トーチソングトリロジー
PARCO劇場プロデュース・名作トーチソングトリロジーを10日,梅田シアタードラマシティで観劇した。タイトルとおりの3幕劇。
作:ハーヴェイ・ファイアステイン
上演台本・演出:鈴木勝秀
出演:アーノルド/篠井英介,エド/橋本さとし,アラン/長谷川博己,ローレル/奥貫薫,ディビッド/黒田勇樹,ベッコフ夫人/木内みどり,VOCAL&PIANO/エミ・エレオノーラ,ラジオのDJ/池田成志
ACT1:インターナショナル・スタッド
クラブ歌手のアーノルドは,トーチソング(片思いや失恋の歌)をレパートリーとするゲイである。エドという恋人もいるが,バイセクシャルのエドは女性とつきあい,実は結婚も考えているという。衝撃のアーノルド…。
ACT2:子供部屋のフーガ
エドとその恋人ローレル(女)から,週末,別荘に誘われたアーノルドは,美青年アランを同伴して,その招待に応じた。男3人と女1人の片思いの連鎖は複雑怪奇。微妙な一夜が明け,双組のカップルが誕生した。
ACT3:未亡人と子供 最優先
2幕から4年,アーノルドはアランを亡くし,デイビッド少年を養子に迎えていた。たまたま妻と別居を始めたエドが転がり込んできたところへ,アーノルドの母親が訪ねてきた。未だに息子のセクシュアリティを受け入れることができない母親とアーノルドは激しい口論となる。
心のつながりを求めてやまない優しい男たち。多くを求めすぎる女たち。愛で真剣勝負しているか,アーノルドは問いかける。性別,年齢,全てを超越した尊厳ある個人として,愛と尊敬を激烈に渇望することへの全面的賛同と見た。この結論は,アーノルドが美しく知的で,可愛く逞しく溢れる愛情で包みこんでくれないと可能とはならない。最高のアーノルド役者・篠井さんを得たことで,この戯曲は生き延びてゆくことだろう。
![]() 演劇 |
さとっさんは事もあろうに主要登場人物全てに関わってしまう(^^ゞおいしいお役である。相手はラクダでも野菜でも良いと言うのが爆笑もの。長谷川さんは,激しい生き方が現れているし,黒田さんも傷ついた少年らしさが光る。分の悪い女性役の奥貫さんと木内さんも男性から見た女性のうざさが,男たちのピュアさと対照的だ。
あー,「詩人の恋」が始まるので続きはまた加筆する~。
普遍的なようで5年,10年の微妙な時差が気になるテーマ,恋愛に社会的メッセージが見え隠れする物語は引っかかる。すっきり酔える「オペラ座の怪人」及び「ウエストサイドストーリー」と,感動しながらもそうだったかなとクエスチョンが残る「トーチソングトリロジー」及び「レント」を例示すればこの引っ掛かりがお分かりいただけるだろうか。「コーラスライン」がこの中間領域にある。
一幕,二幕のストレート,バイセクシャル,ゲイの愛の四角関係から,三幕において子の世代(デイビッド)と親の世代(ベッコフ夫人)が参戦することにより,価値感として時間軸が加わりトリロジーらしくなる。
トーチソングトリロジーでは,アランの死因はエイズではない。レントでは,エイズ発症者の死を避けられないものとして作劇している。いずれにしても,愛の戦士たちの命を掛けた生き様の前に,真っ当とされる価値観は何と空疎なことか。
前述したとおり,性別,年齢,全てを超越した尊厳ある個人として,愛と尊敬を激烈に渇望することへの全面的賛同と見たい。篠井さんを得たことでこの戯曲は数年は生き延びてゆくことだろう。
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コメント
>midoriさま
トラコメありがとうございました。鹿賀版,カトケン版,映画版全て踏破とはブラボーでございます。ワタクシはカトケン版と映画版のみです。普遍性のある人間愛の物語となっていたに同意でございます。
愛の総量の多寡とラブ・シェアリングは永遠のテーマです。いつも測り合っていなければならない苦しみもまた愛。損得をいうのなら,結局は惜しみなく多く愛した者の勝ちという気がしました。
このような演劇らしい演劇はやはり見応えがあります。みなさまにありがとうと申し上げたいです。
投稿: とみ | 2006年12月19日 (火) 23時11分
とみさま>
以前、拙ブログにコメントをいただきましたmidoriです。
その節は、ありがとうございました!
