心中天網島
国立文楽劇場の11月公演,19日(日)夜の部で「心中天網島」を拝見した。
北新地河庄の段
千歳大夫,清治,住大夫,錦糸
治兵衛:勘十郎,小春:和生,孫右衛門:文吾,太兵衛:紋豊
天満紙屋内の段
文字久大夫,喜一朗,千歳大夫,清介
おさん:蓑助,おさんの母:勘弥,五左衛門:玉也
大和屋の段
咲大夫,燕三
道行名残の橋づくし
呂勢大夫,新大夫,団七,団吾
享保5(1720)年10月14日,網島の大長寺(大阪市都島区)で,天満宮之前町の紙屋治兵衛と曽根崎新地紀伊国屋の遊女小春が心中をした。人気浄瑠璃作家の近松門左衛門は,直ちにこれを題材として「心中天の網島」を書き上げ,同年の12月に竹本座で初演した。近松の世話浄瑠璃の中でも最高傑作の一つに数えられる。
![]() 文楽 |
元禄16年(1703)年,天神の森で醤油屋の手代徳兵衛と堂島新地の遊女お初が情死し,これを近松が人形浄瑠璃として世に送り出して以来,曾根崎心中は「恋の手本」となり,心中は究極の恋の目標となり文化にまで高まった。
遊蕩と心中は,身代と家庭の病理となり,日常生活と隣り合わせにどっかと陣取っていた。
不勉強ながら,通し,しかも文楽で拝見するのは初めてであり素朴な感想としたい。
…野郎帽子は若紫,悪所狂ひの身の果ては かく成り行くと定まりし…
…抉る苦しき暁の見果てぬ夢と消え果てたり
曾根崎の詞が音曲的なのに対し,紙治は近松の視点が前面に押し出される。弱さ故,欲望に流される男の情けなさがやりきれない。女たちの健気さ,よかれと気遣う肉親の善意が益々男を窮地に追いやる。心中で恋のヒーローに躍り出た徳兵衛の勝利感はない。治兵衛が見た夢とは何だったのだろう。
とまれ人形浄瑠璃を楽しまなければならない。治兵衛さんは河庄では格子にくくられているし,紙屋内では炬燵で寝ているので動きは少ない。つっころばしと辛抱立役の二面性を持つ,ばりばりの主役である。卑怯,見栄っ張り,身勝手,甲斐性無し,意気時無し,平たく言えばどうしょーもないあかんたれの二枚目を表現しなければならないので難役だ。勘十郎丈が爽やか二枚目に見えてしまったのもよしとしよう。
蓑助さんのおさんのふんわり感は,店と家族を一人で支える強さと優しさである。全てをこの人が支えているという情感は蓑助さんならではのもの。また,小春のやせぎす感はしっかり伝わった。
住大夫さんの語りの孫右衛門が,義理堅い兄さんの人柄が爆発的で良い感じ。
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コメント
>ぴかちゅうさま
はい,テレビで放映されましたので存じています。あれは改作の時雨の炬燵でした。なんか治兵衛さんに都合の良い理屈が用意されていて,太兵衛さんを殺してしまうバージョンのようです。
大坂で上演されているのは近松さんの原作バージョンで,舅に嫁を連れ帰られへこんで心中という,主題に忠実な方です。
孫右衛門が玉女さんですと,益々頭が上がらない兄さんということになっています。
もうちょっと加筆せな~と思いながら,長さはこれが限度やでと悩んでいます。
投稿: とみ | 2006年11月23日 (木) 22時13分
東京の2月文楽で『天網島時雨炬燵』を観た時の感想をTBさせていただきましたm(_ _)m
文楽の感想を書いた初めての記事なのでそんな話がいっぱい書かれていて恐縮であります(^^ゞ
>心中は究極の恋の目標となり文化にまで高まった。
これはなんかすごくわかる気がします。現代でも『失楽園』なんて大ベストセラーになってしまう国だし。ちゃんと読んでませんがダイジェストの漫画を立ち読みしただけで感情移入してしまいました。
『曾根崎心中』と2本続けて観ましたが、文楽の心中の場面って本当に死への過程がイメージできてしまって恐ろしく、さらに引き込まれてしまう危ない魅力があふれるものでした。
東京では来月の文楽が楽しみです。
投稿: ぴかちゅう | 2006年11月23日 (木) 13時51分