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2006年10月14日 (土)

今更ながら「籠釣瓶花街酔醒」秀山祭九月大歌舞伎

Nec_0356_1 秀山祭眼目の籠釣瓶!誓って染五郎丈だけを見ていたわけでない。
籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)
佐野次郎左衛門/吉右衛門,八ツ橋/福助, 立花屋長兵衛/幸四郎
下男治六/歌昇,繁山栄之丞/梅玉,立花屋女房おきつ/東蔵,
釣鐘権八,芦燕,九重/芝雀,七越/高麗蔵,初菊/宗之助

田舎商人の次郎左衛門は,下男治六と吉原見物をしていたところ,親切な揚屋の亭主立花屋長兵衛に,早々に宿に帰った方が身のためと諭されていた。折悪しく全盛の傾城・兵庫屋八ツ橋の道中とすれ違う。見惚れる呆け顔に,八ツ橋は何を思ったか,にっこり微笑んでしまった。
数ヶ月後,治郎左衛門は八ツ橋に通い詰め,金離れの良いお大尽として,立花屋では下へも置かぬ扱いとなり,身請け話もまとまろうとしていた。好事魔多し。了見の良くない八ツ橋の後見人権八の画策で,間夫栄之丞の知るところとなり,八ツ橋は身請け話を断念する。立花屋座敷の満座の中で,愛想づかしをする八ツ橋。恥辱,絶望,憤怒にかられる治郎左衛門であったが,激昂する治六を諫め静かに郷里に戻る。
さらに4箇月後,何事もなかったように,治郎左衛門が立花屋を訪れるが…。

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歌舞伎

籠釣瓶は,平成12年南座で,勘三郎丈の治郎左衛門,玉三郎丈の八ツ橋,仁左衛門丈の栄之丞で一度拝見しただけなので,基本的に初心者である。
序幕,八ツ橋のお衣装は定番。玉三郎丈,福助丈,二枚のお写真を並べてみたが同じのようだ。福助丈のすらっとした長身に映える。いよいよ件の笑み。客席も魂を抜かれる瞬間である。この世のものとは思えないバロックであった。殆ど事故に近い。(バロックはゆがんだ真珠)途中,運任せの印象が見られたが,「すっかりいやになってしまった。」では,きちんと一人の人間として吉原の女のさだめを嘆いておられた。
梅玉丈の栄之丞は,いつもながら気品があり,良いお武家の出身という設定がぴたりと嵌り,治郎左衛門の疎外感を強調する。
九重は,のりにのっておられる芝雀丈。良い妓オーラで舞台を明るくしておられた。
注目の立花屋長兵衛は重厚で,物語の通奏低音といったところ。
吉右衛門の畢生の当たり役・次郎左衛門。謙虚で篤実な人柄である。醜い容姿を気にかけながらも,花魁の真心を信じてしまえる一廉の者という自負もある。
愛想づかしの場で,なぜだという憤りと自嘲で混乱を極めてゆく様は,まさに満座の視線と思い入れを一身に背負っておられる。最後の殺し場では,妖刀に魅入られたというお約束でなく,何喰わぬお顔でばっさりである。あまりにも自然に刀を振るう段取りは,体面を傷つけた恨みの深さを示し,客席を震撼せしめておられた。
間違いなく刀を見ておられる視線は,自分のお顔を写しておられたはずである。
シュールな不条理劇を見た後の体感に似ていた。

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歌舞伎」カテゴリの記事

コメント

>contessaさま
ようこそ拙宅へ。玉三郎丈の八ツ橋の素晴らしさは,願わくば通いたいものですので,悔いなくご覧になったとは羨ましい限りです。内面を掘り下げるかイノセントに振る舞うか,様々な切り口があり奥が深いです。
残念ながら上方在住で学習効果が上がらない分,つらつら考え事をしたり見巧者の話を承ったりしています。
映画評も歌舞伎評も初心者ですが,よろしかったらのぞいてください。

投稿: とみ | 2006年10月22日 (日) 22時54分

こんばんは、初めまして
Musesの管理人です。
「ブラック・ダリア」にコメントいただいたのに
こんなとこに書き込みましてすみません・・・

私も歌舞伎座の福助、見たんですよ~~~!
「バロック」、言いえて妙です(笑)
とみさま素晴しいっっ

実は私、去年の4月に玉三郎丈の八ツ橋さんざん見ていたものですから、どうしても比べてしまって(^_^;)
福助丈、手堅くセオリー通りと言えばそうなんですが何だかまだまだこの役をやるにはお若い、という感じがしましたです。気品と艶やかさの両方が見事に溶け合っている所はさすが成駒屋でしたが、役に呑まれているというか、こなしているだけで「お人形さん」の感は否めません。
玉三郎丈は「八ツ橋」のひととなりを実に深く掘り下げて演じて芝居全体を盛り上げ、ただ美しいだけではない生身の八ツ橋の哀しさというものも存分に魅せてくれていましたが。
逆に言うと、まだまだ定石以外に面白味のたくさん隠されている役の筈、家格から言って、これから福助丈には何度も巡ってくるお役だと思いますから、是非精進していただきたいと思いました。。。

投稿: contessa | 2006年10月22日 (日) 20時07分

>るみさま
演劇としての実存感のある舞台でした。盟三五大切は現代劇の劇団さんでも上演なさいますが,籠釣瓶は歌舞伎でなくてはなりません。それだけに演劇的リアリティが問われるのでしょうが,さすが,当代一の治郎左衛門であられました。
さて,見慣れた大阪松竹座は3階最後列でも良く見えますが,歌舞伎座は大きいですね。そこかしこに時代の記憶や,近代建築らしい華やかさが息づく名建築ですが,時代の波の前には引退せざるを得ないようです。
大阪松竹座もかつての映画館,南座も保存建築です。新築される歌舞伎座も,きっと様々なところに記憶を留める趣向が凝らされた物となることでしょう。

投稿: とみ | 2006年10月15日 (日) 21時40分

役者さん皆さんが、ピッタリその役にはまっていて、安心して見られる舞台でした。
ただ一つ残念だったのは、歌舞伎座の柱が邪魔で、福助さんの愛想づかしが見られなかった事です。
歌舞伎座建て替えも決まり、寂しい反面、どんな歌舞伎座に生まれ変わるのか、今から楽しみです。

投稿: るみ | 2006年10月15日 (日) 17時28分

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2.『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』 「籠釣瓶」は昨年の勘三郎襲名公演で初めて観たが、吉右衛門の次郎左衛門も観たかったので今回一番の楽しみにしていた。 昨年の勘三郎襲名公演「籠釣瓶」の感想はこちら 今回の配役は以下の通り。 佐野次郎左衛門=吉右衛門  八ツ橋=福助  立花屋長兵衛=幸四郎  立花屋女房おきつ=東蔵 下男治六=歌昇  繁山栄之丞=梅玉 九重=芝雀  七越=高麗蔵  釣鐘権八=芦燕 {/... [続きを読む]

受信: 2006年10月15日 (日) 00時16分

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受信: 2006年10月15日 (日) 17時30分

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