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2006年4月16日 (日)

国立文楽劇場・六世鶴澤燕三襲名披露ひらかな盛衰記他

4月15日(土),国立文楽劇場四月公演,寿柱立万歳,ひらかな盛衰記及び勧進帳を鑑賞した。13日より昼夜入れ替えとなっている。
Nec_0089 今月は六世鶴沢鶴澤燕三襲名披露として,ひらかな盛衰記がかかる。襲名披露口上を住大夫が務められる。
寿柱立万歳
人形,大夫・吉田勘弥,才三・桐竹紋豊。大夫,豊竹英大夫,才三・竹本三輪大夫。三味線,竹澤団七他。
慶事に相応しい舞踊。床に語り7人,三味線5人が並ぶ。めでたいづくしの数え歌に合わせコミカルな振りが楽しい。
ひらかな盛衰記
松右衛門内より逆櫓の段
人形,船頭権四郎・吉田玉弥,女房およし・吉田清之助,船頭松右衛門実は樋口次郎兼光・桐竹勘十郎,腰元お筆・吉田蓑助他。中,大夫・竹本千歳大夫,三味線・鶴澤清治。奥,大夫・豊竹咲大夫,三味線・鶴澤燕三。
Nec_0090_1舞台は摂津福島の浜の漁師宅。老あるじ権四郎と娘のおよしは,苫屋に似合わぬ童子をあやしている。巡礼先の三井寺で,義仲残党狩りの混乱に巻き込まれ,子どもを取り違えたのだ。この子を大切に守っていれば,実子の槌松をきっと返しに来てくれると信じている。
一方,婿の松右衛門は,源義経軍より,平家追討のための船の提供を求められている。
そこへ,義仲の室に仕えた腰元お筆が訪れ,この家の槌松は義仲一子駒王丸の身替わりに討たれ,ついては,若君を返して欲しいという。混乱する権四郎とおよしを前に,松右衛門は,自分は,義仲四天王の樋口次郎兼光であり,義経軍に一矢報いようとしていると告げる。

中のあと,床が回り,金地を背に,お待ちかね咲大夫と新燕三が登場。住大夫が襲名披露口上を述べられる。今年は五世の七回忌にあたる。新燕三が五世にいかに仕え,芸道精進したかをあのお声で切々と語られる。文楽の世界は世襲ではなく実力で勝ち取るものであるときっぱり。逆櫓の段は,激しく勇壮且つ悲痛で難曲とされ,立三味線だけしか務めることが出来ない。五世は,これを演奏中にお倒れになり,そのまま最後の舞台となったという。六世は,浴衣姿のまま後を務め,その月を代役として乗りきった思い入れのある曲である。

奥の前半は,まっとうに生きる善意の人々を巻き込んだ悲運と,支配者階層の忠義との葛藤を,咲大夫が呻吟し,三味線が嘆く。老親の絶望がずっしり重い。蓑助丈が遣うお筆は,情が先行し,忠義が混迷するさまが出過ぎずしとやかである。勘十郎丈が遣う樋口は,情と道理をわきまえた潔い動きが清々しい。
後半は海原となる。
船頭仲間と逆櫓に取り組む場面は,剛胆な掛け声とダイナミックな三味線の掛け合いとなる。兼光も人形ならではの神懸かり的な活躍。
波の強弱,船を漕ぐ律動,のるかそるかの乾坤一擲の弔い合戦への爆発的な感情。命のやりとり。三味線が火を噴く。大夫が咆哮する。命懸けの芸だけが訴えることの出来る,命を継承する人間の素晴らしさに心打たれずにはいられない。
勧進帳
人形,武蔵坊弁慶・吉田文吾,富樫之介正広・吉田和生,源義経・吉田蓑次郎。大夫,豊弁慶・豊竹十九大夫,富樫・竹本津駒大夫,義経・豊竹呂勢大夫。三味線,豊澤富助他。
Nec_0101_2 歌舞伎の人気狂言の文楽版。能の安宅,歌舞伎の勧進帳及び文楽の勧進帳は細かな差異はあるが,ストーリーは全く同じで,上演時間もきっかり1時間15分で同じとか。
決定的な違いは,後段,松羽目が飛び,場面は安宅の浜となる。富樫が現れ,緊張感が解けたところで,シテの弁慶が三人出遣い!凄い凄い!わーいわーい!という以外ボキャブラリーを使い果たした。
歌舞伎より礼節の表現が折り目正しいように見受けられた。花道は無い。
最後に,釈明するが,松羽目睡魔症候群のワタクシは,やはり逃れることが出来なかった。安宅の浜に場面が転換するのはありがたい。

