浪花花形歌舞伎・(若者の)伊勢音頭恋寝刃
第一部・伊勢音頭恋寝刃
珍しい宿屋の場からの通し上演。片岡愛之助丈が仁左衛門丈の演出で,初役福岡に挑む注目の舞台。折しも,お江戸歌舞伎座では,仁左衛門丈の貢で油屋と奥庭の場が上演中である。
前半は,伊勢情緒を愉しみ,奴林平と敵方二人の追っ駆けに爆笑する場である。元気いっぱいの奴役・亀鶴丈の楽しげな様子と,敵方・橘三郎丈と松之助のぜーぜー感がおかしい。三人が達者なので盛り上がる。タイトルの伊勢音頭が心地よく響き,歌舞伎は音楽と舞踊の総合芸術であることを思い起こさせてくれる。
軽妙な前半が,重苦しく凄絶な後半を引き立てる。愛之助丈は,忠義でしっかり者だが,色恋には余裕のない貢さんを,初役らしく緊迫感をもって若々しく演じておられた。
お待ちかねの吉弥丈の意地悪万野の登場。これまで芝翫丈,玉三郎丈,勘三郎丈等の幹部が演じてこられたお役を,実力派の花形吉弥丈が演じる。いけず,したたか,知的な色香が溢れ,笑いを取りすぎない程の良さが素敵。
笑いを取りすぎないと言えば,翫雀丈のお鹿。きゅーとで見ようによってはらぶりー。仁左衛門丈演出の上品さにホッとする。
薪車丈の料理人喜助は,登場時間は短いが,キーパースンとなる格好いいお役。貴公子系よりワタクシ的にはポイント高し。孝太郎丈のお紺さんは,愛想づかしにも情があった。
眼目の殺し場。魔剣に魅入られた目,浮き出た血管,飛び散る汗,べったりと頬の血糊,全てが美意識に支えられた象形。ストップモーションのかどかどの決まりが綺麗。解説では,音楽が凄惨さを引き立てることになっているが,音は消えた。明るすぎて白くなった背景に赤だけしか見えなくなった。血が引き意識が朦朧となる感覚を確かに味わわせて頂ける凄惨で迫真の貢さんであった。
身体に優しくないお芝居が続く。長い一日は,始まったばかりであった。
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コメント
愛之助丈の貢、気になっていたのにこの記事の発見が今日になってしまいました。亀レスならぬ、亀コメで恐縮ですm(_ _)m
読むだけでイメージが膨らみます。愛之助丈、頑張ってますね~。やっぱり若いし、仁左衛門丈とはまた違う素敵さがあるだろうな。配役のバランスもすごくよさそうですね。翫雀丈のお鹿、これは本当に可愛いんじゃないかと想像いたします。
これ、東京でもやってくれないでしょうかねえ。
今年初めて「平成若衆歌舞伎」東京上演、かなりの愛之助贔屓なので即決でチケとりました!「伊勢音頭」来年ぜひ第二弾でやって欲しいです!!
投稿: ぴかちゅう | 2006年5月10日 (水) 01時23分
>かしまし娘さま
ナットクしました。やはり福助万野さんは,意地悪路線まっしぐら!
仁左さまの貢さんは,返り血の温さと,本人の蒼白感というか冷たさがツボという記憶があります。汗もかかず息も乱れず流血に及んでおられたような…。
>翫雀丈のお鹿
小春や梅川をなさることもございます。基本はらぶりー&キュート系。福笑いのパーツをくしゃみで飛ばしたようなすごメイクでした。
楽しく読ませていただき見た気になりました。
投稿: とみ | 2006年4月18日 (火) 15時15分
まいど!
お江戸はこんな感じです。
>翫雀丈のお鹿。きゅーとで見ようによってはらぶりー。
イイですね。私はこんなお鹿ちゃんが好きです。
お江戸の東蔵版。私としては、”ちょっと…”でした。
投稿: かしまし娘 | 2006年4月18日 (火) 12時48分
>cocoさま
歌舞伎座の様子が気になります。完成型の仁左さま,発展途上の愛之助丈,素敵なことには変わらないですね。自分の観劇余生,役者さんの寿命を考慮し,どのように見る演目を選ぶか,迷ってしまいますぅ~。
>rikaさま
お帰りなさいませ。貧血と血圧の上昇。肩がこって,握りしめた手が開かないことございませんか(爆)。心に残る舞台は,これからの人生に勇気を与えて下さいます。昨夜は終演時刻のころ,西に向かって成功を祈念しておりました。
これからも応援続けましょう。
投稿: とみ | 2006年4月12日 (水) 21時24分
こんばんは。松竹座より生還です(笑)。
終わってしまうのがとても寂しい公演でした。
今でも思い出してヘラヘラして、危ない人になっています(笑)。
とみさんの感想は本当に流れるような文章で、
舞台が鮮やかに思い出されます。
あ~~楽しかった。
投稿: rika | 2006年4月12日 (水) 19時06分
>福助丈が意地悪過ぎないか少し懸念されます
とのこと、出てきた時の顔からイジワルオーラはもちろんですが、ちと万野にしては艶っぽい・・・ような。そういうお役なのかどうか、比べるほど他の役者さんでの回数を見ていないのでなんとも・・
うふふー、仁左さまの決めはもうもう・・・(妄想モード)また舞台写真予算を組まなければ。時蔵さんははまり役すぎて、申し上げる言葉も思いつきません。貢とお紺は最後くらいしか絵にならないのが残念。。。
投稿: coco | 2006年4月11日 (火) 22時53分
>cocoさま
歌舞伎座の豪華キャストが妄想となっております。
愛想づかしでばっさりは,時蔵丈のためにあるようなお役(今回は,ばっさりではないですが…。)。被虐がお似合いと一人決めしています。美代吉,お菊,小万全部好きです。
福助丈が意地悪過ぎないか少し懸念されます。美吉屋さんは,そんなにひどいことせんかてええやんという気の毒感ありました。
のれんが肩に掛かった仁左さま,刀を振りかざした仁左さまが…。
投稿: とみ | 2006年4月11日 (火) 00時21分
とみさま、書き込みありがとうございました!
こうしてとみさまの観劇記を拝見すると、やっぱり油屋の前の場が見てみたいです・・・ 仁左丈も、筋書きの中のインタビューでそのようなことをおっしゃってます。愛之助さんの貢はやっぱり熱演でしたか。そうですよねぇ(羨望のため息)。目に浮かぶような描写、ありがとうございます(T.T)
投稿: coco | 2006年4月10日 (月) 23時45分