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2006年2月14日 (火)

野田地図第11回公演「贋作・罪と罰」

212日(日)OBPのシアターBRAVA!で,野田地図第11回公演「贋作・罪と罰」を見た。1995年にNODAMAP2回公演として大竹しのぶ氏主演で初演され,爆発的な人気を呼んだ舞台が,人気及び実力を備えた新キャスト及び両側に客席をしつらえた新演出により再演される。

キャストの概要は以下のとおり(敬称略)

三条英(さんじょうはなぶさ):松たか子,才谷梅太郎(さいたにうめたろう):古田新太,都司之助(みやこつかさのすけ):段田安則,溜水石右衛門(たまりみずいしえもん):宇梶剛士,妹・智:美波,母・清/老婆おみつ/将軍:野田秀樹,父・聞太左衛門:中村まこと

ドストエフスキーの名作『罪と罰』の世界を,幕末の江戸,主人公を倒幕の志を抱く女剣士に翻案し,崇高な志を持つ者が手段として行った犯罪が許されるかという,重い主題に真っ向から挑んだ感動的な戯曲。

1867年夏,江戸幕府はもはや断末魔。江戸の町も騒擾としていた。江戸開成所の女塾生・三条英も倒幕の志を抱いていたが,父を亡くし母と妹との暮らしは赤貧を極めていた。英は,鬱々としながらも,ある一つの考えが頭から離れない。「人間は,凡人と天才に分れ,天才はあらゆる法律を踏み越える権利がある。」。生活費と活動資金欲しさに,英は金貸しの老婆を計画的に殺害するが,偶然,目撃した老婆の妹まで殺してしまう。執拗に英を追いつめる捜査官・都司之助。予想に反して罪の意識は英を苛む。親友の才谷梅太郎は,それとなく英を支えるが,才谷こそ新しい発想で時代を変える大立役者であった。江戸城の無欠開城か,全面戦争か。混乱の中で,英は自らの意志で運命を選び取るが,才谷は運命に飲み込まれ落命する。

野田秀樹氏の演劇は後をひく。突然,あのときのあの台詞はそう言う意味だったのかと分かる。分かった瞬間涙がこぼれる。こうなったらもうすっかり変なやつである。

連続砲撃のような台詞。それも一組の会話でなく複数組である。意味を反芻している暇はないので,とりあえず頭の中に仕舞うしかない。このため,一言でも聞き漏らせない。

出演者は舞台袖に引っ込まず,それぞれのお役を生きている。だから,一瞬も目を離せない。

「音を立てて世界が崩れていく,というけれど,あれは嘘ね。音の方が先に崩れていくんだもの。」

「ひとつの命は,何万の志とひきかえにすることなどできない。」

「彼の方角と書いて彼方と呼ぶのよ。だから,おまえのいるところは,これからはいつも,あたしの彼方よ。」

主演の英を演じる松たか子氏は,きりっとしているだけでなく,艶やかな黒髪と透明な白い肌が美しい。熱い志を表すかのような深紅の衣装が映える。女に生まれた不自由を乗り越え,高い理想を実現するはずだった。

「今ほど,自分が正しかったと思ったことはない!」慟哭とも号泣ともつかない英の長い長い咆哮が続く。心が血を流す痛み。客席は涙も忘れて戦慄していた。

心が通い合う感動。運命に裂かれた思い。野田は観客を一瞬たりとも休ませない。

古田新太氏は,ほれぼれする格好良さ。ただし,剣はからっきしだめ。宛書きかと笑える台詞がある。迷宮美術館(欠かさず見てます!)の段田安則氏は明晰な台詞回しが,冷徹な官吏をきっちり表現。そして,野田さん。何も申し上げることはない。

次回も行かなくてはと思わせていただけた。

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コメント

>スキップさま
野田さんの演劇の良いところは,運命や因果により登場人物を甘やかさないところです。かといって,リアリズム演劇のやりきれなさや退屈とも無縁です。
桜の森の満開の下を楽しみに戯曲の予習でもします。

