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2006年7月17日 (月)

千歳百歳に唯一度,たった一度の恋だのに(富姫)

27 天守物語
大正6年9月「新小説」初出。
演出:成井市郎・坂東玉三郎,美術:小川富美夫,照明:池田智哉
天守夫人富姫:坂東玉三郎,姫川図書之助:市川海老蔵,近江之丞桃六:市川猿弥,奥女中薄:上村吉弥,小田原修理:坂東薪車,亀姫:市川春猿,十文字ヶ原朱の盤坊:市川右近,茅野ヶ原舌長姥:市川門之助
武田播磨守五十万石の居城,秋の美しい日の白鷺城。青面の獅子頭が祀られる天守が,妖怪の長・天守夫人富姫(玉三郎)の住処。
富姫の妹分亀姫(春猿)が眷属を率いて鞠つきに訪れる。土産は播磨守の兄弟で猪苗代亀ヶ城の城主武田衛門之介の首というご馳走だった。富姫は播磨守の白鷹を奪い,亀姫への土産とする。
日没。白鷹をそらせた咎により切腹を賜った鷹匠・姫川図書之助(海老蔵)が天守に登ってくる。涼しい言動と凛々しい姿に心奪われた富姫は,図書に天守を訪れた印の兜を与え帰しはしたものの,心は再会を願っていた。兜を持参したことから図書は謀反の嫌疑を受け,三度天守に登る。人間の手にかかるより富姫の手にかかりたいという図書の言葉に二人の恋は燃え上がる。しかし,家臣団に攻め込まれ,獅子頭の目を傷つけられたため,天守の妖怪たちは目が見えなくなる。共に死を覚悟した二人の前に,老工匠がどこからともなく現れる。

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歌舞伎

鏡花の最高傑作,玉三郎丈の畢生の当たり役。今更,筆舌に尽くしがたい素晴らしさ。
前半の魑魅魍魎たちの宴はどこまでも楽しく,後半の富姫と図書之助の恋愛譚は,嘆美と陶酔に充ち満ちている。玉三郎丈の世界の住人になり,物語の世界に酔い,白刃のような台詞に心の血を流し,幸福感に包まれよう。
天守と地上の往来はすっぽんを使う。普段ならあやかしの者が出入りする箇所から人間が出入りするというのが,世界の逆転を象徴し,良い感じ。
この際だから,手放しで誉めるが,一気に天守の世界に引き込む幕開き第一声と,図書の剣戟に一喜一憂する長台詞を担う奥女中薄役を賜った上村吉弥丈。そのお声,姿のよろしいこと,よろしいこと。歌舞伎好きの手帖のはるきさまのお言葉を借りるなら,台詞で嵐を巻き起こす御方が確かにおられたとあっ。同感。
もう一つの長台詞の小田原修理。映画では,玉三郎丈が非業の最期を遂げた貴婦人として視覚化した情景を台詞で表現するのだから重責。拵えに助けられないので健闘を祈りたい。
開幕間近に拝見したので,公演回数を重ねている天守物語だけが練り上げられ,祝祭感と高揚感に満ちあふれていた。緊迫感と悲壮感まで期待していたワタクシは,別の戯曲でこれを得たので,満足。一ヶ月の公演のうちに芝居が深くなり,楽日に向かって最高潮になるのを,他家のレポやご贔屓のサイトで楽しみ,ご縁があれば再見したい。

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演劇」カテゴリの記事

コメント

>かしまし娘さま
姫路。青春18切符が使える間に行くつもりです。
播州赤穂は姫路から30分程で行けましたよ。秋の忠臣蔵の予習にいかがでございましょうか。
毎日,姫路行きの電車に乗っていますと,この終着に姫様がおられるとは考えにくいですがそーなんや。
吉弥丈の実況未だに耳に残っています。玉三郎丈をささえるふんわり感も素敵でした。

投稿: とみ | 2006年8月 2日 (水) 22時46分

とみ様、まいど!
姫路の城におわすひ~様が、7年ぶりに歌舞伎座へいらっしゃいました。
今度は私が姉様…いえ富姫様の所へ参りたいと存じまする…。姫路城ってデカイんだよな。あれがまたイイんだけど…。

投稿: かしまし娘 | 2006年8月 2日 (水) 14時44分

>極楽からお戻りのスキップさま
心はなかなかうつしよに戻れませんね。女の行く極楽に男はいなく,男の行く極楽に女はいない(公子)ということは,この世は地獄ということでございましょうか。
さて,月初めと楽日近くでは,共演者のお芝居の習熟度が違うという事実を,玉三郎丈の責任公演では上手くどちらに振れても良いように仕組んでおられます。
桜姫東文章(欲望のままに生きるお姫様→お姫様はお姫様)
伽羅先代萩(孤軍奮闘→実はお味方は少なくなかった。)
仮名手本忠臣蔵(自分の幸福だけはがっつり掴むお軽→運命に翻弄されながらも健気なお軽)
天守物語(魔界の圧勝→異なる世界を超えた愛(希望))
で,今月の天守物語は月初めから完成度が高いのと,一日の最終演目なので,富姫さまのパワーに引き込まれなくとも観客は既に天守の住人であるというのが,異界と現世との緊張感に欠ける理由と思われます。舞台上の現世を担うパートのパワーアップに期待しています。

投稿: とみ | 2006年7月23日 (日) 08時36分

とみさま
遅くなりましたが、七月歌舞伎座の感想をアップしましたので、トラックバックさせていただきました。
とは申しましても、あの妖かしの世界にあてられたのか、鏡花の流れるセリフが自分の中であふれ過ぎたのか、あまり言葉が出てきません。とみさんの観劇記を拝読するにつけ、こんなふうに書けたら、とため息ついています。
それにしても「これを見逃すと一生どころか末代までの損失」とすすめていただいたとみさんに感謝!
残念ながらダイエットにはなりませんでしたが(笑)。

投稿: スキップ | 2006年7月23日 (日) 04時39分

>cocoさま
お題指定のバトンとは知的水準の高いお遊びですね。ついてゆけるかどうかこころもとないです。後日改めて…。

投稿: とみ | 2006年7月19日 (水) 00時02分

>cocoさま
早々にご覧頂きありがとうございました。長くなるのを思い留まりました。
初日からしばらくは,祝祭感が劇場を支配し,嬉しさ楽しさ目出度さを抑え切れませんが,選ばれしものの恋愛譚の高貴な香りが立ちこめることでしょう。

投稿: とみ | 2006年7月18日 (火) 23時55分

連続でスミマセン。バトンというものをいただき、次の方の指名をするのですが、とみさまにお願いしたいと思いまして。。。よろしかったら、ぜひ。

投稿: coco | 2006年7月18日 (火) 00時14分

とみさま
お待ちしておりました。早速ですが、TB一番乗りさせていただきます!
4つの今回の演目の中、「天守物語」だけは劇場に足を運んだ方すべてを違う世界に運んでいける力を、初日から間違いなく持っていました。

月末の舞台写真は、おまかせあれ!

投稿: coco | 2006年7月17日 (月) 23時35分

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