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2005年11月 4日 (金)

天保十二年のシェイクスピア・大阪公演

10月30日日曜日,OBPのシアターBRAVA!。井上ひさし氏の戯曲「天保十二年のシェイクスピア」を,蜷川幸雄氏が,蜷川作品常連の俳優さんのオールスターキャストで上演した今年後半最大の話題作である。
原作の戯曲は,井上ひさし氏が『天保水滸伝』(下総の侠客の争い)の世界に,シェイクスピア全37作品を綯い交ぜ,換骨奪胎(分かりやすく笑える演出)して書かれた作品。
物語は天保九年の下総清滝宿に始まる。宿場を仕切る大親分・鰤の十兵衛(吉田鋼太郎氏)は,賭場をはじめ一切の権利を,三人の娘の孝心に応じて分与しようとしていた。邪悪な二人の姉(高橋恵子氏及び夏木マリ氏)は言葉巧みに父を籠絡し,宿を二分するが,三女お光(篠原涼子氏)は言葉足りず追放となる。家督も権力も手放した父はあっけなく滅び,長女の紋太一家と次女の花平一家の抗争が始まる。流れ着いた無宿人・佐渡の三世次(唐沢寿明氏)は好機に乗じ,宿の主になろうと虎視眈々と画策していた。
そして,三年後の天保十二年,女侠客として名をあげ舞い戻ったお光,父の死に復讐を誓う紋太一家の倅・きじるしの王次(藤原竜也氏),新しく着任した代官夫婦など役者がそろった。血で血を洗う抗争は,破局へ向かってひた走る。

シェイクスピア演劇を数多く懸けている蜷川氏の集大成といえるお祭りのような華やかな舞台であった。これまでの成功作及び失敗作を棚卸しのうえ,伝統芸能の手法をスパイシーに取り混ぜ,手堅く分厚く仕上げてあった。
蜷川作品の演出と見る側の心がけを整理してみる。
1 群衆の使い方が秀逸。隅々までチェック。
2 照明,装置,衣装の色調が美しい。
3 主題を分かりやすく日本人的感性に引き寄せる。
4 アイドルのパワーを信頼する。
5 客席通路を含め,劇場の内部空間を活用する。
6 開演前から既に物語ははじまっている。遅くとも15分前には着席。
7 物語のエンドレス性を重視。エピローグがプロローグにもどる。
8 重厚長大が得意。壮大な悲劇等が間違いないところ。
9 伝統芸能の手法のあからさまな引用に悪びれない。
10 評価の確立した自己模倣は避け,リスキーでも新しいことに挑戦する。
11 挿入曲は奇をてらわず共感が得られやすい作曲及び選曲

蜷川氏らしさがてんこ盛り。役者さん,観客,全ての者が心から楽しめた舞台であった。

プログラムの藤原竜也さんのページにうれしい記事が…。
七月歌舞伎座「NINAGAWA十二夜」で主演された尾上菊之助丈が稽古場に来られ,きじるしの王次役の藤原竜也さんに所作のアドバイスをなさったとか…。分かりやすすぎたが,しっかり喜ばせて頂いた。
ただ一つの心残りが,物語のキーアイテム(ネタバレ後日と致します。)の小道具が小さく,後方では分かりにくかったのではないだろうか。

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コメント

初めまして、こちらからもTBさせていただきます。

お祭り感満点で楽しい舞台だったと思い出します。
「もしも」の歌がふと口についてでてしまったりします。
シアターBRAVA!では、音響良かったんですね。
シアターコクーンは、音については満足できませんでした。

投稿: いわい | 2005年11月 8日 (火) 07時43分

コメント&TBどうもありがとうございました。
演出に対する考察、とても興味深かったです。
蜷川さんは本当に群集の使い方がうまいですよね。
うどんの具が関東と関西で違うなんて隅々まで凝っているというか、楽しんでる感じがします。
でも上方の方が値段が安いなんてズルイです(笑)

投稿: yukika | 2005年11月 7日 (月) 00時00分

おとみさま

こんばんは。スキップです。
「天保十二年のシェイクスピア」私も観てまいりました。
自分が見るまで読まないでおこうと楽しみにとっておいた
とみさんの観劇記、「見る側の心がけ」はやっぱり先に
読んでおけばよかったぁ、と思っています。

でもほんとに、内容てんこ盛りの楽しい舞台でしたね。

投稿: スキップ | 2005年11月 6日 (日) 22時48分

>snowflower_001さま
蜷川さんは,そのかみ,アイドルは観客の欲望の具現化と書いておられました。今,ワタクシは菊之助丈を使ってぇと呪文のように唱えております。
またシャイなのか,壮大な運命悲劇にしか見えないものを,どこの家庭でも起きる三面記事レベルとして見て欲しいなどとおっしゃいます。こーゆーところが素敵です。

投稿: とみ | 2005年11月 5日 (土) 21時18分

またお邪魔いたします(笑)。
今回の舞台は確かに、オールスターが勢揃いした、蜷川舞台の集大成ともいえるものでしたね。
役者もとっても楽しそうで、見ているこちらまで幸せな気持ちになれました。
蜷川さんと井上さんの「シェイクスピアを徹底的に遊び倒してやるっ」という意気込みも痛快でした。
とみさんがリストアップなさったことは、まったく同感ですが、
4の「アイドルのパワーを信頼する」って、実はとてもリスキーなことですよね。

投稿: snowflower_001 | 2005年11月 4日 (金) 00時35分

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