投稿: とみ | 2006年2月19日 (日) 18時20分

とみさま

2回観る、というのは最初から決めてチケットを買っていたのです。
両サイドから観たかったから。
観てますますよかったと思えました。時間が許すなら、あと何回でも観たかったです。今度は海老蔵さんの胡蝶蘭もばっちり見てきましたよ(笑)。

投稿: スキップ | 2006年2月17日 (金) 23時53分

>スキップさま
更なる観劇にチケットを入手なさる実行力に感服致します。
さて,「贋作・桜の森の満開の下」も長らく噂になっていましたが,いよいよ実現となると,何十回も頭の中で仮想上演したものを再確認するようになって,待ち疲れ感がございますかしら。
二度目のレポ楽しみにお待ちしてますね。
>かしまし娘さま
謝珠栄版拝見しました。レミゼラブル風の装置や演出も良かったですね。
ミュージカルは,四重唱や六重唱で,4~6人が違う旋律や歌詞を歌っていても聞き取れます。野田氏の戯曲を上演する形式としては優れていますね(笑)。
衣装も場面も役者も転換しないで,瞬時に違うお役に切り替わる演出は,癖になります。それでなかったら物足りなくなるくらい好きです。
ハドソン川も気になっているのですが,力尽きかけてます。また,勉強させていただきに帰宅にお邪魔します。

投稿: とみ | 2006年2月15日 (水) 19時16分

とみ様 まいど!
ミュージカル版のTBさせて頂きました!
謝珠栄と野田秀樹は旧知の仲だそうで、ミュージカル化の話にも「イイんじゃない」と軽い返事だったそうです。
”言葉遊び”の部分を壊さず、また壊しても”伝えたい事”を損なわずに創った。とも言ってました。
元祖はどんな演劇なのか、楽しみです!ってWOWOWで観るんですけどねぇ。

大阪は、「野田版~」とは違う場所で『BIGGEST BIZ~決戦!ハドソン川を越えろ~』も上演中ですね。
同じ人間が演るのに、ここまで違うもんかい!って作品ですよ。『BIGGEST BIZ』!

投稿: かしまし娘 | 2006年2月15日 (水) 17時11分

とみさま

相変わらず深い洞察と表現力にあふれた観劇記、じっくり読ませていただきました。
とみさんのご感想を読んでいると、「そうだ、そこも観なきゃ、あそこも聴かなきゃ」とまた改めて観たい思いが高まり、次回観劇(実は明日です)のモチベーションも大いに盛り上がりました。
野田秀樹さんは今度「贋作・桜の森の満開の下」を歌舞伎でやる、とパンフレットの蜷川幸雄さんとの対談でおっしゃっていましたが、どんなお芝居になるのか、そして配役も、楽しみですね。

投稿: スキップ | 2006年2月15日 (水) 00時50分

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» 彼の方角と書いて彼方と呼ぶのよ [地獄ごくらくdiary]
NODA・MAP 「贋作・罪と罰」を観ました。 野田秀樹の作品は、私の中で許容/拒絶の差が激しいお芝居ですが、これはかなり"許容”。 「超人には人類のために既成の道徳法律を踏み越える権利がある」のか、というテーマはとても重い。おそらく『死んでいい人間なんて誰..... [続きを読む]

受信: 2006年2月15日 (水) 00時39分

» 天翔ける風に 「贋作・罪と罰」より [バリバリかしまし娘〜まいど!]
トリノオリンピックに埋もれちゃならん!オススメ番組!”深夜劇場へようこそ” NHKBS22/13(月) 前0:55〜3:45(12日深夜) 『天翔ける風に』(2001年) 野田秀樹作『贋作・罪と罰』のミュージカル版奇しくも野田版が大阪で上演中。これで、TV放送の楽しみも倍増〜! 演出・振付=謝珠栄 作曲=玉麻尚一出演=香寿たつき 立川三貴 福井貴一 畠中洋 平沢智 ほか 今回放�... [続きを読む]

受信: 2006年2月15日 (水) 16時50分

» 絶叫の抒情 [こ・と・ば・言葉]
「罪と罰」野田地図@TV放映@録画、古田新太、松たかこ、宇梶剛士、段田安則他 と [続きを読む]

受信: 2006年4月 4日 (火) 02時13分

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