国立文楽劇場初春公演・鰻谷&妹背山婦女庭訓
7日(土),国立文楽劇場・初春公演竹本住太夫文化功労者顕彰祈念・夜の部を見に日本橋へ出掛けた。芝居の神様のご加護か,連れが来られなくなった方から,床に張りつきそうな良いお席を譲っていただき,耳の正月。投げられた手拭いまでゲッツ。浪速の春を堪能した正月であった。
桜鍔恨鮫鞘
【鰻谷の段】
鰻谷で入り婿として古道具商を営む元武士の八郎兵衛(吉田和生さん)は,主君のために五十両の金策に迫られ,家を長期空けていた。久方に戻ったところ,女房お妻(桐竹紋寿さん)は母と図り,夫に無断で新しい婿を迎えている。逆上した八郎兵衛は,女房と姑を惨殺のうえ自害しようとする。残された幼い娘が,泣きながら母の言い置きしことを語り始め,初めて真実が明らかとなる。
竹本綱太夫さんの語りは,野太い。しかし,幼い女の子がしゃくり上げながら母の真実を伝え,父を諫める段は悲劇が際立つ。金が仇。庶民に起きた惨劇は,救いも赦しもない。
妹背山婦女庭訓
【道行恋苧環】
太夫さん六人,三味線五台の華やかな大曲。人形もあでやかで,夜の部最大のエンタテイメント。求馬(吉田玉女さん・吉田玉男さんの代演),お三輪(吉田箕助さん),橘姫(吉田清之助さん)。浅葱幕が切って落とされる瞬間の効果は文楽の圧勝。瞬間的に幕は落下する。
十一月に続き初春公演も玉男さんはご休演。
求馬は,女形二人に比べ動きが少ない分,立ち姿にふるいつきたいほどの色香と清新さが求められる。求馬の人形は女の情念の憑りましやかたしろといったところか。
文楽では歌舞伎より更にお三輪の権利の主張は一途である。橘姫の応戦も姫の域を超えている。凄い凄いとあっけにとられ,至芸による耳と目の重奏攻撃に,説明不能の涙がこぼれる。これをおそらく滂沱と呼ぶのであろう。
橘姫と求馬が去ったあと,糸の切れた白い苧環を抱きしめキッとなるところの余韻は,観客をひれ伏させるものであった。
【鱶七上使の段】
鱶七は玉女さん。蘇我入鹿が登場してお花がぐにゃりとなる場面。前段で感動しすぎて沈没。
【姫戻りの段】
求馬さんと橘姫は黒子遣いさん。この場面の官女の首は美形。歌舞伎ならこの段の官女は真女形が,次の段のいじめの官女は立ち役さんが務めるが,本行の首をみて納得した。
【金殿の段】
いよいよクライマックス。太夫は豊竹咲太夫さん。鱶七は玉女さん,お三輪は箕助さん,豆腐の御用に桐竹勘十郎さん(ごちそう)。お美輪の首は「娘」で目が開閉する以外は表情がないはずであるが,物語のキーワードとなる凝着の相(嫉妬に燃える女の表情)に鳥肌が立った。手負いの時間は意外と長い。手負いが長いお芝居は個人的には嫌いだが,今度ばかりは,いつまでも続いて欲しかった。
手拭いは三番叟の図柄で,飴が3個(意味は?)結んであった。
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コメント
>かしまし娘さま
昼の部は文楽ならではの三番叟と卅三間堂棟由来が気になっていました。手拭いつかみも鰻谷でどよよーんとなった後より,三番叟で盛り上がった後の方がよいかもしれません。
そんな大騒ぎなのでしょうか。見たい!
投稿: とみ | 2006年1月21日 (土) 02時36分
おとみ様
なななんとぉ、手拭をGET~!羨ましいですっ!
どんな状況で掴んだのでしょうか?
私が以前、手にした時は、ポトッと落ちてきて、周りの人達がザザッッ!ガガッッ!バッ!ヨッッ!ハッッ!ギエッッツ~!って感じでした(笑)
飴が3個でしたか。私の時は1つ。想像するに、投げ易い。というか落ち易いからかな?な~んて。
あの…昼の部を観たんですけど…TBさせて下さい。
アホらしい内容なんで、突っ込みいれまくってやって下さい。
投稿: かしまし娘 | 2006年1月20日 (金) 11時33分
>ツチ子太夫さま
お二人のはまりぶりを楽しく拝見しています。
全くの初心者ですので勉強しながら楽しみたいと思います。東京大阪とも全公演を拝見しても3~4回。しっかり見られる日まで先は長いです。よろしくお願いいたします。
>ゆきよさま
11月の筍堀を見逃したのが今となっては残念です。
お忙しいことと存じますが,地の利を活かして文楽をお楽しみくださいませ。初春公演・昼の部も,文楽ならではの演目で興味は尽きません。
曽根崎は坂田藤十郎丈の熱演に沸いていますので,ますます争奪戦が厳しそうですね。あせらず,もし,見られたら感謝しょましょうということで…。
投稿: とみ | 2006年1月11日 (水) 20時52分
おとみさま
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
年明けから意欲的な舞台鑑賞の日々をお過ごしで、尊敬&羨ましい限りでございます。今月の文楽は日程的に時間が取れず、諦めておりましたが、ご感想を拝見しておりますと、やはり観たい気持ちがつのります。
>玉男さんはご休演
昨日東京に行きましたが、二月の東京公演に玉男さんのお名前がありました。しかも昨年プラチナチケットになった「曽根崎心中」です!!
投稿: ゆきよ | 2006年1月11日 (水) 01時19分
こんにちは。TB&CMありがとうございました。
文楽の初春公演を観劇されたのですね。
しかも手ぬぐいまでゲットとは…うらやましいっ!
「妹背山」はぜひ観てみたい演目の一つです。
レポを拝見して、ますます観たくなりました。
東京でも早く上演してほしいです!
こちらからもTBさせていただきました。
よろしくお願いします。
投稿: ツチ子大夫 | 2006年1月 9日 (月) 23時03分