硫黄島からの手紙
10日に鑑賞した。
硫黄島からの手紙 LETTERS FROM IWO JIMA
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙,二宮和也,伊原剛志,加瀬亮,中村獅童ほか
2006年,硫黄島戦跡の地中から膨大な書簡が発見された。それは,61年前,この地で戦った日本兵たちが,届かないと知りながら書き残したものだった。
1944年6月,陸軍中尉栗林忠道(渡辺謙)は,本土防衛の最後の拠点である硫黄島に着任した。米国留学経験を持ち,合理的な考えの栗林は,少ない兵力を最大限活かし,一日でも長く持ちこたえようと従来の作戦や軍規を変えてゆく。同じ頃着任したロス五輪馬術の金メダリスト・バロン西(伊原剛志)は,栗林の方針に賛同するが,伊藤(中村獅童)ら古参の下士官たちの反発は根強かった。若い兵卒の西郷(二宮和也)は,栗林に心酔する。また,エリート憲兵から一兵卒に落とされた清水(加瀬亮)は,疎外感に悶々としていた。
いよいよ,1945年2月19日,攻撃が開始された。圧倒的な兵力を誇る米軍は,5日間で陥落と予測していたが,日本軍は栗林の指揮の下,戦史に残る36日間の苛烈な長期戦を戦った。
栗林忠道陸軍中尉は,太平洋戦争において,最もアメリカを苦しめた男として米国民に畏敬の念をもって語り継がれている。イーストウッド監督に,自国軍が苦しめられながらもなお,描かなければならないという気にさせたのは,栗林の下,祖国を守りたいという一念で,死より辛い36日間を戦い抜いた日本の男たちであった。
イーストウッド監督は,衛生兵を狙う日本軍,投降兵を射殺する米軍,日米両軍の極限状態の兵たちの感情をリアリティを持って容赦なく描き出す。米国側の視点で撮った「父親たちの星条旗」で,作られた英雄たちの戦中戦後を描くことにより,国家の酷さを暴き出していたが,日本側の視点の「硫黄島からの手紙」では,一つの島に双方合わせて数万人の兵士を投入し,彼らの生命が無残に失われてゆくことへの激しい抗議が,結論として描ききっている。
「祖国の信念は自分の信念となる。」と栗林は明言する。また,「正義を貫けば,それが正義になる。」と,同じ言葉が,捕虜として死にゆく若い米兵サムに宛てた母親の手紙に記載されていることを,西郷と清水は西から聞かされる。米国人も鏡に映ったように同じ人間であることを知る二人…。
誤った戦争に導かれながらも,自分の「正義」をつらぬくことで誇りを保った愛しい男たちを讃え,国家は償いきれない罪を犯していることに憤らなければならないと監督に教えられる。
渡辺さんを始め素晴らしい演技者を揃え,このようなメッセージ性の高い崇高な映画を撮っていただいた監督に感謝すると共に,日米双方で2本あわせて鑑賞し,相互理解のうえ,平和への誓いを新たにしなければならないと神妙に思った。
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コメント
>dandanさま
恋愛を男女双方から書くのとは桁違いの命懸けの真剣さが求められます。ヘタしたら暗殺の標的にもなりかねない果敢な挑戦でございます。合衆国でもこの順で上映されたかと思われますが,国民の皆さんの評価はいかがだったのか気にしております。
国を愛することは間違ってはいないという主張が,我々の世代には眩しいです。
投稿: とみ | 2006年12月19日 (火) 23時28分
とみさま
コメント有難うございました。
戦争というものを戦った双方から描いてみせたということで、この作品は映画史に残る名作だと思います。
一方の側からでは語りきれない、100%の正義を振りかざすことに限界があると分かった今の世の中がこの作品を撮らせたのでしょうか。
国家の歪んだままの暴走。右傾化する昨今、政治家の方に己が進む道が正しいかを今一度問い直してみて欲しいと思いました。
とみさま同様、監督へ感謝の念と平和への誓いを心に刻みたいと思います。
投稿: dandan | 2006年12月19日 (火) 11時19分
>あさこさま
映画の感想,ましてや戦争映画は,全く書けなかったおとみですが,あさこさまの薫陶のおかげで少しづつではありますが,考えをまとめることができるようになりました。
とにかく良い映画を見て感性を育てることが第一歩ですね。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: とみ | 2006年12月16日 (土) 21時55分
>あさこさま
ココログはいろいろ理解不能なことあります。トライアルありがとうございました。
>国民の「自分の生まれ育った国を愛する」という当たり前
武士の一分で思いましたが,明治以降,農民や町人を皇国の兵士に洗脳するため,武士道を本来のものとねじ曲げたと思いました。武士は戦士だから怪我をすることもあり,保障が必要です。一つの作戦の失敗で一々自決させる日本軍部の軍規は,兵がいくらでも補給できる状況のときだけです。今の日本の企業が違うと言い切れるのでしょうか。
薄ら寒く感じます。米国のイーストウッド監督しか言えないというのが最も寒いです。
投稿: とみ | 2006年12月16日 (土) 21時52分
とみさん、何回やってもTBできません(涙)。
「武士の一分」もダメでした。同じココログ同士なのに・・・(泣)。
投稿: あさこ | 2006年12月16日 (土) 14時35分
とみさん、こんにちは!
>祖国の信念は自分の信念
あんなに立派な人がなぜ愚かだとわかってる戦争に身を投じるのか?
私はとても疑問だったのですがこの栗林中将の発言には
納得できました。
国民の「自分の生まれ育った国を愛する」という当たり前の
気持ちを、誤った方向に導く国家に怒りを感じます。
教育基本法改正であーだこーだ言われてますが
法律そのものよりもそれをどう扱うかという政府の気質の問題だと思います。
子どもには「何があっても正しいことを貫きなさい。」と
今朝の新聞を見て諭しました。
2部作合わせていろいろ考えさせられるいい映画でした。
投稿: あさこ | 2006年12月16日 (土) 14時33分
>悠さま
二部作で描かれると,相互理解が出来なかった無念さが際立ちます。星条旗で,屍を越えて進めという命令を発する米軍の上官が向こうにいます。どちらにも正義はありません。
同じ人間というメッセージが響きました。
双方合わせて10万人が少し分かりにくかったでしょうか。
投稿: とみ | 2006年12月16日 (土) 09時45分
合理的精神にみちた栗林中将が、他の兵隊から、アメリカかぶれの、軟弱者にみえるっていうところも、公平に描いてて、いい映画でした。二宮君を兵士として送り出す、婦人会のおば様も。
国の誤りー兵士らが生きたいと願うのに、死なねばならない。どちらも、描くっていう、こういう映画、さすがだな~と。
投稿: 悠 | 2006年12月14日 (木) 23時51分