三月大歌舞伎・夜の部(浄書)
明日の千穐楽を前に,十三世片岡仁左衛門追善興行,3月21日(火)の観劇記をまとめる。
近頃河原の達引
十三世が当たり役とした“堀川”の与治郎役を片岡我當丈が演じる。今興行には,伝兵衛に坂田藤十郎丈を迎え,お俊に秀太郎丈,母ぎんに吉之丞丈というこの上ない顔合わせで,四条河原の場からかけられる。
・四条河原の場
優男の伝兵衛は,お俊を侍と張り合い,窮地に陥れられ,衝動的に侍を殺害する。
・堀川与次郎内の場
近所の子どもに唄と三味線(ん,鳥辺山心中)を教える盲目の母ぎんと,猿回しを生業とする孝行息子・与次郎の,貧しいながらも穏やかな日常に暗雲が…。この家の妹娘が,あの事件の発端となったお俊で,伝兵衛が表れるのを恐れ,匿われている。果たして伝兵衛は表れる。どうする与次郎!
四条河原の場のじゃらじゃらしたお俊と伝兵衛のやりとりは上方和事のお約束。鳥辺山と同じ設定でおうちに帰った気分。
貧しい家の主・与次郎は,この上ない働き者である。盲目の老母と傷心の妹,相方の二匹のお猿の面倒を見ること見ること。忙しいのなんの片時も休む暇がない。細やかでリアリティある一つ一つの所作に愛情がこもり,心温まる。そこはかとない笑いを誘いながら,物語にぐっと引き込む。御母堂の吉之丞丈の反応がまた良い。
ヒットとなった“そりゃきこえませぬ伝兵衛さん”のくどきで有名な,二人が心中を決意し,母と兄がそれを許すくだりも勿論見せるが,圧巻は,二人の道行きの餞に与次郎が二匹の猿に婚礼の場を演じさせる場面である。あ,お弁当ぎゅーぎゅー詰めもいけてる。
その演目が曽根崎心中になっているところが,“そりゃ験悪うおます”と突っ込みを入れたくなるが,ここで,観客は笑いながら泣くという,顎関節と腹筋と横隔膜と目に厳しい試練を強いられる。
我當丈!最高!日本一のお兄ちゃん!河庄のお兄ちゃんも良かったが,これが最高!お役の域を超えて,家族を愛する丈の生き方を見せていただけた。
二人椀久
富十郎丈の椀久に,菊之助丈の松山。期待の演目を拝見し,期待以上であったことの満足に酔い痴れた。
富十郎丈は,尾羽打ち枯らしながらも,残りの色香どころか,現役の妄執が立ち香おる。色狂いが似合う。逆に菊之助丈は,全盛の傾城のプライドが輝き,実年齢は若くとも成熟した大人であることを漂わせている。
舞踊様式としては夢幻能であるが,劇中劇ならぬ舞中舞に謡曲井筒の場がある。この辺りは上品メ。舞の佳境はお二人の廓遊び。富十郎丈の確信的な手の動きに思わず頬が熱くなる。やって頂ける。恥ずかしくて書けない。
菊之助丈への贔屓目抜きにして,若さの絶頂の輝きの中にあって,没落と老残を全て見据えた遊女の悲しさが見えたことが大満足。)^o^(
不勉強ながら,これまで,二人椀久は,仁左衛門丈と玉三郎丈のものしか拝見したことがない。この絶品は主題まで異なる別物である。
水天宮利生深川
黙阿弥散切りもの,松本幸四郎丈が赤貧にあえぐ開花期の元武士を演じるとあって,暗く悲しいかのと案じられたが,キレた幸兵衛が思いの外お似合いで,しっかり笑わせて頂いた。
ぶっこわれた幸兵衛はもうだれも止めることは出来ない。旅だって仕舞われた。サンチョ・パンサ役の歌六丈も熱演。不幸せな長女役の壱太郎丈も涙を誘っておられた。
| 固定リンク
「歌舞伎」カテゴリの記事
- おとみの妄想劇場(2009.07.08)
- NINAGAWA十二夜 in 大阪松竹座初日(2009.07.05)
- 義経千本桜・すしや by 片岡我當一門 in 大阪市中央公会堂(2009.06.20)
- 六月大歌舞伎 in 歌舞伎座・イッキ書き(2009.07.04)
- 六月大歌舞伎 in 歌舞伎座昼の部千穐楽・一世一代の与兵衛は揚幕の彼方へ(2009.06.27)








和楽
コメント
>おりんさま
泣ける点では一番でしょう。人形浄瑠璃なら細かい手仕事が堪能できそうです。尼崎でみるのがええやろな~。姫路かな~。来年の三月ですね。
