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2005年11月 4日 (金)

春の雪

3日,珍しく浜大津アーカスシネマに出かけたのは,「春の雪」を見たかったからである。
三島由紀夫氏の原作をリアルタイムで読んだ世代としての妙な思い入れは捨て,妻夫木氏と竹内氏の貴種恋愛譚を楽しもうと走った。
前評どおり,映像がとても綺麗。妻夫木聡氏と竹内結子氏のコンビは映像的にとてもお似合いで眼福,眼福。
時代は大正元年。日露戦争に勝利し,次の戦争まで楽しんだ谷間の平和であった。貴族社会においても雅は力を無くし,力関係の再編が行われようとしていた。幼なじみの二つ年上の伯爵令嬢・聡子を慕う侯爵家の嗣子・清顕は,幼さから屈折した思慕の表現しかできないながら,約束された愛を育んでいた。
転機は些細なことから起こる。聡子を宮家に嫁そうとする父に,図らずも同意したことで,愛は禁忌となった。思いは燃え上がる。しかし,二人が歩いているのは道ではなく,果ては海へ転落する桟橋であった。
前半は,清顕の子供っぽい屈折と美への飽くなき探求との折り合いが,原作では後者にシフトしているが,妻夫木氏は,若者らしいもどかしさを好演。共感を得られる人物にまとめておられた。
後半は,原作では,雅に手痛い報復を受け,恋に殉死するところが,哀れさを誘うが,妻夫木氏は,内包する自らの熱さが我が身を焼き尽くすと表現され,好感が持たれる。
ただ,人物造形が一貫しているだけに,原作の持つ至高の美の残酷さが少し希薄となったことは否めない。
聡子の乳母である奥女中・蓼科役の大楠道代氏は,とてつもない曲者。凄い。

「春の海」は,三島氏の遺作「豊饒の海」の第一巻にあたる物語で,テーマである輪廻転生の伏線がぞくぞくする面白さなのだが,単体なので,やむを得ず割愛されていた。
四部作は,つかの間の平和の世に恋に戦死した青年,戦時に向かう荒ぶれた世に憂国に殉じた壮士,美し過ぎる肉体に魂を封じ込められたシャムの姫,見るべきもののない自意識過剰の青年といった,気高い白蓮或いは奔放な紅蓮の魂を内包した胚として,それぞれ短い20年の生を,4たび駆け抜ける。
第一巻で清顕の親友であった本多は,その輪廻転生の軌跡を追い続ける。

ともあれ,良い映画を見せていただき,心が洗われたことだけは確かであった。

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

TBどうもありがとうございました。
私は原作本をきちんと読んでいないので、とみ様の記事を拝見して、原作本にとても興味をもちました。
蓼科役の大楠道代さんは怪演でしたね。
若尾文子さん、岸田今日子さんも、さすがの貫禄で物語を引き締めていたように思います。

投稿: snowflower_001 | 2005年11月21日 (月) 00時43分

>austinさま
「世界の中心で,愛をさけぶ」で,いまをときめく行定勲監督に,なぜ潮騒でなく春の雪なのかたずねて見たい気がします。
捨てて欲しくなかった大きな原作の大きなテーマが,輪廻転生以外にもう一つあるのですが,R指定に避けたのでしょうか。
>るみさま
長いですよ。長さを感じないとは申し上げにくいです(^^ゞ。
友情に篤い親友,肝の据わったおばあさま,律儀な書生さん,素晴らしいキャラクターが多く登場しますので,ぜひお楽しみ下さい。

投稿: とみ | 2005年11月 5日 (土) 21時54分

蝉しぐれを見に行った時に、上映予定で流れていました。
予告を見てるだけで、なんだか心が苦しくなりました。
見ようかどうしようか迷っていましたが、とみ様の感想を読んで、とても見たくなりました。

投稿: るみ | 2005年11月 5日 (土) 19時07分

兄から譲り受けたのは二十歳のころだったろうか・・・「春の雪」三島由紀夫の本は、独特の雰囲気だった。
まさか今になって映画化されるとは思っても見なかった。
人間であるが故の悲恋。
凄まじい恋愛でしたね。

投稿: austin | 2005年11月 5日 (土) 13時38分

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» 明治生まれと恋愛は無理 [日々の糧EX]
飽きもせず、友人に誘われまた映画を見に行く。 ちょっと本当にどうかしているのかも [続きを読む]

受信: 2005年11月 5日 (土) 16時31分

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