伊賀越道中双六・素朴な感想2
岡崎から
2時間の大曲,岡崎の段である。
中 竹本三輪大夫・鶴澤清志郎
次 豊竹英大夫・竹澤宗助
切 竹本綱大夫・鶴澤清二郎
切 豊竹十九大夫・豊沢富助
お袖は家に志津馬を連れ帰るが,母(蓑二郎)は,娘は許嫁がある身と退出するよう説得する。主・山田幸兵衛(文雀)が帰宅する。志津馬が盗んだ手紙の受取人が幸兵衛で,股五郎に加勢を依頼する文面となっていたため,とっさに自分が沢井股五郎と偽ってしまう。喜んだのはお袖。股五郎が嫌っていた許嫁だったのだ。
追われる政右衛門が幸兵衛の家へやってくる。二人はかつての師弟であったが,政右衛門は慎重に,かつての名・庄太郎を名乗る。皮肉にも庄太郎に娘婿・股五郎への助力を頼む幸兵衛。すっかりうち解け,師匠の煙草を刻んで孝養を尽くしているところ…。
文楽 |
いよいよ物語は佳境へ。奇しくも政右衛門の妻・お谷(紋寿)が生まれた息子を一目夫に見せようと訪ねてくる。政右衛門は「まずい」と母に追い返すよう進言し,母は,寒さと絶望で気を失ったお谷から赤子だけでもと取り上げ家へ入れる。
赤子の守り札から政右衛門の子と知れ,幸兵衛は良い人質が出来たと喜ぶ。その刹那,政右衛門は迷わず赤子を刺し殺し庭にうち捨て,卑怯なまねはしないと宣言する。
幸兵衛は心底知れたりと,股五郎に引き合わせようと志津馬を呼び寄せる。すわっと鯉口を切る二人が顔を合わせてみれば味方!実は幸兵衛は見抜いたのだった。
政右衛門の忠節,胆力,義理と恩愛に引き裂かれた苦衷の選択に打たれた幸兵衛。かくなるうえは,股五郎を裏切ると決めた幸兵衛だったが,哀れお袖はそれを知り尼になってしまう。最も悲惨なのはお谷。気が付いたら,夫に会えたが無惨にも我が子は冷たい骸に…。
伊賀上野敵討の段
南都大夫,新大夫,津国大夫,芳穂大夫他
なんぼなんでも,このまま終われない。カタルシスのエピローグが用意されている。
伊賀上野の城下。助太刀を全て引き受け片づけた政右衛門。いよいよ,一騎打ちの末,志津馬は股五郎を討ち果たし大団円を迎えた。
発端は卑怯な若者(股五郎)が軽率な若者(志津馬)を騙し,その父(行家)を殺害したものだった。それが,各々に加担する幕臣旗本方と外様大名の確執の代理戦争のようになってしまった。曲は高名な伊賀上野鍵屋の辻事件を扱っている。
政右衛門の運命への苛烈すぎる対峙のあり方に,「そこまでせんかて」と声をかけたくなるが,武士だけでなく市井の人々を絡め取っていた忠義,建前,定めを謡いあげると共に,立ち向かう人間,共感する人間の素晴らしさを描いたものである。
袖萩祭文と同じく,門口で女主人公は大雪に行き暮れる。戸板は紗が張ってあるが,上手を選ぶとお谷は見えない。
剣豪の主人公が姉さんかぶり(腹掛けの文の字とマッチ)をして煙草の葉(これがかわいい)をまな板の上で刻む,母上が糸車を回して糸を繰るという人形の見せ場もある。センターに立つ幸兵衛・文雀師匠のおかげで物語に筋が通り,情理が正される。ええな~。
三味線が憤って泣いておられた。
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コメント
>おりんさま
サイトは何と言ってもおともだちです。仲間が大切かと思われます。拙宅は文楽大阪公演のある月にはなぜか浮上し,そうなると気合いが入ります。一見文楽ブログの様相を呈していますが,雑食系です。勉強させて頂きにお邪魔致します。
ワタクシは身体に染みこんだ船場リズムはあるのですが,郊外に形成された阪神文化や京都文化に学び今日に至っています。宝塚歌劇も見ます。
よろしくお願い致します。
投稿: とみ | 2006年11月13日 (月) 23時25分
はじめまして
おりんです。
コメントありがとうございました。
私も11月公演を見たのですが、なかなか感想がかけないでいます。己の文才の無さが口惜しい・・・
なーにも分かっていない初心者ですが徐々に書けたらいいなと思っているので是非よろしくお願いします。
今まで人形と義太夫さんにばかり目がいっていたのですが、今回伊賀越を3列目の床の目の前で見て、三味線の方々の力の入れように初めて気づいて驚きました。
投稿: おりん | 2006年11月13日 (月) 12時57分
>ゆきよさま
伊賀越えばかりとはハードな…。
字数を揃えてプロの劇評と同じフォーマットでと思っているのですが,伊賀越えは,ながーくなります。下書き風エントリにコメントいただき恐縮です。
国立文楽劇場!ワタクシメも通いますよ!
今日は寺島しのぶさん主演映画やわらかい生活を見る予定です(^O^)。田舎まで来るのに時間かかってます。
投稿: とみ | 2006年11月12日 (日) 11時13分
とみさま こんばんは。
昨日、今日と「伊賀越~」を続けてみました。昨日は下手側の席だったのでお谷に、今日は上手側席で政右衛門に感情移入しました。席により、見え方・感じ方がぜ~んぜん違いました。見える見えないの問題ではありません。昨日はどっぷり暗い気分になり自分も癪がおこるかと思うくらいでしたが、今日はかなりクールに観ている自分。面白かったです。
紅葉狩も2度堪能し、私もこれから始まる紅葉を追いかけようと決心しました。o(^_^)o
投稿: ゆきよ | 2006年11月12日 (日) 01時04分