歌舞伎座二月大歌舞伎・夜の部
2月4日(土)歌舞伎座夜の部を観劇した。立春には振る舞いがあるかもしれないと聞いていたが,定刻きっかりに入場したので何があったのか分からない。
梶原平三誉石切
幸四郎丈の梶原は十年ぶりとか。石の手水鉢を切る眼目の場面は,客席に背を向けての形。刀も刀,切り手も切り手。このあと役者も役者と続くのだが,大向こうさんの声は聞こえなかった。いつも三階派の者としては,大向こうさんの掛け声が大きな楽しみになっていることに気付いた。珍しく一階席の観劇である。歌六丈の六郎太夫と幸四郎丈の梶原は,リアリティのある演劇風でバランスが良かったように思われる。
京鹿子娘二人道成寺
全盛の立女形玉三郎丈とそれを襲おうとする花の若女形菊之助丈の競演。二年前の初春大歌舞伎で実現した夢の演目が,この枠組みが変わらない今,再演となることはファンにとってうれしいかぎりである。振りの詳細や所化さんたちは,思い出しだし綴るとして,印象をまとめると,前回は,菊之助丈の白拍子花子という肉体を持つ娘に,玉三郎丈の清姫の怨霊が取り憑いて道成寺を訪れたというストーリーになっていたようにワタクシは見たが,より相似性が増し,妖しいイリュージョンの性格が強くなっている。玉三郎丈のこぼれるようなほほえみにきりっと緊張感のある菊之助丈が揺れ動く。可愛らしさ,清らかさ,華やかさ,あでやかさ,妖しさ。玉三郎が構築する美と菊之助丈が醸し出す美。美の範疇の全てがここにあると言い切ってよい。これを見ずして美を語るなかれ。
新幹線からの投稿どおり手拭いをゲッツ。帯取りと,鐘見の決まりを凝視出来ただけで幸福であったが,思わぬ余禄に春気分いっぱい。
人情噺小判一両
当代菊吉初演となる,六代目菊五郎丈と初代吉右衛門丈のために書かれた宇野信夫氏の新歌舞伎。軽妙洒脱で情に篤い元渡世人の菊五郎丈と,豪放磊落な感激屋の武士の吉右衛門丈。何気ないやりとりのなかに,武士と町人それぞれの生き方や矜持のあり方を問う良い噺である。あて書きに後継者がおられるということは喜ばしい。菊之助丈が演じられる日はあるのであろうか(爆)。
一月に気になっていたことの確認。最後の演目を見ず帰宅するのは,関西人か玉三郎丈の贔屓かという疑問に結論が出た。
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コメント
>ぴかちゅうさま
しがねえブログにようこそ。
道成寺談義はどこかでまた盛り上がりましょう。今月号の和楽が,玉様の道成寺特集です。
貴宅は情報量の豊富さ,一つ一つが粒だって,愛情溢れる記事が満載ですね。
ワタクシは上方に住まいしておりまして,どうしても観劇難民になってしまいがちです。しかし,物語の舞台には地の利ありますよ。曽根崎,生玉,天満,千日寺,堀江,鰻谷。昔日を偲ぶよすがもありませんが,メソッドは変われども歓楽街の伝統は生き続けております。
ええ,生まれは大阪の谷町,育ちは船場,生活圏は天神さんかいわいでした。文楽には血が騒ぎます。
投稿: とみ | 2006年3月 7日 (火) 18時14分
やっとTB成功しました。先日トライした時は全くうまく飛んでくれませんでしたので嬉しい~。よろしければTB返しお願いしますm(_ _)m
今日は文楽の方へ2本TBをいただき、ありがとうございました。私はどちらかというよりも舞踊よりも芝居が好きなので文楽はハマリそうです。
しかし玉三郎舞踊集のDVDを買ってしまおうかどうしようかというくらい今回の『道成寺』にはヤラレマシタ。夏のボーナスあたりが最後決断時になるでしょう。
「人情噺小判一両」は菊・吉へのあて書きだったんですね。それを当代が...うーん、話は暗いけれどやりとりは好きですよ、この噺。吉右衛門の破顔一笑の魅力も炸裂でした。
投稿: ぴかちゅう | 2006年3月 7日 (火) 00時02分
>かしまし娘さま
充実した2月をおくられたご様子。ただ一度の観劇でしたが,記憶は終生。手拭いとともに大切にしたいと思います。
二度見ることができましたら,劇の本質を極めた日と,役者の素を楽しむ日があれば良いのですが,思うにまかせません。どちらかといえば,楽屋落ち系より戯曲に忠実のほうかな~。
それにつけても玉三郎丈の鐘への恨みは凄まじかったですね。
投稿: とみ | 2006年3月 3日 (金) 22時49分
とみ様、まいど!