久々の上演でしたが、物語の持つ普遍性は、やはり変わっていないと噛み締めました。
感想をアップしたので、トラバさせていただきました。
(*^^*)
投稿: midori | 2006年12月19日 (火) 00時28分
>ハヌルさま
加藤さんの詩人の恋はNHKの芸術劇場ですから,まさかの見逃し…。
途中で休んだのでエントリの考えはまとまりました。
性同一性障害と性的嗜好を完全ではありませんが理解できる世の中になり,エイズも不治の病ではなくなりました。
愛し方がいろいろあるのでなく,愛が一つなのですよ。
主演のキャラクター大事だ~と思いました。
投稿: とみ | 2006年12月16日 (土) 21時42分
とみさま、こんばんは。
今回のトーチソング、観たかったなあ。。。
その昔、私も加藤健一事務所で観ました。
かなりゴツい加藤さんのアーノルドだけど、でも可愛かったような・・・(苦笑) この時のエドは、松本きょうじさんでしたね。良いコンビだったのに、亡くなられてしまってホントに残念です。
篠井さんのアーノルドはあり、でしょうねぇ!エドもさとしさんなら、キレイなお二人だし・・・。
人を愛するのに、性も年齢もない、色んな愛しかたがあってしかりなんだなあって、こういうテーマの芝居を観ると感じさせられます。
でも、だからと言って、もし愛する男性から、”他に好きな男性が出来た”と言われたら、それを素直に容認できるほど寛大かつ冷静でいられはしないと思いますけど(苦笑)
P.S.詩人の恋、放映されてたんですか?! しまった!!
投稿: ハヌル | 2006年12月16日 (土) 20時48分
>花梨さま
暴走婆のエントリに暖かいコメントありがとうございます。
ご母堂さまとご観劇,素敵ですね。
リスキーな生き方をしてきた親の世代を批判する保守的な子の世代というのが,マイスタンダード(マンマミーア系)になっているのが怖い(爆)!
レントのご指摘ありがとうございます。「エイズはこの時代,不治の病だったのか。」,「ここで蘇生してもあと一週間。」とあたかも結核を語るように教え合っている若いグループの会話を聞きながら記憶にしまい込んだので,つい,物語が死で終わらないだけで,一年或いは一週間後の死の必然を哀しく呑んでしまったのでした。
「レントでは,エイズ発症者の死を避けられない運命として作劇している。」に訂正します。
投稿: とみ | 2006年12月14日 (木) 07時54分
とみさま
こんばんは。ようやく大阪公演ですね!ウチのblogへのコメント&TB有難うございます。
自分は初見だった為か、時代の古さは全く感じませんでした。むしろ母と見てたので、三幕はかつての自分達の喧嘩(テーマは違えども、お互いの価値観を譲らない辺りが。)を見ているようでした。
長谷川さんのアランが、この戯曲を際立たせているというのには同意。
RENTにはちょっと時代的なものは感じますけどね。あ、ミミはRENTの物語の中では、死んでいませんよん。ミミが生き返って、ラストです。
ちょっと気になったので…済みません。
投稿: 花梨 | 2006年12月14日 (木) 00時58分
>麗さま
トラコメありがとうございます。東京に遅れること半月。大阪に来ていただけてうれしかった~。
さて,貴宅に押しかけ,失礼にも早よ書かんかいと申し上げ,自宅で同じことしてしまいました。いや,加藤健一さんが教育テレビの芸術劇場にご出演とあってつい(^^ゞ。
トーチソングトリロジーやLENTなどちょい古ものは,みょーに身構えてしまいます。説得力のある見事な愛の物語でした。
投稿: とみ | 2006年12月11日 (月) 23時11分
とみさま
拙blogへのTB有難うございます。
やっと(?)、とみさまもご覧になったんですね!
篠井さんの美しいお姿を堪能されたようで何よりです。
女装姿は、1幕の1シーンのみでしたが、
終始、女性らしく可愛いアーノルドを演じていた篠井さんに首ったけでした。
さとしさんと黒田くんが並んでいると、「遠近法?」と思わずにはいられない程の、
顔の大きさの違いに笑いそうになってしまいました。(笑)
追加予定の感想の加筆も楽しみにお待ちしております。
投稿: 麗 | 2006年12月11日 (月) 22時22分