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2006年2月19日 (日)

りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピア・シリーズ「マクベス」

217日(金)大阪上町の大槻能楽堂で,りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピア・シリーズ第四弾「マクベス」を観劇した。りゅーとぴあ能楽堂シリーズは,新潟県のシアターコンプレックスにある能楽堂から発信する演出家・栗田芳宏が手掛けるもので,その独創的な発想と,様式的な美しさとで高い評価を得ている。
概要は以下のとおり(敬称略)。

作:ウィリアム・シェイクスピア(松岡和子訳),構成・演出:栗田芳宏
出演:マクベス・市川右近,マクベス夫人・市川笑也,ダンカン・菅生隆之,バンクォー・谷田歩,マルカム・市川喜之助,マクダフ・中井出健,ロス・星和利,マクダフ夫人・山賀晴代。レノックス・松浦大樹,魔女・田島真弓,横山愛,横山道子,塚野星美,住田彩,藤田ゆかり,ヘカテ・藤間紫(特別出演)

能楽堂で和の衣装で演じられるが,時代や場所を設定していない純粋な抽象化した様式である。考えてみれば能とシェイクスピアは近しい時代。張り出し舞台で前後の動線を強調した動きというのも共通する。舞台もセットでなく本物の能楽堂,装束も能衣装を基調とした豪華なもの。役者もストレートプレイに申し分のない力量を持つメンバーに,歌舞伎役者の市川右近丈,市川笑也丈及び市川喜之助丈と,お役に相応しい人選で固める。
スペースシャトル,機関銃の乱射,戦車の侵攻,迷彩服に木の枝を付けた兵士は登場しない。魔女は,三人官女,五人囃子でもゴラム風でもなく,あっと驚く演出はどこにもない。剣戟までない。あ,いちま人形は登場する。限りなくストイックで動きは様式的である。豪華なキャストにもかかわらず,役者を見せるという歌舞伎の王道からも背を向けている。
マクベスは野心だけ一人前の小心者,マクベス夫人はエキセントリック, マクダフは逃げ足速いそこそこの正義漢,ダンカンは善人,バンクォーはおめでたい蛮勇者。マルカムは秩序の回復者。跪きたいほど原作に忠実である。
今公演のキーパースンは秩序の回復者マルカムである。昨今のシェイクスピア演出は,この世のゆるんだたがを締め直すのがよほど気恥ずかしいのか,この役を,邪悪な若者や凡庸な平和主義者にしてしまいがちである。ハムレットのフォーティンブラス,リチャード三世のリッチモンド,リア王のオルバニー公,ジュリアス・シーザーのオクタビアヌス。喜之助丈は,気負わず原作と演出家に忠実にマルカムを演じ,物語を収めた。終わるまでどんでん返しがないか緊張したが,静かに終わった。
マクベスについて語り出したら際限なくなるので,本日はこれまで…。夏のメタル・マクベスまで時間はあるのでゆっくり考察しよう。

明日も明日も,また明日も
とぼとぼと小刻みにその日その日の歩みを進め
歴史の記述の最後の一言にたどり着く
すべての明日は,愚かな人間が土に還る
死への道を照らしてきた。消えろ,消えろ,束の間の灯火
人生はたかが歩く影法師,哀れな役者だ

出馬のあいだは舞台で大見得を切っても
袖に入ればそれきりだ
白痴のしゃべる物語,たけり狂うわめき声ばかり
筋の通った意味などない

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演劇」カテゴリの記事

コメント

ロシア劇団のマクベスみてきました。やっぱり、肉食べてる国と、米を主食にしてる国とは、「欲望」の描き方がちがうと思った次第。
家来(マクベス)が王(ダンカン)にいうおべんちゃら、いいですよ、あれだけ言っても、裏切るときは裏切るんだから、すごい、って、おべんちゃらがですが(^^ゞ。

投稿: 悠 | 2006年3月21日 (火) 23時43分

>ぼのぼのさま
ようこそ,拙宅へ。貴宅の丁寧な書き込み,ふむふむと拝見致しました。ディレクターズカットは図書館から借りて読みました。著者の深い洞察にふむふむと恐れ入った次第です。
フォーティンブラスやマルカム,リッチモンドをどのように出してくるか。いつも緊張して見ています。
ロミジュリを卑小な若者にしたり,ハムレットを鬱病にしたり,マクベスをただの恐妻家にする演出は,たまさかならよろしいですが,やはり,主人公に思い入れをもって見たいものです。
シェイクスピア人気は安定したもの。今年はどんなシェイクスピアにお目にかかれるか,楽しみは尽きません。
>ぴかちゅうさま
楽しく丁寧な記事,ゆっくり拝見しました。ぴかさまもワタクシと同じ雑食系ですね。西と東,情報交換がうまくできましたら,かなりの量をカバーできそうです。力強いお味方を得た気分です。よろしくお願い致します。