六世燕三さんは,終演後ロビーで挨拶をしておられた。大阪の後,東京でも公演が続く。緊張感と精神力で壮絶な演奏をご披露して頂いているが,ご健康に留意され,成功裏のうちに襲名披露興行が終わることを祈る。

YOMIURI ON LINEに評が載ってました。

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文楽」カテゴリの記事

コメント

>ゆきよさま
寺子屋は松王丸・仁左衛門丈,千代・玉三郎丈,源造;三津五郎丈,戸浪・福助丈,よだれくり・勘三郎丈でキマリではないでしょうか。
気長に愉しみましょう。何回か見ないと全貌がつながらなかったりして…。

投稿: とみ | 2006年4月22日 (土) 18時51分

とみさま
>昼夜通し!よくご無事のご帰還でした。
いえ、実は睡魔との闘いの時間がありました。特に楽しみにしていた一部の方で。(TT)
>歌舞伎に軍配が上がる
私のテンションの問題だったのかもしれませんが、「菅原伝授~」では何故か文楽人形に歌舞伎俳優さんの顔をダブらせて見ていたんです。今回はこちらも歌舞伎に軍配だったかも。ちなみに頭の中の配役は、松王丸;吉右衛門さん、桜丸;梅玉さん、梅王丸;團十郎さん(以上喧嘩の段、切腹の段)、松王丸;仁左衛門さん、千代;玉三郎さん、源造;三津五郎さん、戸浪;福助さん(以上寺子屋)でした。f(^^=)
>勘十郎さんにアクシデント?
今月に入る前から、少々体調がお悪かったそうです。舞台袖に玉女さんに待機してもらっていらしたとか。うぅむ…だから共演がなかったのか…。あと2日、どうぞご無事で。
>ギリシャ悲劇と文楽
面白そうですね。むか~し、シェイクスピアを文楽で見たことがあります。「テンペスト」でした。人形は蓑助さんが遣っていらっしゃり、それで蓑助さんのお名前を覚えたのでした。なつかしー。

投稿: ゆきよ | 2006年4月22日 (土) 00時28分

>藤十郎さま
坂東玉三郎版,蜷川さんの王女メディア,平幹版と嵐徳三郎版を運よく見たジェネレーションです。
ジュサブローさんのお衣装が人形を彷彿とさせるのでしょうか。
ヘカベと先に書きかけ,指は王女メディアと打っていました。役者のランク付けとお役の重みが,自由というとこらへんがポイントです。
六段目のおかやは主演にはなりませんが,ヘカベはタイトルロールです。
語りだしたらきりなさそうなので,一度ちゃんとエントリー書きます。

投稿: とみ | 2006年4月21日 (金) 12時25分

>王女メディアなど良さげです。

とお書きですが、私もかねてからギリシア悲劇と文楽については関心を持っているのです。
アンティゴネもオイディプスもエレクトラも作りようによっては文楽になるのではないのかと。
勧進帳は、「足が地に付かない」文楽人形の限界を感じます。