遅くなりましたが、TBさせてもらいました。
っていうか成功した!色んなところで失敗してるから、嬉しいっす。
これまた、遅ればせながら手拭GETおめでとうございます!
私は前5、6列目だけ盛り上がってて、チェッだった~。(12列目だったので)
「~小判一両」のコメント欄でなんやかやと盛り上がりましたです。また覗いてみて下さい。
宇野信夫作品、今度は違う物がみたいゾ!
でもって、私的2月大歌舞伎の金メダルは「幡随長兵衛」でしたっっ!!
投稿: かしまし娘 | 2006年3月 3日 (金) 13時24分
>観丸屋さま
大江戸の香りのする貴宅にお邪魔し,多角的な目でご覧になった記事を拝見しました。
ニフティのベーシックも日付をさかのぼって書けるようになるとか。怒り狂った演目など思い出して書き貯めておきましょう。よろしくお願いいたします。
投稿: とみ | 2006年3月 3日 (金) 00時58分
おとみさん
はじめまして。
TBありがとうございます。
手拭GETひたすらうらやまし…。
幸先良い春になりましたね♪
これよりちょくちょくお邪魔させて頂きます。
どうぞよろしく。
投稿: 観丸屋 | 2006年3月 2日 (木) 11時32分
手ぬぐいゲットされたのですね!
万年三階席の身には、うらやましい限りです。。。
「小判一両」、菊之助丈もいつかやるんでしょうか…(笑)
まずは歯切れの良い江戸言葉をマスターしていただかないと!
こちらからもTBさせていただきました~
投稿: ツチ子大夫 | 2006年2月15日 (水) 23時28分
>管理人Aさま
ようこそ拙宅へ
三階席でしたらお二方のシュプールが楽しめるかと存じます。どこから拝見しても美しいお二人に心が洗われます。この次拝見するときはどのような物語を編んでいただけるのでしょうか。
こまめに更新され,心温まる貴宅へも実は頻繁にうかがっております。今後もいろいろご教示くださいませ。
投稿: とみ | 2006年2月14日 (火) 18時48分
とみさま、遅れましたが、手拭いゲットおめでとう
ございます。
私も平成16年?の二人娘道成寺の時には手拭いが
膝の上に落ちてきたのですが、今年は三階席だった
ので、指をくわえて見ているだけでした。
しかも、その私の大事な手拭い。部屋に飾っていたら
家族が勝手に洗濯をして、ヨレヨレになってしまった
というオチがあるのです(涙)
玉三郎さん&菊之助くんの道成寺。ほんとうに美しさ
の結晶でしたよね! 「これを見ずに美を語るなかれ」
その通りだと思います。
投稿: 管理人A | 2006年2月14日 (火) 03時11分
>はるきさま
人情噺小判一両は陶酔感はありませんが,役者さんの仁を活かしてじんわりとくる演目でした。
はるきさまは,少しご無沙汰しているうちに立派になられて…。当方はリンクの張り方も,調べながらの超初心者,お声をかけていただき光栄です。まずは貴宅に寄せていただきます。
>スキップさま
菊五郎丈のとっつぁまはかっこいいですね。江戸っ子の心意気とはりがびんびん響くようです。吉右衛門丈の懐の深いお武家もたまりません。お声が良すぎます。昼の部の幡隋院長兵衛も見たかったと悔やんでおります。
投稿: とみ | 2006年2月 7日 (火) 12時49分
とみさま
お帰りなさいませ。
密度濃く充実の大江戸見参でしたようでうらやましい限りです。
玉三郎さんと菊之助さんの“娘二人”はそれは夢のように美しかったことでしょう。
私は菊五郎さんの渡世人役が大好き。これに武士の吉右衛門さんがからむなんて、も~たまりません。重ね重ねうらやましいことでございます・・・(笑)。
投稿: スキップ | 2006年2月 7日 (火) 00時31分
こちらにコメント致しますのは初めてですね、こんばんわ。
「二人道成寺」での手拭いゲット、おめでとうございます。
花道近くのお席でしたのでしょうか…?
「これを見ずして美を語るなかれ」に力強く頷きました。
続報、楽しみにしております。
「人情噺小判一両」も良さそうですね。菊五郎さんの演技が楽しみです。感激屋の吉右衛門さん…想像したら頬が緩んでしまいそうです*^^*
ところで、この場でお伺いしてよいことかどうかわかりませんが、私のサイトにリンクを貼らせて戴いても構いませんでしょうか?
投稿: はるき | 2006年2月 6日 (月) 22時05分