投稿: とみ | 2006年2月28日 (火) 01時02分

いろいろな方のブログでコメントされているのをお見かけしてこちらにも飛んでまいりました。私の感想をTBさせていただきます。シェイクスピアについてもいろいろと教えてくださいませ。今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m

投稿: ぴかちゅう | 2006年2月27日 (月) 01時40分

こんにちは、トラックバックをさせていただきました。

マルカムをキーパーソンとする見方、面白いと思いました。ただ僕は、これを見る直前にマイケル・ボグダノフの『シェイクスピア ディレクターズ・カット』という本を読んでいたため、ちょっと複雑な気分になりました。マルカムを「自らが王位に就くため、スコットランドをイングランドに隷属させた売国奴」とするボグダノフの見方は、一見うがってはいるものの、意外と反論のしにくいきちんとした論理に貫かれた意見だからです。
もちろん今回の芝居には、そんな視点は導入されていないのですが、やはりあれを読んでしまうと、マルカムとマクダフのやり取りを聞いて、複雑な思いにかられずにはいられませんでした。

また翻訳者の松岡和子さんによれば、「奴には子供がいない」という台詞は、傍白でマルカムのことを「奴には子供がいないから、そんなことを言えるんだ」と言っているようにも解釈できるそうですが、個人的にはそちらの方が個人的には好みかも。

それと「マクダフは逃げ足速いそこそこの正義漢」という形容には笑いました。鋭すぎます(笑)。

別発言ですが『シェイクスピア ヴィジュアル事典』僕も欲しいです。でもちと高すぎる…(ノ_・。)

投稿: ぼのぼの | 2006年2月27日 (月) 00時38分

>yayaさま
千穐楽のご様子のご披露お待ちしております。大騒ぎなさった一月,良い思い出になりますね。

投稿: とみ | 2006年2月22日 (水) 12時52分

とみさん、当ブログへご来訪頂きありがとうございました。
ウチは、ここのところ「マクベス」の記事ばっかり
何本あるんだーっ!!というところですので、
とりあえず、記念に?新潟初日報告トラばらせて頂きました。

明日の千秋楽でこの、てんやわんやもおさまります(笑)

投稿: yaya | 2006年2月21日 (火) 23時20分

>春華さま
コメントありがとうございました。心洗われる静謐なマクベスでした。
さて,貴宅に寄せて頂きました。おもだかやのご贔屓様は楽しげな方ばかり。これからもよろしくお願い致します。

投稿: とみ | 2006年2月21日 (火) 22時35分

楽しまれたようで何よりです。
素敵でしたよ。自分の心が無の世界に入っていけたし、
また能楽堂という素晴らしい場所での演技。どれを
とっても良かったです。
私も、『雪之丞変化2006』に遠征しますよ!!
こちらも楽しみですね。

投稿: 春華 | 2006年2月21日 (火) 08時19分

>はるきさま
凝縮された空間での濃い舞台でした。お衣装も素晴らしいです。目新しさや奇想天外なところはありませんが,きっちりと破綻のない舞台でした。栗田芳宏氏の舞台は見逃せないですね。
>恵美さま
大槻能楽堂は古いですから暗いです。ホワイエもないです。りゅーとぴあの絢爛豪華なシアターコンプレックスに行きたくなりました。名古屋も行ってみたいです。
恵美さまの情報のおかげで行く気になりました。ありがとうございました。

投稿: とみ | 2006年2月21日 (火) 00時03分

おとみさま
>能とシェイクスピアは近しい時代。
シェイクスピアについてはよくわかりませんが?大胆ですね ^^ 。
大胆といえば、二度もTBしてしまいました。
削除して、お許しくださいませ vv 。

投稿: 恵美 | 2006年2月20日 (月) 00時21分

おとみさん、こんばんわ。早速「マクベス」の感想をアップして下さったのですね。お待ちしてました♪

役柄の性格、演出のポイント等、ここまで簡潔にずばっとまとめて下さっているものは初めて拝見致しました。シェイクスピアを良く御存知だからこそこのように書けるのですね。
おかげさまで、腑に落ちたところ、舞台を思い出してにやっとしてしまったところ、色々あってとてもいい気持ちにさせて頂きました。

真っ当な役を気負わずに、真っ当に演じて下さる役者さんって、拝見していて清々しい気持ちにさせて下さいますよね。(喜之助さん…)

追伸。遅くなりましたが、拙サイトのリンク、有難うございました。

投稿: はるき | 2006年2月19日 (日) 22時17分

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