投稿: とみ | 2007年6月 1日 (金) 01時50分
とみさま
わくわくする演目紹介素敵です~。
ちなみに、文楽と歌舞伎で少し演出が違うのかも?と思いました。四条河原の段では、相手の侍は伝兵衛さんを殺そうと待ち伏せしているというようなせりふがあるのです。
地方公演ぜひぜひご覧いただいて、歌舞伎との違いなぞを教えていただけるとうれしいです~
投稿: おりん | 2007年5月31日 (木) 23時00分
>cocoさま
日曜日もよかったようですね。お疲れが出ませんように。といっているうちに四月。眼福と財布の絶叫は続きます。
>かしまし娘さま
拙宅をご覧頂きありがとうございます。気合いの入ったエントリー拝見しました。
泣かなしゃーないお芝居でした。
今月ほどお江戸のみなさまが羨ましく思えた月はございません。正月も四座でしたが,仁左玉コンビが大阪におられましたから…。
ここ数年,旬の状態が続きそうですので,今見なくていつ見るというところです。
投稿: とみ | 2006年3月28日 (火) 00時41分
とみ様、まいど!
TBありがとうございました。
3月は沢山歌舞伎が掛かって、クラクラしどうしでしたが、
やっぱり”松嶋屋”は見応えがありました!
投稿: かしまし娘 | 2006年3月27日 (月) 10時51分
とみさま 昼の部夜の部とも、トラックバックさせていただきました。相変わらず上滑りな観劇記ではありますが、よろしかったらご覧下さりませ。もう来週、仁左丈の伊勢音頭です。・・・破産目前です。
投稿: coco | 2006年3月27日 (月) 00時51分
>ぴかちゅうさま
トラバありがとうございます。また,オフ会のお誘いも光栄です。次月の伊勢音頭も目論んでますが,四月は未だ予定が立っていません。頑張ります。
実在のお俊伝兵衛は,聖護院の森で心中を遂げたそうですが,浄瑠璃はハッピーエンドに作劇とか。逆縁であんな良い御母堂と兄上を悲しませてはいけません。
二人椀久は仁左衛門丈以外で拝見したのは初めてです。富十郎丈から目が離せ無くなりました。
>rikaさま
いつも残念に思うのがそこです。四条河原,堀川,聖護院と超ローカル。装置はおうちに帰った気分なのにそこはお江戸というのが…。
四月は菅原伝授手習鑑が国立文楽劇場でかかります。ねらってます。
貴宅にもお邪魔させて頂きます。
投稿: とみ | 2006年3月26日 (日) 21時21分
>我童丈!最高!日本一のお兄ちゃん!...
我當丈ですよね。そう、兄弟で名前がややこしくなるからと秀太郎丈、我童襲名を否定されました。私は甥の孝太郎に襲名させようとしているのだと思っております。進之介には我當、愛之助には仁左衛門を継いで欲しいと願っているのですが、いずれにせよ相当先の話ですね。
投稿: ぴかちゅう | 2006年3月26日 (日) 21時13分
とみさん、こんにちは。
観劇記、お待ちしていました。
やはり夜の部も観たかったなぁと思います。
特に『近頃河原の達引』の
>我當丈!最高!日本一のお兄ちゃん!
をぜひ拝見したいです。
関西方面でもかかってほしいですねぇ。
投稿: rika | 2006年3月26日 (日) 10時48分
TBありがとうございました。私の方は2つに分けて書いてますので2本TBさせていただきましたm(_ _)m
「近頃河原の達引」が予想以上によかったです。原作ではお駿・伝兵衛は心中直前に救われるらしいですね。なんか兄と母の想いが通じたような気がします。
「二人椀久」
>舞の佳境はお二人の廓遊び...そうなんですか!次観る時はそこらへんもしっかりチェックしなくっちゃあ。
上京される折はぜひともご連絡くださいませ。お茶などできれば嬉しいですm(_ _)m
投稿: ぴかちゅう | 2006年3月25日 (土) 23時30分