・ファインズさんの来日公演で「コリオレイナス」と「リチャードⅡ」見ました。高潔,傲慢,美貌,孤立,なぶり殺しの似合う役者さんも戯曲も大好きなのです。ハムレット風名誉の死が妙に甘く感じられました。ま,どっちにしても生きる場所は無いのでしょうが…。
どちらにしても,演劇本場をうならせることまちがいおません。拍手で送り出します。

投稿: とみ | 2007年2月20日 (火) 22時41分

>おまえらも衆愚だと客席に照明を向けるのは,蜷川さんシンパのワタクシでも,喧嘩売ったなとなりました。殆どの女性は,白石さんに感情移入して鑑賞しているのですから…。
うーん、私は衆愚かと決めつけたとは思わずに挑発的に問いかけたという受け止めです。観客には常につきつけられてしかるべき問いかけだとの快感でした。だからこういうタイトルの記事になった(^^ゞ
私は白石さんのお役への感情移入はほとんどないんです。見上げた女だとは思いますが。あの母に育てられ、器量的には母より劣ればマーシアスのような男になって当たり前くらいの感じです。だから可哀相だったんですよ。その可哀相さが唐沢くんによってけっこう魅力的に感じたりしたのでした。だから敵の大将に殺される方がやはりいい。母の前でローマ市民に嬲り殺しというのではあの母もアイデンティティ・クライシスになってしまう気がします。
これまで観た蜷川シェイクスピアの悲劇の中では一番気に入りました。ロンドン公演ではきっと評判がいいと思ってます。

投稿: ぴかちゅう | 2007年2月20日 (火) 21時33分

鏡の使用は,劇中劇で客席に背を向けて演技するときや,観客を広場の市民に見立てるときには効果的です。
しかし,客席に照明を向けるのは,蜷川さんシンパのワタクシでも,喧嘩売られた気分になりました。
大衆と扇動者の暴力は,遠くはプルターク英雄伝,シェイクスピア戯曲,近くは野田秀樹さんが好んで主題にしておられます。
性格悪すぎるマーシアスは,ローマ市民の裁きを受けるまでも無く滅びました。戯曲には注文付けられませんが,ローマに戻ってローマ市民になぶり殺しにされるとすっきりしたように思います。唐沢さんは,なぶり殺しが似合うステキな俳優さんですね。

投稿: とみ | 2007年2月19日 (月) 19時57分

こんにちは~!
演出やキャストは手堅く重厚で満足でしたが
昨年の
あわれ彼女は・・・
オレステス
同様、戯曲に魅力を感じませんでした。

鏡の演出は蜷川さんよく使われますよね~
今回は鏡に客席を映すことで客席も
ローマ市民の一員?
沢山の人を見せるマジックだと解釈しました。

私の方からもTBさせて頂きますね。

投稿: 木蓮 | 2007年2月19日 (月) 15時46分

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