恋には我身の生命も要らぬ(白雪)
7月9日(日),七月大歌舞伎(in歌舞伎座)を昼夜通しで拝見したので少しずつまとめる。
夜叉ヶ池
大正2年3月「演劇倶楽部」初出,監修:坂東玉三郎,演出:石川耕治,美術:中島正留,照明:池田智哉
百合&白雪姫:市川春猿,萩原晃:市川段治郎,代議士穴隈鉱蔵:坂東薪車,湯尾峠の万年姥:上村吉弥,文学士山沢学円:市川右近
越前三国岳の麓の琴弾谷。村は旱が続き,死人が出ていた。旅人の学円は,3年前に物語を求めて旅に出て,行方知れずになった親友晃に再会する。晃は,先代鐘楼守の孫の百合を妻とし,1日3度鐘を撞くという夜叉ヶ池の竜神との約定を果たす当代の鐘楼守となっていた。
一方,夜叉ヶ池の主白雪は,白山の千蛇ヶ池の恋人のもとへ飛び立たんとし,里を水底に沈めようとしていたが,鐘楼守夫婦の深い愛と信心に免じ思い止まる。
しかし,その夜,百合を雨乞いの生け贄にしようと,心無い村人が押しかけ,晃と争う。学円も加勢するが多勢に無勢。夫婦は遂に死を選ぶ。
そのときが鐘を撞くはずの丑三時だった…。
![]() 歌舞伎 |
玉三郎丈が玉三郎丈であることを示さなくてはならない。何という緊張と試練を自己に課しておられるのか。一草木,差し金の先の胡蝶,爪弾きの一音までが玉三郎丈の美意識である。
舞台と映画で幾度も主演を務められた玉三郎丈の監修で,春猿丈が百合と白雪の二役を務められる。
先にご出演の役者さんを讃える。
春猿丈の百合の拵えは,玉三郎丈の着付けのプロポーションに似せて錦絵のよう。きっちりとしとやかに百合を演じておられるが,妖しい個性が危うさも感じさせイイ感じ。白雪姫の拵えは,玉三郎丈譲りの寒色系の玉虫色。
段治郎丈は,高潔で上品な若者が元よりお似合いなのではまり役。右近丈は,地霊への真摯な畏敬と篤い友情がほとばしり,これまた納得。ブラボーなのが万年姥の吉弥丈。姫への愛情と説得力,魔界を守る自負。何よりお若い頃は白雪姫に勝るとも劣らないであろう美貌の残照を拵えておられ,思わず贔屓として胸を張る。役者さんたちの自立ぶりが心地よい。
続いて演出家を褒めると,歌舞伎や伝統芸能の約束事の踏襲と抽象化のバランスが絶妙と見させていただいた。ここまでで,百点満点。
で,白雪の気儘,悩乱,魔力を示す人間離れした所作をつけて差し上げ,目がくらむほどのピンスポと,山鳴りの轟音を欲しいと思ってしまうのは,アマテラスの夢から覚めやらぬワタクシの心得違いであろうか。
続く…。
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コメント
>ムンパリさま
このときは,アクアブルーのフィルター5枚くらいかかってます。目には玉虫色の鱗が3枚程度張り付いてます。
今,もう一度拝見したいかと問われたら一瞬考えます。しかし,ワタクシも習熟度上ってますから,このとき見えなかった凄いアレゴリーが読み取れるかも…。
投稿: とみ | 2007年10月29日 (月) 19時25分
とみさま。さっそく飛んで参りました。
これはどうやら玉三郎さんの美意識の世界にどっぷり浸れる舞台のようですね。見られた方が羨ましいです。
それと、とみさまの描写から萬年姥の吉弥さんを精いっぱい想像してみました。ダメだ、ナマじゃないと(笑)。
この作品と「海神別荘」が再びどこかで上演されることを願ってます。
投稿: ムンパリ | 2007年10月29日 (月) 00時44分
>あやめさま
お邪魔してペットに「おとみさんがきた…」といって頂いたときは嬉しくなりますね。
期待と思い入れと贔屓目と親心で曇った目の観劇記でよろしかったらご覧頂き,ぜひ,突っ込みを入れてやって下さい。
投稿: とみ | 2006年7月17日 (月) 18時27分
とみさま、お返事ありがとうございます。
今、訪問一番、獅子丸クンが「あやめ・・・だったとおもう」と言ってくれました。偶然だと思うのですが。。。ありがとう!
