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2006年12月24日 (日)

南座顔見世・仁左衛門丈の俊寛

夜の部の最初は,片岡仁左衛門丈の俊寛。2000年4月,十七代目中村勘三郎十三回忌追善興行では,当時の勘九郎丈が,丹波少将成経を演じられている。仁左様が,松嶋屋の威信に賭けてどう演じられるか期待!
Photo_3 俊寛僧都:片岡仁左衛門
丹波少将成経:片岡秀太郎
平判官康頼:片岡愛之助
海女 千鳥:片岡孝太郎
瀬尾太郎兼康:市川段四郎
丹左右衛門尉基康:片岡我當
平家全盛の世。陰謀が発覚し,鬼界ヶ島に流された俊寛,康頼,成経の3人は,絶望的な暮らしをしている。この日,成経が海女・千鳥と祝言するということで,久々に全員が揃った。俊寛を父親,康頼を兄と立てる純真な千鳥。そこへ赦免船が到着し,一同喜び合えるが俊寛の名は赦免状には記されてなかった。
↑余談ですが獅子丸は本日が誕生日で満1歳となりました。
松嶋屋さん贔屓のうさぎさん,ご訪問ありがとうございました。

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歌舞伎

仁左衛門丈は,俊寛を誇り高く気骨ある知的エスタブリッシュメントとして造形されている。都にあっては,清盛の信頼も厚く目をかけられていたに違いない。清盛の憎しみが深いのもそのためである。また,妻を愛する男性としても高潔な人物である。配流中には,同じ境遇の若い二人に,父親のような気持ちで接してきたし,新たに千鳥という嫁を得たからには千鳥は娘である。ただ一緒にいたいという一途な思いを阻む無慈悲な瀬尾は,娘の敵であり,妻を死に追いやった清盛の手先であるからには妻の仇である。一身を犠牲にしても愛する者のために戦うあるべき男性像である。泣けないわけがない。立派さが激情の中にあっても益々輝く芸の力にひれ伏そう。
さて,人形浄瑠璃作家の近松は,義太夫に「思い切っても凡夫心,岸の高見に駆け上り,爪立て打ち招き,浜の真砂に伏し転び。」と,一人になってから人間としての本音をさらけ出し慟哭する聞かせどころを用意した。俊寛役者にとっては,赦免船が遠ざかってからが最大の試練である。
役者さんのニンに必然があれば,よれよれになって長く手を振り続ける凡夫モードでも素晴らしいであろうが,仁左衛門丈は,道真公と同じく高潔な人物のまま悲哀を見せる。
終幕は孤独と絶望を示す波布,岩と松の装置が美しい。1階で観劇していても2階に走りたくなる。回り舞台が渦潮になる瞬間だ。オペラグラスでのぞむと(負け惜しみでなく)真に迫り涙で見えない。
俊寛という全人格の素晴らしさを発露する相手はもはやいない。学識,技芸を伝える若者も愛を注ぐ妻子もない。たった一人になったとしても自分のために高潔さを保ち続ける男が長く生きられないということを観客は知ってしまうのである。

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コメント

>獅子丸へ
松嶋屋さん贔屓のうさぎさんと俊寛談義で盛り上がって良かったね。また,仮想キャストでも考えておくんだよ。

投稿: とみ | 2006年12月27日 (水) 00時42分

>しおむうさま
孝太郎丈の純朴且つ一途な千鳥は中村勘三郎丈に教わったものとのこと。この後の千鳥は今度は父のために命を懸けて恩に報います。そんな健気さを感じさせて頂ける熱演でした。
さて,中継録画で硫黄島公演を見ました。勘太郎丈が千鳥でした。間違いなく健気で必死であられました。
仁左さまとの相性は孝太郎丈がベストなのは自明ですが,仁左さまと勘太郎丈の組み合わせも拝見したいです。

投稿: とみ | 2006年12月27日 (水) 00時38分

きょうは成で威信激情した。
さておとみさんと誕生すればよかった?

投稿: BlogPetの獅子丸 | 2006年12月26日 (火) 14時20分

>ばばろあさま
いつもごらんいただきありがとうございます。拙文ではございますが仁左衛門丈の俊寛のイメージは伝わったかとほっとしました。さて,ワタクシは孝太郎丈の千鳥は初めてで,時蔵丈は二回拝見しています。
「鬼界が島に鬼はなく鬼は都にありけるぞや。せめて一夜添ひ寝して,…,女子一人乗せたとて軽い船が重らうか。」
「この岩に頭を打ち当て打ち砕き、今死ぬる少将様。」
このくどきが,切々と理不尽を訴えて説得力があり涙を誘って,申し分ない千鳥さんでした。
孝太郎丈は,「乗せてたもう」と荒れ狂うところに迫真力があり,ええやんでございます。
俊寛の嘆きは,運命悲劇に咆哮するオイディプスであり,艱難辛苦に泣きじゃくるリアであり,どの役者さんが演じても,それぞれの人間としての苦悩をさらけだすことなしの演じられない難物であると思います。勿論,素浄瑠璃も同じです。

投稿: とみ | 2006年12月25日 (月) 19時30分

>cocoさま
観劇回数の少ないものの負け惜しみですが,記憶の持続度は高いです。思い出して反芻しているうちに美化してきますし…。
松嶋屋万歳でございました。
孝太郎丈の千鳥の人物造形も無理が無く,好感が持てました。いずれ決定版になる日も遠くないことでしょう。

投稿: とみ | 2006年12月25日 (月) 19時11分

本当に素敵な記事をありがとうございます。
観ていない私も仁左衛門さんの俊寛をしっかりと
妄想させていただきました。
拙ブログでリンク貼らせていただきましたが
不都合ございました・・・・・・・・

投稿: ばばろあ | 2006年12月25日 (月) 16時40分

すてきなエントリありがとうございます。
月初めに観劇したもので、遠い昔のような気がしていますがまだひと月たっていませんでした。。。このエントリを拝見して、仁左丈の俊寛、そして松嶋屋さん諸氏のアンサンブルに磨きが掛かった状態での観劇、本当にうらやましく、また観劇時の感激がよみがえってきました。

獅子丸さんもおたんじょうびおめでとうございます☆うかがっていたのはもしやウチの子・・・ そうでなければあちらのお宅のお子さんですね(*^.^*)なんとタイムリーなコメント!

投稿: coco | 2006年12月24日 (日) 23時50分

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