投稿: 藤十郎 | 2006年4月21日 (金) 08時34分

>ゆきよさま
昼夜通し!よくご無事のご帰還でした。
音圧エネルギーを浴びた身は心地よい疲れがおありでしょう。
下手なら,音が波状にうねった感じでちょうど良いのかもしれません。上手は消火器要ります。
文楽は見始めたばかりですから,発見することばかり。落ち着くまでちょっと走ってみます。
>恵美さま
次月は東京ですよ~。
勧進帳はやはり,人間対人間の駆け引きが主ですから,歌舞伎に軍配が上がると言わざるを得ません(見たんかい!と突っ込まれそうですが…。何回も座ってますから全貌はつながってます。)文楽は,運命対人間が主題のときに優れた表現形式になるように思います。王女メディアなど良さげです。

投稿: とみ | 2006年4月21日 (金) 01時43分

ゆきよさまもご覧になったのですね。
「ひらかな盛衰記/勧進帳」みたかった~ >< 。
>三味線が火を噴く。大夫が咆哮する。
>大夫9人・三味線7棹は圧巻ですね。また逆櫓の段の三味線は本当に凄かった。
でしょ~ね~♪♪♪  vv はぁ~。

投稿: 恵美 | 2006年4月21日 (金) 00時27分

とみさま
こんばんは。
今更ですが、今日文楽一部二部観て参りました。
とみさんのレポは事前勉強にとても役立ちました♪
実は一昨日まで演目が逆だと思っていたのですが、中日で入れ替えるのですね。一部が「菅原伝授~」二部が「ひらかな盛衰記/勧進帳」でした。勧進帳が一日の最後で救われました。大夫9人・三味線7棹は圧巻ですね。また逆櫓の段の三味線は本当に凄かった。席が下手寄りで実は床が見えず音が遠かったのですが、耳で聞く音はうねっていました。
今日も燕三さんは終演後ロビーでご挨拶をなさっていました。

投稿: ゆきよ | 2006年4月20日 (木) 22時18分

>かしまし娘さま
至芸を見たら,それ以下で感動したら罰が当たるかもしれないと思ってしまいます。
大阪遠征?ご精勤で痛み入ります。浪速文化の復権にお力をお添えくださいませ。

投稿: とみ | 2006年4月18日 (火) 15時24分

とみ様、まいど!
TBありがとうございました。
ますます楽しみになりましたっ!
今週行ってきま~す。

投稿: かしまし娘 | 2006年4月18日 (火) 12時44分

>cocoさま
大夫,三味線,人形遣い(三人とも!),皆さん命懸けです。文楽の主題は,運命に立ち向かいよりよく生きようとする人間の尊さ。限りある命だからこそ命の継承は素晴らしいと思い至ります。
本当に公演のご無事を祈らずにはいられません。
蝶の道行き,生写朝顔話,義経千本桜。東京行きたくなってきました。チケットありませんが…。

投稿: とみ | 2006年4月16日 (日) 21時36分

>藤十郎さま
早速のコメントありがとうございます。
基本的に発声するのは大夫さんだけですが,人形遣いさんも三味線さんも,佳境では掛け声をかけられます。燕三さんの三味線も火を噴いていましたが,掛け声も火を吐いておられました。お姿も背中がしゃきっと伸び美しいかった。泉下の五世もさぞご満足のことかと存じます。
勘十郎さんにアクシデント?微塵も感じさせない激しい兼光でした。
ワタクシにとって義仲さんは地元ですから,義仲旧臣というのは思い入れ持ってしまいます(^^ゞ。

投稿: とみ | 2006年4月16日 (日) 21時17分

とみさまのレポ拝見して、「火を噴く三味線」ひらかな盛衰記を生で見られる・・と思うとうれしくなります。私が行けるのは連続ご出演のほとんど最後の週なので、心より皆様のご無事とご健康を祈るばかりです。

投稿: coco | 2006年4月16日 (日) 21時17分

いやあ、いってらっしゃいましたね。
詳細なご感想、ありがとうございます。
先代が倒れられたのがついこの間のような気がします。
勘十郎さん、無事でしたね^^。
燕三さん、この二ヶ月できっとひとまわり大きくなられると思いますね。

投稿: 藤十郎 | 2006年4月16日 (日) 16時19分

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