投稿: あやめ | 2006年7月17日 (月) 09時54分
>あやめさま
ご覧頂いていたとは光栄です。
全ての方に敬意をと心懸けています。
長身にブルー系のお衣装はお似合いでした。姫のパワーと権威を示すには赤姫でも良かった気がします。
段治郎丈の白雪にもこだわっているワタクシは変なやつです。違う物語になってしまいますから駄目です。
投稿: とみ | 2006年7月16日 (日) 22時54分
はじめまして。他の方のブログでのコメント、いつも楽しく拝見していて、今日はこちらにお邪魔してみました。
このセリフは、原作で知ってはいても実際に耳にするとぞくっとくるものでした。中日をすぎたら感想を載せようと、まとめているところです。
玉三郎さんの『夜叉ヶ池』もご覧になっているのですね。白雪姫の衣裳はいつもの春猿さんとはかなり異なり”気高い”雰囲気だったので、違った一面を見た気がしていたのは、玉三郎さん譲りだったからなのですね。
これからも、勉強させてくださいませ!
投稿: あやめ | 2006年7月16日 (日) 18時11分
>かいちょさま
ワタクシの感動のツボは,前人未踏の道を行く玉三郎丈。若い役者さんの緊張感や使命感。玉三郎丈の愛の在処です。
特にお衣装を貸してあげたり,同じ振りを付けて差し上げたときなどが,おおっ,うるうるとなります。玉三郎丈のお持ちになった布,簪の先,視線の先までが玉三郎丈になるのが心地よいです。
で,舞台におられないときの玉三郎丈に対して注文だらけになってしまいます。簡単なことで,興行主がばばーんと資金をというところです。
投稿: とみ | 2006年7月16日 (日) 01時09分
とみさま
「夜叉ヶ池」は、玉三郎丈が舞台にいらっしゃらなくてもその名前が出ることの意味、責任を感じました。
私はとくに春猿丈の百合が好きでした。
白雪の場は、十分スペクタクルだと思ったのですが。アマテラス効果的にはもっと期待したくなるのかしら?世田谷パブリックシアターへみにいけばよかったなあと、また思いました。
昼夜通しの感想を楽しみにしています。ひとつづつ大切に読んで、いろいろ回想しようと思います。
投稿: かいちょ | 2006年7月15日 (土) 23時30分
>こはぜさま
確かに夜叉ヶ池は,越前,美濃,近江三国の国境。伝説もあります。ワタクシも,マエストロ桃六の地元ですので,行ってみたいです。
学円さんと晃さんが夜,一気に登ってしまおうという距離ですから,深山幽谷では無さそうですね。
魔界と人間界が近しく混在していることを示すには,これくらいの距離が丁度よいというところを鏡花さまはよくご存じなのでしょう。
いつもご覧頂いているとはお恥ずかしい限りです。
精進致します。
投稿: とみ | 2006年7月15日 (土) 22時37分
おとみ様お久しぶりです。
観劇記はうらやましく拝読しております。
今月の歌舞伎座は、今これを観とかないでどーする!!というお舞台ですね。上京できず大変残念です。妖怪系もいいですが、「日本橋」やなんかも若手の方を交えて上演していただきたいですっ。できれば関西で…。
なんだか場違いな気もしますが、夜叉ヶ池へのハイキングについての記事、TBさせていただきました。
投稿: こはぜ | 2006年7月15日 (土) 02時13分